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2012年6月30日 (土)

村上重良『日本の宗教』

著者の『日本宗教事典』(講談社学術文庫)はいい事典で重宝していますが、通読しようと思うと字が小さくて難儀するので、これをネットで注文してみました。

届いてみたらジュニア新書でしたので、通読するという目的はもちろんOKでしたが、ジュニア新書だからといって手が抜かれていたりするわけではなく、日本古来の宗教から今日の新興宗教まで、正確な知識が時系列的にきっちりとまとめられていて感心させられました。

要するにコンパクトな日本宗教史になっています。これを通読して、詳細は『日本宗教事典』を参照すると、実にいい感じになります。

道教や神祇官制度のあらまし、近世から近代にかけての教派神道や新興宗教の興隆など、自分の中の欠落している知識が確認できて、助かりました。全国の有名なお寺についての由来なども、今後の観光ガイドになりそうです。

最後に著者はこう言います。

「わたくしは、宗教を信仰している人も、宗教と無関係の人も、ともに手をたずさえて、信教の自由、良心の自由をたいせつにすることによって、優れた伝統をもつ日本の宗教文化を、さらにゆたかに発展させてほしいと願っています」(232頁)

言われてみれば、あたり前のことですが、この公平な態度自体が日本人の伝統宗教的良心という感じで、皮肉ではなくて好ましいと思います。

(岩波ジュニア新書2009年改版780円+税)

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2012年6月29日 (金)

山田昭男『日本一しあわせな会社のヘンな“きまり”』

著者の会社は、会社の鉄則と言われる「報告連絡相談」をしない、休みは有休を除いて年間140日もあり、勤務時間も毎日7時間15分で、残業は一切禁止という驚くべき会社です。著者は言います。

「働く人間のモチベーションや幸福感が低ければ、会社の儲けは出ない。そういうことは、自分がいろいろな立場で働いたことのある人間ならわかると思うが」(92頁)

というわけで、いかに社員の能力を引き出すかということを考えていったとき、この会社のユニークな規則に至ったのだそうです。その骨子は、

・常に考える
・他人と差別化する
・いいと思ったことは恐れず行動に移す
・ダメならすぐに戻す

ということで、なるほどその通りなのですが、実際には私のよく知る会社には、この正反対のことばかりやっているところがあります。一切考えず、同業他社と同じことしかせず、新しいアイデアは全部店晒しで、成果主義のようなダメなことだけは続けていて、みんなやる気をなくしているという感じです。

結局リーダーに勇気と知恵がなくてやれないのですが、昨今そんな会社のほうが多いのが実情でしょう。景気も悪いはずです。

本書は先日読んだ著者の別の本とほぼ同様な内容ですが、会社の職員の生の声が収録されていて、著者の話を裏付けています。嘘でここまでは言えないだろうというインタビューが載っています。

それにしてもすごい経営です。何とかあやかりたいものです。

(ぱる出版2011年1500円+税)


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2012年6月28日 (木)

竹内洋『大学の下流化』

教育史の視点から大学を見ると、当然ながら本書のタイトルのようになりますね。今日では、一流と言われる大学の学生でも、ほとんど本を読まず、新聞もとらないので、そう言われても仕方ありません。

本書では、どういう歴史的経緯で学生が変質していったかということが、明治時代にさかのぼって鳥瞰できます。もちろん、大学教育の大衆化と、学生運動は大きな影響を及ぼしましたが、昭和初期に高等教育が拡張し、多くの専門学校が大学に昇格したとき、学生たちの学費値上げ反対闘争が起こっていたんですね。同盟休校なんかも頻繁に起こっていたそうです(117頁)。

本書には、全共闘運動をめぐる著者と小池百合子の対談も収録されていて、興味深かったです。まだ私が大学に入学した頃もわずかにその残り香がありました。当時の学生の下宿には高橋和巳や大江健三郎、安部公房、吉本隆明、倉橋由美子の作品が同じように揃っていた、なんて、そうですね、先輩の下宿先なんかにはありましたね。同級生はもう読書傾向が変わってしまっていました。

私が大学院に入った頃が浅田彰なんかのニューアカデミズムのブームで、著者によれば、「蝋燭の火が最後に一瞬輝くように近代日本の教養主義が没落するときの最後の輝きであったが、そうであればこそ、教養主義と教養主義者の欠点が露呈したものであった」(12頁)とあります。

