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2012年5月30日 (水)

トッド・バーポ、リン・ヴィンセント共著『天国は、ほんとうにある 天国へ旅して帰ってきた小さな男の子の驚くべき物語』』

虫垂炎が悪化し、生死の境をさまよった4歳の男の子が無事回復したとき、天国に行って帰ってきた話をするようになります。そこでは神やイエスに会い、曾祖父やかつて流産でなくなった姉にも会います。

こういうことって、あるんですね。無邪気に見てきたとおりに語られると、天国もあるんだろうなと思わされます。それならそれで、今このときをいつも大切に生きなければいけませんね。また、あの世も死後の魂も否定する人なら、なおさら今生きているこのときを大切にしなければならないので、あの世について考えることはどう転んでも人生にプラスなります(ということは近日刊行予定の拙著『権力の社会学』にも書いておきました)。

さて、この子のお父さんは牧師さんですから、男の子の語る天国と聖書の記述との符合がいたるところに出てきます。それはそうとして、非信徒の人にとってはイエスは出てくるのかどうか、日本人としては興味があります。

浄土真宗では阿弥陀如来が門徒をあの世へ抱きかかえるようにして連れて行ってくれると教えていますが、どうなんでしょう。私の場合はイエスにもお会いしたいのですが、そのときになると阿弥陀さんが迎えに来てくれそうな気がして仕方ありません。

ま、こういうことは実際に死んでみなければわかりませんが、この子によれば、天国でも人びとは剣や弓を持ってモンスターと戦い、最後には勝利するのだそうです。天国って幸せなばかりの場所でもないようで、妙に感心させられました。

印象深かったのは、この男の子がイエスの十字架上での死についてこう説明するところです。

「えっとね、イエスが言ってたけどね、イエスが十字架の上で死んだのはね、そうすればぼくたちがイエスの父さんに会いに行けるからだよ」(190頁)

これには牧師の父もびっくりで、この子のセリフは「私がこれまで耳にした中で、一番わかりやすく、一番やさしいイエスの教えだった」(191頁)と言わせています。

また、この子の両親は息子の経験から次のようなことを学んだと言います。

「強くいること、自分以外の人を祝福することは、もちろん良いことだと思う。だけど、弱くなることにも価値があると学んだのだ。自分たちのために誰かにたくましくなってもらうこと。自分たちのことを誰かに祝福してもらうこと。それは、結果的に、その人たちを祝福することにもなるのだから」(252頁)

なるほど。苦労した両親だけのことはあります。確かにこれは大切なことですが、自助努力の国だけに、なかなか気づくのが難しいことでもあります。みんなこれに気づいて楽になりましょうよ。

(青志社2011年1500円+税)

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2012年5月29日 (火)

三浦しをん『ふむふむ おしえて、お仕事!』

16人の女性仕事人のインタビュー集です。職人気質の魅力的な女性ばかり出てきます。靴職人ビール職人染織家活版技師女流義太夫三味線漫画アシスタントフラワーデザイナーコーディネーター動物園飼育係大学研究員フィギュア企画開発現場監督ウェイトリフティング選手お土産屋編集者の15職業16人です。

女性の現場監督なんているんですね。そういう女性を雇っている前田建設はきっと間違いなくいい会社です。皆さん各章の扉に肖像写真付きですが、いい表情で写っています。それぞれ自身の職業が好きで、活き活きと働いているからでしょう。

そういう女性たちの魅力を引き出した三浦しをんも立派です。思えば著者はいろいろと綿密な取材を重ねて作品世界を作り上げるのが得意な人ですから、インタビューはお手の物でした。またここから将来面白い作品が生まれてくることも期待できそうです。

こんなに楽しそうに仕事をしている人たちがいるということは、男女に限らず、できるだけ多くの人々に知ってもらいたいと思います。今どきの進路に悩む高校生や大学生たちにも是非お勧めしたい本です。

(新潮社2011年1300円税別)

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2012年5月28日 (月)

佐々木高政『英文構成法』

英作文の定評ある教科書です。英語が不得意なので一から勉強するつもりで読み始めました。読み終わったわけではありませんが、非常によくできた本ですので、先に気がついたことをアップしておきます。

