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2012年6月 1日 (金)

カール・ポランニー『市場社会と人間の自由 社会哲学論選』

カール・ポランニーの社会哲学的論考を編集・翻訳した新刊です。貴重な論考が時系列的に編集されていて、ポランニーの社会思想家としての成長・成熟がわかるようになっています。

ポランニーは60歳で常勤の研究職に就くまでは、各国でジャーナリストや編集者の仕事をしながら、研究会や講演会で発表したり、講演したりしてきた人です。そのためかどうか、はっきり言って、若い頃の論考はいろんなところに目配りをしながらも、じっくりと考察するというよりは、言いたいことを曖昧にほのめかすようなジャーナリスト的な文章が多かったように思います。本書でも、前半の諸論考は表現が込み入っている割には原理的考察があまりなされていないという印象を持ちました。

ポランニーは若い頃から他の思想家の影響を受けやすい人で(そのぶん飽きるのも早いのですが)、マルクスをぬるくしたような内容であったり、スターリニズムを評価している危ない内容もありました。本書にはそうした論考もそのまま収められています。

とりわけ第二次大戦間期から戦後しばらくの間の論考は、その当時のドーソンのような歴史家や、オルテガ、ベルジャーエフ、ピカートといった思想家たちの政治哲学的論考と比較すると、残念ながら格段に水準が落ちます。思うに、先人の思想を徹底して読み込んだうえで原理的な思索を展開するというような作業が苦手だったのではないでしょうか。

しかし、本書の後半あたりから、ポランニーは徐々に直感の冴えを見せはじめ、豊かな発想と来るべき世界に向けての構想が展開されてきます。大学出たての頃、政治の世界で発揮していたアジテーター的才能は社会哲学や文明論における預言者的才能へと成長したように見えます。

ただ、いつも思うのですが、マリノフスキーやトゥルンバルトに言及しながら、かつての師匠のショムローの先駆的業績をポランニーがことさらに無視するのは、感心しません。ショムローの研究家としては故人に成り代わって文句の一つも言いたくなります。(このことは、今度私が出す本の中でも指摘しておきました。有志は読んでやってください。しかし、いつ出るのかなあ。版元は7月と言っていますが。)

本書でポランニーはマルクスの『経済学哲学草稿』に示唆をえて、いわゆる疎外論・物象化論を検討していますが、その『経済学哲学草稿』が発見される前にルカーチが提示した斬新な解釈は、読んでいたのかいなかったのか。これもことさらに無視したのか、どうなのでしょう。まあ、いずれ怒りに燃えたルカーチ研究者たちがその辺の事情は明らかにしてくれるでしょう。

私はルカーチのことはさほど好きではありませんが、原理的考察力の点では、当時のポランニーよりもルカーチに軍配が上がると思います。それもルカーチが圧勝です。

まあ、いろいろとお騒がせなポランニーですが、こうやって遺稿が整理されては改めて読まれ続けるというのは、やはりその才能に光るものがあるからです。人物として単なるうっかりものなのか、あるいはひょっとしてかなり嫌なやつなのか判断がつかないところがありますが、そういう私もポランニーのこの複雑なキャラに惹かれて、関連の書誌資料を整理しているところです。呪われているのかも。

(大月書店2012年3800円+税)

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