確かに人を小馬鹿にしたようなニューアカ信徒が一時エラそうにして、あたりを睥睨していましたが、そういう連中が意外にフランス語ができなかったのはご愛嬌でした。あれはあれで流行りの踊りの所作にすぎなかったんですね。実際のところ、まともに物事を考える力を持った言論人は、あの当時の踊り手からは出てきていませんし。

本書の後半は知識人論に重心が移り、著者の書評や読書日記による、様々な本の紹介が有益です。その中では、以下のような驚くべき話も紹介されています。

・穏健に見える鶴見俊輔が60年安保闘争の時代に、新幹線のこだまを転覆させようと提案していた(179頁)
・あの極右とされた北一輝でさえも、覇権ナショナリズムの危険性を指摘し、批判していた(202頁)
・中国での日本軍のアヘン栽培と販売が、満州国はもとより、東条英機の政治資金になっていた(218頁)

などです。

また、いろいろ読みたくなってきました。

(NTT出版2011年1,700円+税)


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2012年6月27日 (水)

有子山博美『留学しないで、英語の達人になる方法』

留学しないでも英語の達人になれるのは確かですが、それは生半可な努力ではありません。実際、本書は甘いことは書かれていません。誠実にこんな努力をしたらいいという助言がコンパクトにまとめられています。

内容は、語彙を増やして、英文法を押さえ、視聴覚教材を最大限利用し、英文日記を綴り、ネイティヴスピーカーの先生や友人から教わるというような、極めてまっとうなことが書かれています。インターネットも十分活用するようにと、有益なサイトやメールマガジンが紹介されています。

なるほど。でもこれはやっぱり大変です。著者はTOEIC満点を達成するほどの努力家ですから、なかなか常人には真似できません。

しかし、具体的に有益な情報や心構えが惜しげもなく開陳されているのには感心させられます。いい人なんでしょうね。

私自身、本書を大いに参考にさせてもらって、少しでも自分の英語力を高めることに役立てることができればと思います。とりあえず、時事英語のメルマガなんか購読してみようと思います。

ああ、同僚から頼まれている英文エッセーを書かなくちゃ。

(中経の文庫012年600円+税)

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2012年6月26日 (火)

上橋菜穂子『神の守り人』上・下

この間も読ませてくれました。上下巻が短く感じられるほどでした。それぞれの登場人物が丁寧に人物造形され、緊迫した物語世界を形作っています。

今回は特に荒ぶる神が出てくるので、この血に飢えた異界の存在をどう処理するのか、最後までハラハラさせられました。人類史の闇の部分を垣間見たような気になるくらい、この物語世界はリアリティーがあります。

研究者としての様々な調査や専門文献を読まれた蓄積が物を言っているのでしょう。食べ物とか薬、それから武器について実に納得の行く描写が出てきます。女主人公のバルサの食べたものについて別に『バルサの食卓』という本が出ているのも道理です。何だか実に美味しそうなのです。

いつもながら権力闘争の複雑で微妙な心理も巧みに描かれていて引きこまれます。善玉、悪玉にかかわらず、これくらい深い読みと行動力が一致する政治家が存在する国があったとしたら、本当は問題が起きないんじゃないかと思えるくらいです。

物語の登場人物と比べるのはいかんのですが、知性も度胸も人望も大きく不足している今日のわが国の指導層(政治家だけでなく官僚や経営者を当然含みます)は、もうちょっとどうにかならないものでしょうか。

(軽装版偕成社ポッシュ2008年各945円税込)

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2012年6月25日 (月)

漆原友紀『蟲師』1〜10

動植物と無機物の間にあるような、自然の畏るべき力を象徴する存在を「蟲」(むし)として造形したところが見事です。その蟲を退治するのではなくて、敬意を払いつつ共存しようとする姿勢が日本人の伝統的自然観につながります。

物語は能の作品構成に似て、旅の僧ではありませんが、エピソードごとに蟲にまつわるトラブルに対処する主人公の、ギンコという放浪する「蟲師」が出てきて、正体を現した蟲を鎮めて去っていきます。自然の怖さも美しさも実に上手く物語の中に配置されています。