現在英語でエッセーを一本書かなければならないこともあって、ちょっとずつ進めているのですが、それはそれとして、将来的に英語で本を書きたいと思っています。しかし、現在の私の英語力は英検2級止まりなので、これは基本からしっかりやり直さないと使い物にならないと思い、先日ALL IN ONEを終えて、本書に移りました。

本書は英文を24の文型に分け、シンプルで明快な英文を書くことに意を尽くした解説と練習問題からなっています。最初の練習問題をやってみましたが、これはかなり歯ごたえがありますし、本当に力がつくと実感します。

1冊仕上げたときに自分の英語力がどうなっているか楽しみです。そのときまた感想を書きます。

(金子書房1973年五訂新版1,784円+税)

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2012年5月26日 (土)

三浦しをん『木暮荘物語』

今にも倒れそうな木造のおんぼろアパート「木暮荘」の住人や周囲の人びとをめぐる物語です。恋愛というより、性愛がテーマになっている短編連作です。それぞれの登場人物が重なって、バラエティに富んだ物語が交錯しながら展開するのは上手いなあと思います。

ただ、私は性がテーマになると苦手です。昨日読んだ西加奈子の小説にも性の話は出てきますが、全体がすごみのあるリアルな話なので、そういう場合は気になりません。しかし、この作品の場合、何か違和感というか、引っかかりを覚えます。登場人物の中の並木君の行動にとりわけ嫌悪感を覚えました。

そういえば、奥田英朗の『ララピポ』なんかも気にならなかったので、やはり、作家の性に対する感覚との相性の問題かも知れません。ましてやこの作品のように正面から性をとりあげるのはなおさら大変だと思います。

結局リアリティの問題なのかも知れませんが、この種のことが気にならない人にとっては、よくできたエンターテインメントとして読めると思います。登場人物の女子大生が、友人が産んだばかりの赤ん坊を1週間世話する話は結構泣かせてくれます。

(祥伝社平成22年1,500円+税)

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2012年5月25日 (金)

西加奈子『地下の鳩』

人生の裏街道で懸命に、うごめくように生きている人びとが登場します。物語は元イケメンのキャバレーの呼び込みと、自分の求めるものが何だか分からない大食漢のとっぽいチーママのあまりにも痛すぎる恋愛の話と、小学生時代にひどいいじめられ方をしてトラウマになっているオカマバーのママの話が重なりながら進行します。

舞台が大阪の上本町から谷町あたりで、その付近は仕事でよく行くこともあって、情景が目に浮かびます。この世界のことをここまで描ききるのは並大抵の筆力ではありません。怖いくらいすごいです。でも、登場人物の健気さが伝わってきて、読み終えた後には「いい話を聞いたなあ」という気持ちになります。

それにしても、オカマバーの世界の描写は取材などもしたんでしょうかね。微に入り細に入りという感じです。さらに、ママのミミィのお客さん観察眼の鋭さには驚かされます。物語はしかし、それをも上回る展開が仕込まれていて、さらに驚かされます。

この強烈な存在感を追った主要登場人物たちのその後が気になります。架空の人物にもかかわらず、幸せになってもらいたいと祈りたくなるくらいです。作者は相当愛情を込めて彼ら、彼女らを描いているのでしょうね。

(文藝春秋社2011年1200円+税)

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2012年5月24日 (木)

三浦しをん『舟を編む』

いい小説です。おすすめです。
タイトルは、国語辞典を言語という大海を渡る舟にたとえて「舟を編む」というわけです。

『大渡海』という国語辞典を15年がかりで完成させる編集者たちの群像が見事に描かれています。

物語の展開もうまくて、涙腺刺激ポイントも何箇所かあります。いつもの「しをんワールド」ですが、この作品では辞書が完成するまでに15年の時間がたつところが、うまく物語に活かされています。

著者は、できすぎた話になるスレスレのところで作品にリアリティを持たせるのが本当にうまいですね。登場人物のキャラクターもはっきりしていて、どこか安心して読むことができます。

本書の帯とカバーを取った本体の装丁に漫画がそれぞれの印象的なシーンのコマ割りのようにして描かれていて、作品世界をもう一度楽しめるようになっています。本書を作った人たちの気持ちも伝わってきます。

