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2011年11月17日 (木)

渡辺保『忠臣蔵―もう一つの歴史感覚』

怨恨に基づく集団テロ事件が、日本人の心に訴えかける国民的ドラマとして成長していった過程を見事に描き出した名著です。仮名手本忠臣蔵が作者、役者、観客が一体となって相互に影響を及ぼしあいながら創り上げられていったことがよくわかりました。

それにしても著者は歌舞伎の世界を、江戸時代から役者の評判記が残っていることもありますが、まるで観客席に居合わせたかのように描いていて見事です。また、当時の役者のスキャンダルやゴシップの追いかけ方も週刊誌の記事のように読ませてくれます。式亭三馬の忠臣蔵への複雑な愛情の記述も面白かったです。

そして、こういう筆力をもった人だからこそできたことだと思いますが、著者はこの分野の学者が通説としている近松門左衛門中心の史観をひっくり返す祐田善雄の説を支持することができるのでしょう。

「祐田説を信じれば、すべての解説書は書き換えられるべきであり、もし信じなければ、その反論が述べられるべきである。そういうことが起きないのは、祐田善雄にとって不幸せであるばかりでなく、吾妻三八にとってもまた不幸せなことである」(43-44頁)

歌舞伎研究の世界でも、学者たちはすぐ徒党を作り、大家の意見を丸呑みにしてすましているようですね。なんだ、どこでもいっしょか、という感想を持ちました。もっとも、本書刊行当時の昭和56年とは事情も違ってきているでしょうけれど、変わっているとしたら、それは大家の代替わりが行われたからにすぎないのではないかと邪推してしまいます。ま、どうでもいいことですが。

学者が馬鹿なことを書き続けていてくれているからこそ、こうした優れた一般書の存在意義もあるわけです。記者クラブの新聞記者が取材にも行かなくなてきたご時世だからこそ、フリーのジャーナリストが活躍できる余地が広がっているという状況とも似ているかもしれません。どの世界でも阿呆に与せずましてや伍しない戦略が必要になりますね。

(中公文庫昭和60年420円)

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