能に似ているということで言えば、かの世阿弥も室町時代にこういう(今よりもリアリティのある)異界との狭間から発想していた一面があったんだろうな、という気がします。

ところで、これを原作にしたアニメがまた素晴らしくて、実はもともとそちらを先に観たのがきっかけで、本書を購入したのですが、こうして読んでみるとアニメは見事に原作に忠実な作りになっています。忠実だからこそ、見事に原作のよさを引き出しているんですね。7巻のあとがきに著者はこう述べています。

「さて、アニメの『蟲師』ご覧になりましたか? お話が命をもって動き出しています。色彩と動きと音。原作にないもの全てを補ってあまりあるものにして頂いています! 未見の方はぜひ一度!」

まったく、その通りです。もちろん原作あってこその世界なのですが、原作への愛が素晴らしいアニメを生み出しました。この制作スタッフのセンスと技術水準の高さは特筆すべきです。これはそのうちお金を貯めて、DVD box を買うはめになりそうです。

(講談社2000年〜2008年562円〜590円税別)

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2012年6月24日 (日)

上野玲責任編集「ケサランパサラン」第4号

ここまで充実した内容の電子雑誌は他にありません。メールマガジンではなくて、PDF形式の雑誌なので、写真がふんだんに載せられるのも特長です。以前から上野玲さんの写真が気に入っているので、個人的にはもっと写真を載せてほしいと思いますが、他の写真家の作品と文章もよくて、これからなじみになっていくと思います。

記事の中では高野悦子についての連載に特に注目しています。学生時代に『二十歳の原点』に感動したという友人が多かったので、彼らが当時何を考えていたのかという興味もあります。個人的には高校の頃両親が読んでいたので、私も読んでみて、実際よくわからなかった本です。

私の両親も大学を出ていないこともあり、『二十歳の原点』はよくわからなかったようです。友人たちは私よりもずっと大人でした。学生運動世代の兄弟がいたりすると、ませるんですよね。その彼らは今ごろどんなオヤジになっているんでしょう。

他にも様々な利害関係から大手メディアには載らない記事を読むことができます。私にとっては貴重な情報源がまた一つ増えました。毎月5日と20日に発行で、1冊450円です。

購読申し込みは、http://www.kesaranpasaran.net/index.html までどうぞ。

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2012年6月23日 (土)

漆原友紀『フィラメント〜漆原友紀作品集〜』

著者の『蟲師』を全10巻購入したついでに本書も買ってきました。これも異世界と交信する漆原ワールドですね。あたりまえかもしれませんが、初期から雰囲気は一貫しています。こういう感じの漫画を読んだのは久しぶりです。少し懐かしいタッチで、ちょっとかつてのガロの感じとかする作品もあります。

しかし、本書のレベルからしても、『蟲師』の世界はやはり異次元かもしれません。アニメではさらに絵が美しくて、スタッフが熱意と愛情を込めて制作にあたったことがうかがわれます。

日本の漫画もアニメーションも本当にレベルが高くて驚かされます。

(講談社2004年562円税別)

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2012年6月22日 (金)

山田昭男『日本でいちばん社員のやる気がある会社』

社員のやる気を引き出し、能力を十分に発揮させることを第一に考える会社があるなんて、夢みたいな話ですが、あるんですね、そんな会社。それも年商240億円ですよ。以前テレビでも見たことがありましたが、岐阜の未来工業がそれです。

ここまで社員を信じると、社員もこたえるようになるんですね。しかし、ふつうの経営者はここまで勇気がありません。むしろ猜疑心の固まりになって、社員を疑って疑って規則でがんじがらめにして、やる気をそぎ、萎縮させてしまいます。著者は言います。

「社長になると、経理から総務まで、会社のことは全部見る権利があるものだから、つい錯覚してしまう。権利があるということと、会社を正しい方向に経営していく能力をもっているということは、まったく違うことなのだが、『俺には能力がある』と思って、あらゆるところに口を出すようになってしまうのだ(18頁)

「会社は社員に能力を発揮する場を与えてやるべきなのだ。どんなセクションであれ、そのセクションのトップとして待遇してやれば、社員自身がそれなりに考えるようになる。各社員がそれだけの能力をもっているし、また、それによって社員全体のモチベーションを高くすることができるはずだ」(169頁)