辞書づくりという地味な世界がこんなにいい話になるとは思いませんでした。「本屋大賞」第一位というのも納得できます。

(光文社2011年1,500円+税)

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2012年5月23日 (水)

上橋菜穂子『夢の守り人』

「守り人」シリーズ3作目。ますます面白いです。夢がテーマです。世界にあまねく存在するスピリチュアリズムの世界観とも重なります。それがこんなに手に汗握る物語になるとは驚きです。フロイトともレヴィ=ストロースともしっくりくる世界です。オーストラリアや沖縄での野外調査の成果とも共存できる著者の想像力ですが、決して理屈っぽくありません。

物語のクライマックスでは登場人物の心の闇の世界がリアルに浮かび上がるところがあり、どこか世阿弥の能のシーンが彷彿とさせられます。しかし決してそういうものを意識して作られた話ではなさそうで、むしろ作者の想像力がわが国の民族的想像力の伝統に自ずとシンクロしたのではないかと思われます。

世阿弥の作品世界の凄さがこんなところに花開いていたとは意外でした。そういうのって、わが国のほとんどの研究者がちんぷんかんぷんな(しかし、ふつうの人ならよくわかっている)演劇的想像力なのです。

著者は大学の先生でもありながら、こうした作品世界を作ることができる希有な才能の持ち主です。芸術を研究している大学の先生なんて芸術音痴ばっかりと思っていましたが、例外もあることがわかりました。ま、イギリスにはC.S.ルイスというとんでもなくすごい人がいましたけれどね。

本シリーズは英訳もあるそうです。著者の作品が世界に知られるのは実に嬉しいことです。私の教え子のハンガリー人翻訳家にも是非ハンガリー語に翻訳するよう勧めるつもりです。

(偕成社2007年、軽装版900円+税)

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2012年5月22日 (火)

高山英士『ALL IN ONE』

英語のブラッシュアップにいい本です。ようやく文例をすべて読み終えることができました。内容はオーソドックスで、語彙や文法、読解、作文などが一冊に詰まっているので、便利といえば便利です。

ただ、文例を全部読み通すのにはそれなりの時間がかかることは確かです。暗記したらもっといいのでしょうけれど、とりあえず私の場合は、覚え損なっている語彙や表現を再度チェックして、当面の課題である英作文力の増強に努めたいと思います。(それでも、付録に音源が入っていますので、有効に活用したいとは思っています。)

というわけで、次は名著『英文構成法』か『和文英訳の修業』にとりかかるつもりです。やっぱり基本からということで、前者から行きますか。将来、英語で本を出すくらいの勢いでやります。

(Linkage Club, 2007年 1980円+税)

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2012年5月18日 (金)

トクヴィル『アメリカのデモクラシー』第1巻(上)(下)松本礼二訳

長い間読まなきゃと思いつつ放っておいた本ですが、ようやく読みました。まだ後下巻上下の2冊ありますが、ここまでで気がついたことをまとめておきます。

ミュージカル映画に「パリのアメリカ人」というのがありますが、アメリカのフランス人といいましょうか、歴史と伝統の重荷を背負ったフランスの知識人から見たアメリカ論です。フランス人の目に映るアメリカというのはもうほとんど異文化を見ているような感じですが、それがまた日本人の目には新鮮に映ります。

トクヴィルはアメリカが、宗教を基礎にした平等と自由を上手くミックスさせ、民主制社会を形成していると見ています。王や貴族が存在せず、平民が自分たちで意見調整しながら新たな活力ある国家を作りつつあることを活写しています。

アメリカにはヨーロッパ大陸にある意味での「行政」や「統治」というものが存在しないことと、その代わりに法の支配を徹底させていることがうまくとらえられています。公務員の社会的評価が低く、相対的に給料も安いというのは現代でもまだ生きています。アメリカの公務員は最低賃金ですもんね。

