マイケル・ポラニー『人間について』中山潔訳
ポラニーの翻訳で読んでいなかったものをこのところまとめて読んでいて、本書もその一冊です。ただ、これについては『個人的知識』を読んでいるかぎりでは、特に新しいことはないような気がしました。本書はむしろ『個人的知識』への入門書として読むのもいいかもしれません。元来講演原稿のため、結構わかりやすくまとまっているからです。
しかし、「暗黙知」のはたらきについては、本書のほうがより整理された形で論じられていますので、やっぱりあらためて本にするだけの価値はあると思います。暗黙知という知のあり方に注目すると、ポパーのいっていることなんかでも、かなり底が浅いような気がしてきます。
ポパーの議論では『歴史主義の貧困』で言われていることが、ここでも触れられていて、合理主義者、相対論者、決定論者がそれぞれきっちりと論駁されています(90〜93頁)。本書ではここのところが一番衣裳に残りました。
それにしてもそもそも言語化しづらい知のはたらきに注目して、これを言語化しようとする著者の試みは、当時の英米圏ではかなり孤独な戦いを強いられていたのだろうなと想像します。著者の他の本と同じく本書中にも経験論者の過激な連中からの批判に答えようとしているところが出てきますが、論理にうるさい連中であるだけに、おそらくかなり大変だったことでしょう。
本書では経験論が「経験主義」と訳されていて、ちょっと戸惑いました。訳語も同じ版元から出ているポラニーの本でそれぞれに違っているのは困りますね。同じ編集者のはずなので、もう少し調整してほしいものです。
(ハーベスト社1986年1100円)
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