こうした結果、給料がよく、勤務時間が短く、休みが多く(日本一労働時間が短い)、なおかつ儲かっている会社が生まれてきたのです。でも、凡庸な経営者は真似できないでしょうね。真似してほしいですけど。

(中経出版2010年533円+税)

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2012年6月20日 (水)

島田博司『学びを共有する大学授業 ライフスキルの育成』

長年にわたって大学で教育方法論などの科目を教えてこられた著者の様々な実践的試みがまとめられた好著です。教育関係者にとって明日にでもすぐに使えるチップスがたくさん収録されていて、本当に参考になります。

学生に様々な課題を与えて、自立した学習態度を身につけさせていくという著者の創意工夫には本当に感心させられます。エッセイを書いたり、課題をこなしたりしながら、学生達が成長を遂げていく様子が手に取るようにわかります。

例えば、自分のLove & Hate の短文(「充実してるのは好き。忙しいのは嫌い」「自分をもってる人は好き。わがままな人は嫌い」とか)を入れた自己紹介をしたり、自分のネガティブな口癖に対して、その呪縛を解くような文句(「めんどい」じゃないよ。「やったろ!」など)を考えることで、自分自身のことを改めてとらえ返し、未来に向かって一歩踏み出すことができるようになります。

学生の気質も徐々に変わってきているようです。学校でのいじめをかいくぐって、いじめられないキャラを演じてきたので、自分をさらけ出すことにかなりの困難を覚えている学生が多くなってきたんだなあと感じます。共通して打たれ弱くて、些細なことで学校に出てこなくなるタイプも少なくありません。

そんなガラス細工のような神経の子どもたちを、著者は実に丁寧に、愛情を持って接しているんですね。そうでないとこんなに授業のアイデアが生まれてくることはないだろうと思います。著者に教わった学生たちは幸せ者です。

私も早速本書からいくつかの課題をアレンジして授業で活かしたいと思います。学生たちの反応が楽しみです。

(玉川大学出版部2012年3500円税別)

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2012年6月18日 (月)

ノーマ・コーネット・マレック『最後だとわかっていたなら』佐川睦訳

友人からもらった本です。9.11以降ネットで評判となった詩ですが、実際にはその事件とは関係なく書かれたものだそうです。言葉が心に刺さります。大切な人に先立たれた経験のある人ならなおさらでしょう。私の場合は20年ほど前の弟の死が本当にこたえました。こういうものを読むとそのことを思わずにはいられません。

読む人それぞれにそれぞれの思いがよみがえることでしょう。そして、そうこうしているうちに、いずれは自分もこの世に別れを告げるときがくるのでしょうけれど、これがなかなか想像できなくて、自分だけはいつまでも生きているような気がするのもまた、人の常かも知れません。

この詩では「ごめんね」や「ゆるしてね」や「ありがとう」や「気にしないで」ということを生きているうちに伝える時を持つように言ってくれています。伝えるべき人に、伝えられるときに伝えておかなければいけませんね。

生きている今を大切にというのは、こういうことを含むはずです。そのことを改めて教わった気がします。言うべきことは言わなきゃですね。でも、言いそびれながら亡くなっていくのも、やっぱりあるだろうなと思います。

本書は英語原文もついているので、勉強になります。訳文が気に入らない人もいるかもしれませんが、そういう人は、暗唱せずとも何度か声に出して読んでみると、著者の息づかいが聞こえてきて、いいと思います。

(サンクチュアリ出版2007年1000円+税)

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2012年6月16日 (土)

曽野綾子『人間の基本』

著者もいつの間にか八十歳を過ぎていたんですね。今もアフリカに出かけて行く気力と体力には敬服します。様々なボランティア経験の中で著者が出会った人々についての話は特に印象に残りました。

韓国ですでに治癒したライ患者のための「聖ラザロ村」を作っている李神父や、インドのヴァナラシのインド人神父さん、チリの修道会の文字どおり献身的な修道女たちなどの感動的な言動の数々が、本書を読んだ後からじわじわと効いてくる気がします。

著者の政治的なスタンスに異論のある人も、この貴重な話については聞き逃す手はないと思います。

「多くの人間は凡庸で、神でも悪魔でもありませんから、・・・ルールの中には収まらない優しさ、恐ろしさ、面白さを抱えた存在であることを見きわめる感受性と勇気が必要です」(77ー78頁)