ヨーロッパでは教養もある貴族が役人を務めることが多かったこともあって、それが利権獲得と保身に汲々とする役人天国を生み出しがちだったこともしっかり指摘されています(この点、同じ役人天国のわが国も同じですが、貴族ではなくて学校秀才ですが)。アメリカのやり方は役人にお金も過大な権力も持たせないことで、結果として民間の活力を最大限活かす世の中を形成することに役立っているようです。これは良い知恵です。トクヴィルは言います。

「民主政治は国民にもっとも有能な政府を提供するものではない。だがそれは、もとも有能な政府がしばしば作りだしえぬものをもたらす。社会全体に倦むことのない活動力、溢れるばかりの力とエネルギーを行き渡らせるのである。こうした活力は民主政治なしに決して存在せず、それこそが、少しでも環境に恵まれれば、驚くべき成果を生む可能性をもっている。この点にこそ民主主義の真の利点がある」(下)136頁

他にも昔から大統領選挙に熱中する国民の様子や、何かにつけて法律的議論で決着を図ろうとする思考=行動パターン、あるいはヨーロッパでは恥とされるような露骨な拝金思想など、今も変わらないアメリカ的要素がうまくとらえられています。比較文化論の名著ですね。

要するにアメリカは大きな島国なのかも、と考えたりしますが、このことについては2巻上下について書くときに触れたいと思います。

(岩波文庫2005年上巻900円+税、下巻940円+税)

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2012年5月14日 (月)

上橋菜穂子『闇の守り人』

面白いです。物語世界が周到に作り込まれていて、感心させられます。食べ物とか衣類とかまで細かく描写されて、リアリティがあるのが不思議です。話の展開も見事で、根強いファンがいるのも道理です。

本書は「守り人」(もりびと)シリーズの第2巻目にあたりますが、これはもうどうしても10巻+短編集まで読み切らなければ気持ちがおさまらなくなってきました。

物語の舞台は架空のアジアっぽい国ですが、これが諸外国語に翻訳されたら、広範な読者を得ることになるんじゃないでしょうか。日本在住のハンガリー人で、日本文学をハンガリー語に翻訳している友人にも勧めてみようかと思います。

ハンガリーでは例えばフィンランドの作家ミカ・ワルタリによる古代ギリシアを舞台にした大人気小説が翻訳されたりしているので、案外需要が見込めるような気がします。ワルタリなんて聞いたことないでしょう? 私も昔ハンガリー語訳をプレゼントされて知りました。今も本棚に飾ってあります。分厚い本のため、ついつい読まないまま20年ほどたってしまいましたが。

細かい感想を書くと、ネタバレになってしまいますので、これくらいにしておきます。しかし、主人公のバルサ、実にかっこいいですねえ。

(偕成社1999年1500円+税)

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2012年5月13日 (日)

上野玲責任編集「ケサランパサラン」創刊号

上記ウェブマガジン創刊のお知らせです。
記事はもとより、写真もgoodです。
ご購読の方、よろしくお願いします。

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広告に頼らず、硬軟取り混ぜて、「知的な大人の新しいメディア」であるWEBマガジン「ケサランパサラン」のパイロット版(つまり、見本)が無料公開中。20日配信開始の2号はさらにパワーアップ(アーカイブ方式をとるので、1号も見られます)
6月5日配信号からは、課金システムに移行して、1号分のダウンロード代金は450円(税込み)。月に2回配信ですから、1カ月2号分買っても900円。クレジット決済で、PC、タブレット(Mac、android対応)、スマホでも読めます。
どうぞ、多くの方へ情報拡散をお願い致します。
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ケサランパサラン|自由な大人が自由に届ける。つくる人のウェブマガジン
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自由な大人が自由に届ける。つくる人のウェブマガジン


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2012年5月11日 (金)

米原万里『旅行者の朝食』

「旅行者の朝食」というのは旧ソ連のひどく不味い缶詰のことだったんですね。美食家で健啖家だった著者の抱腹絶倒食物エッセーです。饅頭75個をペロリと平らげた胃袋の持ち主だったお父さんの遺伝子を受けついでいたのでしょうね。ご本人も同じものを23個食べたそうですから、やはりすごいです。

古今東西の食物にまつわる蘊蓄も大変なもので、中でも、ウォトカのアルコール度数は40度がベストだというのは覚えておきたいと思います。それにしても話題の豊富さは「忙しくて毎日7冊しか本が読めない」とぼやいていた人だけのことはあります。毎日すごい勢いで食べて読んで書いていたんでしょうね。

