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2012年2月10日 (金)

マーク・ブキャナン『人は原子、世界は物理法則で動く 社会物理学で読み解く人間行動』阪本芳久訳

『複雑な世界、単純な法則』のあとに出された本です。複雑系やネットワーク科学に造詣の深いサイエンス・ライターが社会科学における先端科学の有効性を探った本です。

人種差別や民族虐殺のような悲惨な出来事の背景にどんな力が働いているのか、という問題意識から出発し、そこに社会物理学的な組織化の過程を見出しています。行動経済学や社会心理学の近年の諸成果も巧みにに取り入れられていて勉強になります。

語り口が平易で、話の展開も上手ですが、ちょっと引っ張りすぎのところがあります。冒頭でニューヨークの犯罪がかつて劇的に減少した例を挙げて、その原因を考えさせようとしますが、これに関しては結局その答えが明示されないまま終わってしまいました。

社会物理学というのはまだ、十分な法則性が見つかっている分野ではないからですが、期待を持たされた分だけ、え、これだけ、という気にさせられます。著者はあくまでライターで、自分で研究していることではないので、そのあたりは限界かもしれません。ただ、まとめている先端科学の実験例などは実に興味深いものがあって、今執筆中の本にも参考文献として挙げておきたいと思います。授業でも大いに使えそうです。

ところで、著者はナチスやボスニアのムスリム虐殺については触れますが、アメリカの数々の悪行について一言も触れていないのはお見事で、いっそ爽やかなくらいです。しかし、そうは言ってもやっぱり「なに言ってんだい」って気にはなります。ちらっとでも触れておけばいいのに。

(白揚社2009年2,400円+税)


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