この最後の「勇気」という言葉がいいですね。今日の日本人に足りないものではないかと、特に自分の身の回りを見ていて痛感します。もちろん自戒の念も込めてですが。

(新潮新書2012年680円税別)

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2012年6月15日 (金)

八木雄二『天使はなぜ堕落するのか 中世哲学の興亡』

私の哲学史的知識は特に中世が欠落しているので、教えられることばかりでした。本書は見事に中世の思想家たちの思索の足跡がたどれるようになっています。

中世哲学には日本との歴史や文化の違い、キリスト教、イスラム教といった様々な理解の壁があって、翻訳があるからといって読んでもなかなか理解できないところがありますが、本書はそうした壁のひとつひとつにある扉を丁寧に開けて、壁の向こう側の世界を解説してくれます。

何と言っても、文章に著者の声とリズムが感じられて、実に読みやすいです。この手の本はすべてをお見通しの大家が立派に手堅い学術論文的翻訳的文体で書くものだという先入観がありましたが、本書はその手のものとは対極にあります。

これは著者が中世の哲学者たちの書物を本当にしっかり理解しながら読み込んでいる証拠だと感じます。わかっていなければこんなにうまく書けませんし、それぞれの思想家たちに対する謙虚な姿勢を保つこともできないだろうと思います。

本書でアウグスチヌスやトマスだけでなく、アンセルムス、アヴェラール、アヴィセンナ(イヴン・アル・シーナー)、オリヴィ、ドゥンス・スコトゥス、オッカムといった思想家たちに親しみが感じられるようになって来ました。

結局、みんな根本的なことを考えていたという点で、中世と言えども他の時代と変わらないわけで、近世哲学の華々しい展開から不当に貶められてきた感じがします。

しかし、こうして、「考える」ことに適性のある著者のような研究者(わが国では稀有な存在だと思います)の手によって、中世の哲学者たちが正当に評価されるのは、ほんとうに素晴らしいことだと思います。

ちなみに、こういう書き方をお手本にすれば、ハンガリーの法思想史も一般読者に向けて書き直すことができるような気がしてきました。少し勇気を分けてもらった気になっています。

本書をきっかけに、著者の他の本はもちろん、長らく積読状態になっているジルソンの中世思想史関連著作を読んでいこうと思います。

(春秋社2009年4800円+税)

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2012年6月12日 (火)

七類誠一郎『黒人リズム感の秘密 改訂版』

ジャズとバスケットボールへの関心から本書を購入しましたが、著者はダンスの世界ではTony Teeという名で知られるとんでもない実力者だったんですね。

黒人の独特のノリと絶妙な身体の動きは、著者によれば体幹をフルに使ったものなのだそうです。その動きを7つの「インターロック」という基本動作に分類してトレーニングすると、日本人でもマスターできるとのこと。バスケにも十分応用がききそうです。

著者の文章自体もリズムがよくて読みやすいのですが、いかんせん、文章と図解だけではやはりインターロックの動きはいまいちわかりません。動画付きの本を探す必要がありそうです。今ならあるかも知れませんね。

インターネットでも何かないかと思って探してみたら、著者が2010年に亡くなっていることを知りました。この改訂版が出た年のことです。まだ若いのに惜しい。

インターロックエクササイズについては他に本も出ているようなので、探して読んでみます。

(郁朋社2010年2000円+税)

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2012年6月11日 (月)

野口悠紀雄『ホームページにオフィスを作る』

2001年に出た古い本ですが、ホームページをめぐるIT技術自体はそれほど無茶苦茶進化したというわけでもなく、著者の基本姿勢の正しさが結果的に証明された感があります。ブログやツイッター、フェイスブックなどが登場してきましたが、まずは自分が使い勝手がよく、楽しくなるようにという方向で考えていけば大丈夫という感じがします。

「ネット上に自分用のデータベースを作る」という基本姿勢から「ネットワーク自体をデータ記録媒体とする」という方向を提示したのは、今日ではドロップボックスやグーグルドキュメントという形に結実しています。ソフトよりもデータをネットにという感覚は当時からコンピュータを使い倒すほど利用していた著者ならではのもので、さすがだなあと思いました。