本書中の「トルコの蜜飴」すなわちTURKISH DELIGHTですが、いかにも美味しそうなお菓子です。一度食べた味が忘れられず、著者はそのお菓子のルーツを求めながら分布圏を確定していきます。

これはイランが発祥の地と推定され、中央アジア、近東、バルカン半島で食されているお菓子とのことで、本書には出てきませんでしたが、ルイスの『ナルニア国ものがたり』の「ライオンと魔女」の巻の中で次男のエドマンドが魔女から振る舞われたお菓子でもあります。

ルイスもいろいろと調べて書いたのでしょうね。ライオンのアスランもペルシャ語からとったはずですし。それにしても、こんなところでつながりがあるとは思いませんでした。

巻末の東海林さだおの解説も秀逸でした。東海林さだおの『タクアンのまるかじり』も読みたくなりました。著者の『ロシアは今日も荒れ模様』の次にスタンバイさせておきます。

(文春文庫2004年467円+税)

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2012年5月10日 (木)

米原万里『魔女の1ダース』

比較文化論の名著です。言語と文化の違いが生み出す笑いが満載です。しかし、笑ってばっかりでなくて、ときにはへぇーっと感心させられるような思索と、驚くべき事実の指摘が含まれています。

ロンブ・カトーのような言語の達人たちの頭の中に「明らかにいずれかの原語で表現される前に、どの原語にも依存しないような一種の概念の存在」(57頁)を認めるところとか、ポルポト派の支配するカンボジアで「美しい女性は、ベトナム人に違いないと疑われて、片っ端から連れ去られて惨殺された」(84頁)といった事実を指摘しているところです。

1964年頃の中ソ対立とグヤーシュ論争の話は勉強になりますし、ベトナム人とソ連税関の駆け引きや、マルボロが通過になっていた闇経済のあり方なども似たような事例を目にしたり経験したりしたことがあるので、身につまされてわかるところがあります。ジプシーの子どもは迷子にならないという話も面白かったです。

もちろん著者お得意の艶笑小咄や排泄物をめぐる比較言語文化論も健在です。感想を書くたびに同じ事を言いますが、もっと著者の書くものを読みたかったですね。これで、あと1冊を残してほとんど読んだことになりそうです。若くしてお亡くなりになったのがつくづく残念です。

(新潮文庫平成12年476円+税)


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2012年5月 9日 (水)

竹田青嗣『哲学ってなんだ 自分と社会を知る』

著者は30歳を過ぎるまで哲学がよくわからなかったそうです。物心ついたときから自分にわからないものはなかったような顔をしているニューアカ以降のインテリと違って、正直で好感が持てます。著者にはフッサールがピンと来た最初の哲学者だったそうですが、そうして1人がわかると芋づる式に読み解けてくるのがこの世界の特徴かも知れません。

哲学は自分の中に切実な欲求があって初めてわかるような分野ですので、こういうことを隠さず書いてくれる人には共感できます。思えば、私の場合はウォーコップ『ものの考え方』(深瀬基寛訳、講談社学術文庫)が死ぬほど読み返した最初の哲学書でした。

著者は哲学を〈概念を論理的に用いることで世界を説明しようとするゲーム〉ととらえています(30頁)。ゲームなんて、ウィトゲンシュタインの影響かなあと思いもしますが、近代哲学を批判する流行の立場ではなくて、むしろその擁護派であるところが特徴的です。

個人の自由を追求する近代哲学が出てこない限り、その自覚はありえなかったからで、自由とそれを実現する社会との折り合いの付け方、あるいは社会のつくりかたを意識するのは、その自覚の後の話だからです。

著者は「哲学は深くよく生きるための思考の優れた方法なのである」(199頁)と言います。今どきのスカした知識人たちの中で、正面切ってこんなことを言う人は立派だと思います。

なお、本書はジュニア新書ですが、全然易しくはありません。言葉の用い方も手加減していませんが、気持ちは通じるかも知れません。そちらの方が大事なことですけどね。ただ、先哲の言葉が巻末にまとめてありますが、これはむしろ適宜本文に織り込んで論じてもらうとありがたかったなと思います。先人の言葉とゆっくり対話するというスタイルのほうが、説得力があると思うからです。

