上野玲『うつは薬では治らない』
わが国では年間自殺者が3万人を超えて13年目になりました。本書の著者も13年うつで苦しまれています。うつと長くつきあってきた著者だけに本書は説得力があります。
そもそも、うつが医学的にまだ何も解明されていないに等しいとは知りませんでした。巷間でセレトニンが足りないとか何とか言われているのも仮説にすぎなかったんですね。おまけに薬の副作用もかなり危険な場合があります。本書にはそのあたりの事情がきっちりと書かれています。
私の場合は今までのところ幸いにもうつとは縁がなくてすんでいますが、いつなんどきそんな状況になるかわかったものではありません。ただ、昔の教え子で「死にたい」と言うのがいて長電話に毎日のようにつきあわされたことがあります。卒業してからも何か壁に突き当たると電話してきました。
本書を読んでみると、その学生の精神状況と重なるところがかなりあることがわかました。あのときとにかく親身に話を聞き、しかし甘いことは言わずに接したのは悪くはなかったようです。
もう一つ、うつに関してはハンガリーの法哲学者で46歳で自殺したショムローのことが長年気になっていました。遺された日記なんかも読んでみましたが、彼もうつだったのかもと考えると、ちょっとわかってくるところがあります。
というわけで、うつと無縁できた私でも、本書にあらためて教えられることで、ものの見方、人の見方が広がります。うつ患者への接し方の心得を参照できるレファ本として身近なところに置いておきたいと思います。学校の先生にとっては必携です。
それにしても、長年うつの状況にありながら、多くの患者さんや医師に取材し、本書をまとめ上げられた著者には本当に感服します。
(文春新書2010年780円+税)
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- ドイツ語で読む珠玉の短編(2026.06.23)
- 山本七平『小林秀雄の流儀』(2019.07.28)
- 田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』(2017.02.20)
- 天外伺朗『宇宙の根っこにつながる生き方 そのしくみを知れば人生が変わる』(2017.02.19)
- 柴田昌治『「できる人」が会社を滅ぼす』(2016.12.30)
この記事へのコメントは終了しました。


コメント