ちなみに、野口悠紀雄ONLINEの情報源をネットでたどってみたら、只今休止中でした。検索エンジンがめいっぱい発達したら、要らなくなるという性質のものでもなさそうですが、どうなんでしょう。

E-learningなど、通信教育に関する情報も正しい方向が示されていて、参考になりました。今教材を作成中で、明日も担当者と打ち合わせですが、この現在のトレンドと学生達の要望を上手く取り入れて開発したいものです。ただ、このシステムを採用する側の頭が旧態依然のままではダメでしょうね。大丈夫かなあ。

気になるのは、最近の学生があまりパソコンを活用せず、全部携帯メールその他ですませてしまおうとする傾向があることです。ノートパソコンも若い人はあまり使っていないのかも知れません。これではガラパゴス化と言われても仕方ないかも。

(光文社新書2001年700円+税)

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2012年6月 8日 (金)

ニーアル・ファーガソン『マネーの進化史』仙名紀訳

100ドル持っている銀行が、中央銀行に10%すなわち10ドルだけ預けて、残りの90ドルを他行に貸し、その90ドルを借りた銀行が10%の9ドルを中央銀行に預けて、また別の銀行に80ドル貸すと、100ドルのお金は3つの銀行を経由しているうちに、通貨供給量が271ドルになります。

これが、部分準備銀行制度がマネーを生み出す単純な図式ですが、アメリカのビジネススクールのMBAコースでは、それぞれの銀行の役割を学生に体験させて、信用がマネーを生み出す仕組みを体得させるそうです。

取り次ぎ騒ぎが起きたら、準備金が10%しかない銀行はひとたまりもないわけです。しかし、信用しすぎてお金がどんどん増殖しても、ある日突然、お金は紙くず同様になる可能性もあるわけで、そうした信と不信の間を行ったり来たりしながら、人びとの経済活動は行われています。

ことほどさように、金融の力畏るべしなのですが、本書はそうした金融と経済の歴史を見事にとらえています。そして、人びとがその歴史に学ぶことなく、狂乱と絶望を繰り返していることも、これまたよくわかります。

印象深いエピソード満載ですが、特にジョン・ローのペテン師ぶりには脱帽です。種村季弘『ぺてん師列伝』でもとりあげられていましたが、ジョン・ローのはちゃめちゃぶりがフランス革命の遠因にもなったことが指摘されていて、これは新たに教えられました。

それにしても、今の世界のマネー経済の行方は、一体どうなるんでしょう。世界はもちろん、わが国も相変わらず芳しくないですし、どうなることやら、ですね、まったく。

(早川書房2009年2700円+税)

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2012年6月 6日 (水)

群ようこ『またたび読書録』

著者の一連の読書エッセイで、本書は未読だったことに気がついて、慌てて読みました。慌てる必要はないのですが、いつも読者をしませてくれるうえに、新たに本を紹介してくれますので、お得感があります。

本書で紹介された本の中では特に、おちことよ/平野恵理子『生活図鑑』を手元においておきたいと思いました。家事全般についての必要にして十分な知識が一覧できるとのこと、便利そうです。

それぞれの章の構成は、いつものように身の回りの出来事などについてのエッセーに始まって、後半でそのエッセーの内容に付かず離れずの絶妙な距離感を保ちながら、テーマとする本の紹介に入っていきます。エッセーの中に気に入った文章があったので、そのうちのいくつかをここで紹介しておきます。

西原理恵子『ぼくんち』の章ではこうです。

「ずっとワルを続ける人間は愚かだが、ある一時期でも多少、悪いことをしたほうが、人間的ではないだろうか。私は清く正しく生きてきた人には魅力を感じない。多くの人は他人とぶつかり合うことを恐れ、すまし顔で暮らしていこうとする。これはとても悲しいことだ。私は『ぼくんち』を読んで、これから先、この本を心において、行きていこうと思ったのである」(20-21頁)

ホッファーの『波止場日記』の章では次の通り。

「頭だけ使ってきた人々の、いちばん困るところは、変なプライドを持っていることである。
『何といわれたって、偏差値はものすごくよかったんだから』
というのが根強く残っている。ただそれだけによりどころを見つけているといってもいい。そして素直じゃない。もちろんお勉強ばかりしてきた人が、みんなそういうタイプではないが、
「あの学校を出ていて、あんた、その程度の人間なわけ」
といいたくなる人が、あまりにも多すぎるのだ。
間違ったことをしたら、素直にあやまる。これが人間の基本である。ところが小賢しい人々はあやまるのが嫌いなようで、ああだこうだといいわけがましいことばかりいって、
『ごめんなさい』
とあやまれない。なんとか自分の身を取り繕おうと必死になる」(82-83頁)

