ニール・ジョンソン『複雑で単純な世界 不確実な出来事を複雑系で予測する』
ワールドロップの名著『複雑系』(新潮文庫)以降の複雑系科学の進展状況がよくわかる本です。題名に著者の言いたいことが集約されていますが、これまでの科学では複雑すぎて手がつけられないと思われていた現象が、スーパーコンピュータの発達で、妙な規則性が見出されるようになったのが。そもそもの始まりでした。
FX取引や金融市場、ガン細胞、交通渋滞など、様々な身近な出来事が、見方によっては時折不思議な規則性を示したりします(「秩序ポケット」といいます)。そこで、その規則性をもとに予測ができれば、問題の解消につながるのではという期待が当然出てきますし、実際に精密な理論と計算によって、この現象に対するアプローチが可能なところまで来ていることがわかります。
ただ、本書を読んでもまだ、いいところまで来てはいるものの、問題を解決するところまでは来ていないという印象は残ります。というのも、いくら精密に計算を重ねても、あくまで現象のシミュレーションとしての精度が増すだけで、現象に対しては近似値にとどまるため、これをもってどこまで問題の解決がなされるかはまだわからないからです。
いい線行っているんだけど、え、これだけ? というところもちょくちょくあります。それと、問題の設定自体が間違っていたりすると、壮大な無駄話になるような気がしないでもないのです。定員30名のこじゃれたバーに行くか自宅にとどまるかという選択肢から議論が始まったりすると、ほかの選択肢を考えたくなったりします。
もっとも、これは明るいアメリカ人向きの科学でもあり、今後もこの分野には全米中から優秀な知性が集まってくると思いますので、私としても注目はしていきたいと思います。翻訳はこの手の本ではいつも見事な訳文を紡ぎ出してくれる阪本芳久氏です。この人、すごいですね。
(インターシフト2011年1900円+税)
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