それから、著者が近代哲学を神からまったく切り離して論じてしまうところは、ちょっと問題かと思います。カントもヘーゲルも熱心なクリスチャンだったことがその哲学の背景にあるので、そのあたりは慎重を期することで、よりふくらみのある内容になりえる場所だからです。

しかし、全体的に、読みやすいいい本でした。中高生は本書をどう読むでしょうね。興味があります。

(岩波ジュニア新書2002年740円+税)

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2012年5月 7日 (月)

野口悠紀雄『「超」勉強法・実践編』

古本屋で、お、文庫が出ている、と思って買って、半分ほど読んでから、以前この単行本を読んでいたことに気がつきました。ま、よくあることですが。

それはそうと、本書の単行本は1997年、文庫は2000年に出ていますが、情報機器やソフト関係の記事以外はまったく古くなっていません。

今回読むのは二度目ですが、あらためて、通信教育部の学生にとって参考になることが書かれていることに気がつきました。具体的な英語の勉強法や日本語による作文の技術はもちろんですが、本書の冒頭で、著者は学歴社会が終わって、「勉強社会」が到来すると述べているところがそれです。

もはや卒業した(あるいは入学した)学校歴で就職が決まり、終身雇用が保障される時代ではありませんから、本当に仕事ができなければ通用しなくなっています。著者のいう「勉強社会とは、勉強の成果がいつになっても正当に評価される社会」のことです。

そうとわかれば自己研鑽あるのみですし、現に通信教育部には資格や学歴を新たに得るために、全国から熱心な学生さんたちが集まってきます。そして何よりも、本書を読むと勇気と元気が出てきますので、これからスクーリング授業の折には本書を強く勧めることにします。

なお、本書は実践編というだけあって、細かいコツもいろいろ書かれています。今回読んでみて、文章の場合の150字に相当するものが、話し言葉では1分程度になる(160頁)というところが印象に残りました。これ、覚えておくと何かの役に立ちそうです。

俗に言う高偏差値の大学に入っても、勉強しなければ下手をすると知識レベルは高校生以下に留まりますからね。学校秀才受難の時代かも知れません。お気の毒に。

これからはみんな一生努力しながら 「innovation = 何か面白いこと」を見つけ出していくという、作家や芸術家やスポーツ選手のような生き方をしなければなりません。もちろんみんながジョブズのようになれるわけではありませんが、細かいところで人びとのイノベーションが蓄積されていくことが必要でしょう。

これって実は日本人が得意なことです。国が余計な口出しをしなければ、どんどん出てきます。ひょっとして、いい時代じゃないですか?

(講談社文庫2000年495円税別)

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2012年5月 6日 (日)

橘玲『亜玖夢博士のマインドサイエンス入門』

『経済入門』を受けて、物語はもっと勢いがついてきて、どうやって収拾をつけるのか、はらはらどきどきの展開でした。思わず電車を乗り過ごして二つ先の駅まで行ってしまいました。

本書を読んでしばらくしてからタイトルを「マッドサイエンス」と勘違いしていたことに気がつきましたが、マインドサイエンスがマッドサイエンティストによって、とんでもなく危険な利用をされる場合がありうるということも本書のテーマではあったのでした。

マインドサイエンスというのは本書では認知心理学、進化心理学、超心理学、洗脳、人工生命といった科学の総称ですが、登場人物たちも人格販売会社を進化させて「亜玖夢真理教」なる宗教組織を作るにいたります。

著者によれば本書に登場する「不思議な話の数々はたんなる著者の思いつきではなく、急速に進歩する脳科学や分子生物学、情報科学・工学が実現もしくは実現可能にしたものばかりである」(316頁)とのことです。実際、巻末にそれぞれの章の参考文献が合計40冊ほど挙げられています。

われわれはおそるべき時代を生きているんだなあと、あらためて実感させられる本です。

(文藝春秋2010年1600円+税)

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2012年5月 5日 (土)

