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2012年5月23日 (水)

上橋菜穂子『夢の守り人』

「守り人」シリーズ3作目。ますます面白いです。夢がテーマです。世界にあまねく存在するスピリチュアリズムの世界観とも重なります。それがこんなに手に汗握る物語になるとは驚きです。フロイトともレヴィ=ストロースともしっくりくる世界です。オーストラリアや沖縄での野外調査の成果とも共存できる著者の想像力ですが、決して理屈っぽくありません。

物語のクライマックスでは登場人物の心の闇の世界がリアルに浮かび上がるところがあり、どこか世阿弥の能のシーンが彷彿とさせられます。しかし決してそういうものを意識して作られた話ではなさそうで、むしろ作者の想像力がわが国の民族的想像力の伝統に自ずとシンクロしたのではないかと思われます。

世阿弥の作品世界の凄さがこんなところに花開いていたとは意外でした。そういうのって、わが国のほとんどの研究者がちんぷんかんぷんな(しかし、ふつうの人ならよくわかっている)演劇的想像力なのです。

著者は大学の先生でもありながら、こうした作品世界を作ることができる希有な才能の持ち主です。芸術を研究している大学の先生なんて芸術音痴ばっかりと思っていましたが、例外もあることがわかりました。ま、イギリスにはC.S.ルイスというとんでもなくすごい人がいましたけれどね。

本シリーズは英訳もあるそうです。著者の作品が世界に知られるのは実に嬉しいことです。私の教え子のハンガリー人翻訳家にも是非ハンガリー語に翻訳するよう勧めるつもりです。

(偕成社2007年、軽装版900円+税)

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