土屋賢二『幸・不幸の分かれ道―考え違いとユーモア』
本書は著者のユーモアエッセーと哲学がバランスよく配合されたいい本です。以前から著者のエッセーの独特の論理のずらし方にはイギリスの自分をこけにして笑ってみせるユーモアのセンスが感じられて、只者ではないとは思っていましたが、哲学を読んで初めて著者の哲学とユーモアの間にも密接な関係があることがわかりました。本書はその総合のような感じですね。
著者は本書が二本の柱からなっていると言います。一つは「綿密な思考」、もうひとつは「ユーモア」です。ウィトゲンシュタインとアリストテレスに示唆を受けつつ、著者が哲学的にこの境地にたどり着いたということもわかります。東大法学部から文学部にテンブしてこういう境地に達した人というのは著者くらいのものではないでしょうか。そのことも本書に出てきます。
著者のセリフで気に入ったのは、次の箇所です。
「哲学の勉強をしていて一番よかったと思うことは、人間はみんな、基本的に愚かだと分かったことです」(16頁)
そういえばソクラテスからしてそんなことを言っていましたから、これは立派な哲学的伝統を受け継いだ発言ですが、今日の知識人なんかは自分だけは例外だと思ってしまいがちです。思い上がってしまいがちなのです。そして、そんな人が職場の空気だけではなく、世の中全体をも悪くしているように思えてきます。
そんな落とし穴に陥らないためにも本書は一種の解毒剤の役割を果たしてくれると思います。
イギリス人のユーモアについて書かれたところなんか、実に面白かったのですが、他にもユーモアもいっぱい散りばめてあります。本書の最後の頁にも「本書は書き下ろしです。ご安心ください」と書いてあります。帯には「懇親の書き散らし」とありますし。最初から最後まで笑えますが、中身は真面目な哲学も十分読みやすい形で展開されています。お勧めです。
そういえば、先日私も同僚と共に科研費の申請書を提出したのですが、本研究の期待される成果は何かという問いに答えて、「人間の愚かさがわかる」と本当に書いておきました。これで通るとしたら、審査員はかなり懐の深い人だと思います。あるいは土屋賢二ファンかもしれません。
(東京書籍2011年1300円税別)
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