渡部昇一『不平等主義のすすめ 二十世紀の呪縛を超えて』

2001年の本を古本屋で見つけました。小泉内閣がスタートしたばかりの頃の出版ですが、著者の政策提言は古くなっていません。状況は民主党政権になりさらにひどいことになっています。

それはともかく、本書に感心させられたことや教えられたことを以下に挙げておきます。

・第二次世界大戦で日本の戦局が悪化したときでも、朝鮮半島や台湾において植民地独立運動が起こらなかったこと(16頁)
・ポル・ポトはフランス語ができる人だけでなく、メガネをかけている人も「メガネをかけているのは不平等だ」と言って殺した(44頁)
・『古今集』より前に漢詩の勅撰集が数点出されていたこ(89頁)

あとは次の箇所を引用しておきます。

「日露戦争以後、日本のエリートコースは学校秀才に固定化され劣化した。狭い範囲で特定の利権と結びつき、外部の能力ある者を排除する力学がはたらくようになった。脇からは決して入れないという特権階級的体質になったために、そこでは互いに庇い合う関係にしかなり得ず、そうしたエリートの群れが社会主義的な手法によって国家統制をした。その残滓はいまだにこの国を蝕んでいる」(175-176頁)

国家だけでなく、大企業・大組織もそうです。それどころか今日ではもはやわが国の小さな組織にいたるまで、どんどん官僚化してしまっています。これと闘うのはほんとうに骨が折れます。

(PHP研究所2001年1,300円+税)

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2012年5月 4日 (金)

上橋菜穂子『精霊の守り人』

丁寧に書かれた上質のファンタジーです。著者は文化人類学者で、オーストラリアのアボリジニ研究が専門だそうです。なるほどそういう専門性も小説の舞台設定に活かされている気がします。

とにかく綿密に構成された小説世界で、文化を異にする種族間の抗争や対立、政治世界と宗教者や、呪術師の関わり、霊的存在との交信などがきっちり書き込まれてリアリティがあります。

で、何より物語世界に引き込まれ、はらはらどきどきさせられる展開に、寝食を忘れるくらいです。これは1996年に出た本ですが、今後も末永く子どもたちに読み継がれる作品になることでしょう。

10巻全部を一気に読むと他のことができなくなるので、これから少しずつ読んでいくつもりです。とはいえ、早く次の巻を読みたいです。

(偕成社1996年1500円+税)

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2012年5月 3日 (木)

村上重良『世界の宗教』

ジュニア新書ですが、子ども用に手加減されてはいません。世界の三大宗教だけでなく、代表的な宗教はほとんど言及されています。講談社学術文庫の『日本の宗教事典』(品切れ)は名著でしたが、字が小さくて読みづらいのが難点です。世界の宗教事典へと進む前にネットで注文した本がこれでした。届いてからジュニア新書だったとわかりましたが、後悔することはありませんでした。

わが国は今日なお自称「無宗教」実は排他的「日本教」というか「やまと教」の信者が多数派なので、世界の宗教についての基礎知識が一般教養として共有されないままです。本書が高校の歴史副読本として広く読まれるといいのですが。

本書では世界各地の古代の諸宗教から始まって、三大宗教の成立史とその概要がコンパクトにまとめられています。古代エジプトの神々や古代ペルシアのゾロアスター教、ヴェーダ時代のインドの宗教、古代ギリシアのデュオニソス信仰やデメテル信仰、紀元前三世紀にローマで広がったミトラ崇拝などが世界史の流れのなかできっちりと解説されています。

古代ヨーロッパや中南米、アジアの諸宗教にも十分目配りされたのち、仏教、儒教、道教それからユダヤ教、キリスト教、イスラム教についての成立史と基本的教義が解説されます。そこでもジャイナ教やコプト教やシク教のようなそれらから派生したマイナーな宗教にも言及されていて、勉強になります。

所々で結構トリビアな知識も解説されていて、決して無味乾燥ではありません。ヤヌスは門扉の神さまだとか、エレミヤは捕らえられたけれども許されてエジプトに逃れたとか(逆さづりにされて泥の井戸の中につけられたりしていたので、私の記憶の中では死んだことになっていました)です。