いやー、私もこういう人をたくさん見てきましたし、今も毎日のように見ているだけに、「ホントにそうだよね」と思わされます。学校歴自慢の人は話して3分もすると、自分の出た学校の話題に持って行こうとしますし、読んでない本も読んだようなことを言うし、自己の能力を超えた責任ある立場に就きたがるのに、責任だけはとろうとしません。

それでいて、騙しの点ではもっと上手のヘンな業者によく引っかかるんです。その道のプロからすると、彼ら彼女らはプライドをちょっとくすぐるだけで、すぐ契約してくれるから、カモがネギ背負ってやってきてくれると思っていることでしょう。

それでもって、下々には「私は間違っていない」って言い張るんです。こういうときの利害関係者はあっという間につるんで、口拭ってますからねえ。官僚顔負けの小賢しさです。下々にはとっくにバレてんのにねえ。

(新潮文庫平成13年438円税別)

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2012年6月 5日 (火)

岡田斗司夫『ぼくたちの洗脳社会』

1995年に出た本ですから17年前の本ですが、エッセンスは古くなっていません。当時のトフラーや堺屋太一の本よりも大胆に来たるべき時代を考察しています。パソコン通信がインターネットに取って代わられたといった細部を除けば、予言の本質は合っていたことがわかります。

著者によれば、科学の影響が廃れて、経済も力を持たず、政治は当然役割が小さくなり、「自分の気持」と気ままな生き方を何よりも大切にする「洗脳社会」が訪れるとのことです。

洗脳といっても、政治権力やマスメディアが明確な意志を持って国民の価値観を制御するというものではありません。現代は、そうした他人の志向に影響を及ぼす洗脳行為が、双方向的マルチメディアを通じて人びとに共有される時代と言います。

今日のネット社会の発展と益々胡散臭さがバレてきたマスメディアの凋落ぶりを見ていると、たしかにその通りだと思わされます。ただ、さすがの著者も、「2ちゃんねる」言論のえげつなさまではさすがに予見できなかったようです。

著者は今の若者たちの行動と価値観を観察することで、30年後の時代の変化を予見しようとします。当時からすでに若者たちはあまり就職したがらず、何を差し置いても「今の自分の気持を大切にする」ことだけは守り通そうとします。

極端なのは、当時から「自分探し」をしていたフリーターや「自分が見つからない」ニートのパターンです。その彼らがもはや30代を過ぎ、40代になりつつあります。著者によれば「彼らや私たちの価値変化の中心には、われわれを幸せにできない『科学』と『経済』への信頼の喪失がある」(48頁)とのことです。同感です。

著者は言います。

「私たちはこのように、かつて人々が親しんできた多くのものを失おうとしており、そして一方で、否応なく道の多くkのものを得ようとしています。同時代の誰も経験したことのないスケールの不安と不安定、とてつもない自由のまっただ中に放り出されている、と言い換えてもいいかもしれません」(223頁)

著者はこの変化をあくまでも新たな時代への夜明けとして、前向きに「私たちの世代に贈られた、大変困難だけどもやりがいのある贈り物」(231頁)と捉えています。価値観の変化は旧来の価値観との間に様々な不協和音や不都合を呼ぶことは間違いありません。しかし、マクロな視点に立ってみれば、相当の変化にもうろたえずに対処できると著者は考えているようです。

とはいえやはり心配ですよね。しかし、著者のこの積極的な姿勢は見習いたいと思います。

(朝日新聞社1995年2000円+税)

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2012年6月 3日 (日)

上橋菜穂子『虚空の旅人』

これも傑作です。第1巻で幼かったチャグムも14歳になり、強く賢く優しい皇太子に成長してきました。本書はそのチャグムが主人公で、「守り人」シリーズの余話というか、外伝みたいな感じですが、相変わらず綿密に構成されたスリリングな物語世界が楽しめます。

