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2012年7月22日 (日)

菊地成孔+大谷能生『M/D マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究 上』

伝説の東大ジャズ講義の続編にあたりますが、内容はマイルス・デイヴィスの個別研究を詳細に展開したものとなっています。講義内容に相当な書き込みが加えられ、本書は特に菊地成孔色の強いテキストとして見事に練り上げられています。

かなり難しいことも書かれている箇所もありますが、文章に勢いがあるために、決して読むのに難儀しません。ジャズのアドリブのように、少しくらいわからない音があっても全体として何を言いたいのかを聴けばいいからです。

ジャズの歴史をひとりで背負った感のあるマイルスですが、その生い立ちから電子楽器を取り入れる直前までが本書上巻で取り扱われています。ジャズだけでなく、その他の同時代のサブカルチャーとの相関関係の中で、マイルスの創造性を浮き彫りにすることに成功していて、本当にお見事の一言です。

また、著者が二人とも現役の音楽家といいうこともあり、創造の現場からの視点が光っています。単なる口先だけのジャズ評論家とは違います。たとえば、

「ジャズの演奏中に価値の変化は必ず『誰かが最初に、恣意的に仕掛けて、それを他者が受信し、しかるのち、合意して変化がやってくる。あるいはやってこない』という、時間を伴った『取引の現場』を、演奏は開示しつづけている」(446頁)

というところなどです。これは実際に演奏をしていないと、なかなかわからない表現だと思います。

また、濱瀬元彦さんによるチャーリー・パーカーの発言の分析で、「あるセヴンス・コードに対して、適切な展開を施して関係するメジャー・コードを割り出したら、そのメジャー・コードの5度をフラットさせて演奏すればいいんだ」というところは、なるほど、と腑に落ちました(すみません、ここ、専門的で。自分の覚書として書き留めておきたいもので。濱瀬さんの本も入手しなくては)。

下巻も楽しみです。

(河出書房新社2011年1400円税別)

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