著者の公平な視点は次の記述からも明らかです。

「世界の宗教がそれぞれつくりだしてきた思想と文化は、その宗教を信じている人びとだけのものではなく、人類共有の財産です。それだけに、宗教を信じている人も、信じていない人も、信教の自由を大切にし、すぐれた宗教文化を受けついで発展させてほしいと思います」(224頁)

今年から大学の比較文化論の副読本にも指定しておきたいと思います。

(岩波書店2009年改版780円+税)

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2012年5月 2日 (水)

マルジャン・サトラピ『刺繍 イラン女性が語る恋愛と結婚』山岸智子監訳、大野朗子訳

イランの女性たちだけのサモワール(お茶会)の様子が活き活きと描かれたマンガです。老いも若きもこの女子会で「心の換気」をするのだそうです。そこではもうおもいっきりあけすけで正直な話が、悪口からうわさ話から深くていい話まで、すべて聞けます。

イランなんかは助成に対する様々なうるさい制約があると聞いていましたが、女性たちはこれを乗り越えて、実にたくましく生きているんですね。読みながら何度も、片倉もとこ『イスラームの女性たち』の記述を思い起こしましたが、整形手術とか豊胸手術とか、性にまつわる様々なことがらなど、もっと過激で驚きに満ちた話題が満載でした。

感想としては「みんなエラい!」です。感服しました。

(明石書店2006年、2,300円+税) 

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マルジャン・サトラピ『鶏のプラム煮』渋谷豊訳

人はみないろんな思いを心の奥底に秘めて人生の幕を下ろすことになるのでしょう。この漫画は著者の叔父で、イランの楽器タールの奏者だった人が主人公で、亡くなるまでの最後の日々の様々な彼の思いが描かれています。

奥さんに楽器を壊されて、気に入った楽器にも巡りあえず、亡くなった母親や死神と対話をしながら、昔の恋人のことを思いつつ死んでいきます。

と言うと、暗くてどうしようもない感じですが、決していやな話ではありません。自分もこんな思いを抱くことになるのかなあという気がするからです。あるいは、独特の画風と落ち着いた話の運びによるのかもしれません。実写版で映画化されたそうですので、観てみたいです。

(小学館集英社プロダクション、2012年、1,800円+税)

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2012年5月 1日 (火)

橘玲『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計入門』

年金や金融や税金について、よくまあここまで徹底的に調べたものだと感心させられます。私が苦手な分野だけに、勉強になりました。合法的な節税対策や、個人を法人化したときのメリット、あるいは海外投資など具体的にも参考になる知識ですが、実行するのは簡単ではなさそうです。

そう感じるのは自分がお金に縁が薄いからでもあるのですが、実際、税金を取られすぎて腹が立つほど儲けてみると、この知識は生きてくるのでしょうね。

中でも税務署の内幕については、蛇蝎のごとく嫌われる税務署員の大変さもわかって、面白かったです。税理士の中でも試験合格組が公認会計士のことをよく言わないわけもわかりました。以前そういう話を当事者の口から聞いて長年心に引っかかっていたのですが、公認会計士は税について大した知識がなくても税理士を兼務できるからなんですね。

税金を消費税一本にすると、申告と納税の手間も省けてシンプルになり、いいんじゃないかとは誰でも考えることでしょうけれど、著者はその可能性はないと断言します。「そんなことになれば、税務行政に携わる多くの官僚が職と既得権を奪われるから」(217頁)だそうです。そうでしょうね。

著者は、赤字国債に頼るわが国の財政状況について、こう述べています。

「いずれにせよ、大きな借金を抱えた日本の将来には、いつの日かはわかりませんが、増税か、インフレか、あるいはその両方がやってくることになります。為替は円安になり、金利は上昇に向かうでしょう。その衝撃を、はたして日本経済は受け止めることができるでしょうか?」(247頁)

本書は10年前の本ですが、財政状況は当時よりさらに悪化し、いよいよその可能性が高まってきています。外貨預金くらいはしておいた方がいいのかもしれませんね。しかし、どこの外貨を買うかがまた問題です。それより問題はその資金がないことですが。仕事だっているまであるかという感じですからねえ。

(幻冬舎2002年1600円+税)

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