ちなみに、この巻では挿絵が佐竹美保のものになります。これもまたいい絵で、作品をしっかり読み込んで愛情を込めて描かれていいて、物語世界を補強してくれています。

子ども向けのファンタジー小説とはいえ、政治の世界のえげつなさが実にリアリティーをもって描かれていて、単純な勧善懲悪でないところが、子どもの世界から大人の世界への橋渡しをしてくれているように思います。こういう作品をしっかり読んで、悪に対して免疫力を養っておくというのは必要かも知れません。実際、登場人物の行動はしばしば現実の政治世界のそれと見事に重なって見えます。ただし、現実はもっと情けなくて決断力に乏しい官僚型キャラクターばかりですが。

物語に登場する国々もそれぞれの文化や自然の違いが鮮明かつ詳細に描かれていて感心させられます。著者はアジアやオーストラリア、南洋諸島の諸民族に関する研究からもかなり栄養を得ているように思います。それぞれが実にそれらしく描かれていて魅力的な世界を形作っています。

次はまた「守り人」シリーズに戻って楽しみたいと思います。

(軽装版偕成社ポッシュ2007年900円+税)

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2012年6月 1日 (金)

カール・ポランニー『市場社会と人間の自由 社会哲学論選』

カール・ポランニーの社会哲学的論考を編集・翻訳した新刊です。貴重な論考が時系列的に編集されていて、ポランニーの社会思想家としての成長・成熟がわかるようになっています。

ポランニーは60歳で常勤の研究職に就くまでは、各国でジャーナリストや編集者の仕事をしながら、研究会や講演会で発表したり、講演したりしてきた人です。そのためかどうか、はっきり言って、若い頃の論考はいろんなところに目配りをしながらも、じっくりと考察するというよりは、言いたいことを曖昧にほのめかすようなジャーナリスト的な文章が多かったように思います。本書でも、前半の諸論考は表現が込み入っている割には原理的考察があまりなされていないという印象を持ちました。

ポランニーは若い頃から他の思想家の影響を受けやすい人で(そのぶん飽きるのも早いのですが)、マルクスをぬるくしたような内容であったり、スターリニズムを評価している危ない内容もありました。本書にはそうした論考もそのまま収められています。

とりわけ第二次大戦間期から戦後しばらくの間の論考は、その当時のドーソンのような歴史家や、オルテガ、ベルジャーエフ、ピカートといった思想家たちの政治哲学的論考と比較すると、残念ながら格段に水準が落ちます。思うに、先人の思想を徹底して読み込んだうえで原理的な思索を展開するというような作業が苦手だったのではないでしょうか。

しかし、本書の後半あたりから、ポランニーは徐々に直感の冴えを見せはじめ、豊かな発想と来るべき世界に向けての構想が展開されてきます。大学出たての頃、政治の世界で発揮していたアジテーター的才能は社会哲学や文明論における預言者的才能へと成長したように見えます。

ただ、いつも思うのですが、マリノフスキーやトゥルンバルトに言及しながら、かつての師匠のショムローの先駆的業績をポランニーがことさらに無視するのは、感心しません。ショムローの研究家としては故人に成り代わって文句の一つも言いたくなります。(このことは、今度私が出す本の中でも指摘しておきました。有志は読んでやってください。しかし、いつ出るのかなあ。版元は7月と言っていますが。)

本書でポランニーはマルクスの『経済学哲学草稿』に示唆をえて、いわゆる疎外論・物象化論を検討していますが、その『経済学哲学草稿』が発見される前にルカーチが提示した斬新な解釈は、読んでいたのかいなかったのか。これもことさらに無視したのか、どうなのでしょう。まあ、いずれ怒りに燃えたルカーチ研究者たちがその辺の事情は明らかにしてくれるでしょう。

私はルカーチのことはさほど好きではありませんが、原理的考察力の点では、当時のポランニーよりもルカーチに軍配が上がると思います。それもルカーチが圧勝です。

まあ、いろいろとお騒がせなポランニーですが、こうやって遺稿が整理されては改めて読まれ続けるというのは、やはりその才能に光るものがあるからです。人物として単なるうっかりものなのか、あるいはひょっとしてかなり嫌なやつなのか判断がつかないところがありますが、そういう私もポランニーのこの複雑なキャラに惹かれて、関連の書誌資料を整理しているところです。呪われているのかも。

(大月書店2012年3800円+税)

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