« 小幡績『すべての経済はバブルに通じる』 | トップページ | ヴェルナー・ゾンバルト『恋愛と贅沢と資本主義』金森誠也訳 »

2012年3月23日 (金)

カール・ポラニー『大転換—市場経済の形成と崩壊』吉沢英成、野口武彦、長尾史郎、杉村芳美訳

本書を読むのは4度目くらいです。ポランニーの邦訳の中では本書がいちばんきっちり翻訳されているとう印象です。「訳者あとがき」にもあるように、翻訳作業は訳者四人による訳稿輪読・討論を重ねながら進められたそうですが、それだけのことはあります。

これにより、ポランニーの原文自体がそもそもかなり曖昧で思わせぶりなところが多いということがわかります。と同時に、このキャッチフレーズ作りのうまい、天性の扇動家的な部分がよく伝わってきます。近くにいた人たちは彼の言動に振り回されて、さぞかし大変だったことでしょう。

しかし、アジテーターというのは時代の空気を読むのに長けていなければ始まりません。ポランニーはその点で当時流行の雑多な思想を吸収しながら、独自の勘のよさによってそれらをつなげて見せました。市場社会の崩壊とその先まで見通したかのような表現は、おそらく本人としては天の啓示を受けたような興奮状態で執筆していたのでしょう。

こんな感じです。

「われわれは、諸国家の内部に、経済システムが社会を支配することをやめ、社会のほうが経済システムに対して優位にたつことを保障するような一つの発展を目撃している。これは、非常に多様なかたちで、すなわち、民主的・貴族的、立憲的・権力的な方法で、あるいはおそらくいまだまったく予知することさえできぬ形態で生ずるかもしれない。(中略)つまり、市場システムはもはや原理的にさえ、自己調整的なものではなくなるであろう。というのは、市場システムは労働・土地・貨幣を包含しなくなるであろうから」(336頁)

マネー経済が拡大しきったかに見える今日において、ポランニーが示唆する方向で考えてみるのも悪くないと思います。暴走した市場経済があるとき突然に、あるいは音もなく徐々に社会の中に組み込まれることになるとしたら、それはそれで歓迎すべきことですから。

ただ、この方向でものを考えるにしても、あくまで方向しか示されていないのもまた、彼のテクストの特徴です。悪くいえば言いっぱなしですが、それは預言者的キャラクターの特徴ですから、読者としては、そうかもしれないなあと思いながら、今日の経済状況を眺めていると、この「預言」が真実みをおびることになるかもしれません。

ポランニーの預言は、頭の片隅に置いておいても損はないと思います。たぶんこれから十分のお釣りが来るでしょう、などと預言者めいたことを言ってみたくなりますが、これも本書の毒にあてられたせいでしょうか。

(東洋経済新報社1975年3200円+税)

|

« 小幡績『すべての経済はバブルに通じる』 | トップページ | ヴェルナー・ゾンバルト『恋愛と贅沢と資本主義』金森誠也訳 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。