上橋菜穂子『虚空の旅人』
これも傑作です。第1巻で幼かったチャグムも14歳になり、強く賢く優しい皇太子に成長してきました。本書はそのチャグムが主人公で、「守り人」シリーズの余話というか、外伝みたいな感じですが、相変わらず綿密に構成されたスリリングな物語世界が楽しめます。
ちなみに、この巻では挿絵が佐竹美保のものになります。これもまたいい絵で、作品をしっかり読み込んで愛情を込めて描かれていいて、物語世界を補強してくれています。
子ども向けのファンタジー小説とはいえ、政治の世界のえげつなさが実にリアリティーをもって描かれていて、単純な勧善懲悪でないところが、子どもの世界から大人の世界への橋渡しをしてくれているように思います。こういう作品をしっかり読んで、悪に対して免疫力を養っておくというのは必要かも知れません。実際、登場人物の行動はしばしば現実の政治世界のそれと見事に重なって見えます。ただし、現実はもっと情けなくて決断力に乏しい官僚型キャラクターばかりですが。
物語に登場する国々もそれぞれの文化や自然の違いが鮮明かつ詳細に描かれていて感心させられます。著者はアジアやオーストラリア、南洋諸島の諸民族に関する研究からもかなり栄養を得ているように思います。それぞれが実にそれらしく描かれていて魅力的な世界を形作っています。
次はまた「守り人」シリーズに戻って楽しみたいと思います。
(軽装版偕成社ポッシュ2007年900円+税)
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