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2012年8月10日 (金)

ジョン・ロンソン『サイコパスを探せ! 「狂気」をめぐる冒険』(古川奈々子訳)

読み応えのあるドキュメンタリーでした。サイコパスというのは独善的で他人への同情や共感を持たず、良心の呵責を感じないタイプの精神病質で、刑務所人口の25%、一般社会の人口の1%に見られるとされています。

本書にはその道の権威であるボブ・ヘアの作った20項目のチェックリストが載っています。それによると、

口達者/うわべの魅力、自己価値に対する誇大な感覚、刺激を必要とする/退屈しやすい、病的な嘘つき、狡猾/人を操る、良心の呵責あるいは罪悪感の欠如、浅薄な感情、冷淡/共感性の欠如、寄生的な生き方、行動を十分に抑制できない、相手を選ばない乱れた性行動、幼少期からの行動上の問題、現実的な長期目標を持てない、衝動的、無責任、自分の行動に対して責任を取ろうとしない、何度も結婚するが長続きしない、少年犯罪、仮釈放の取り消し、多様な犯罪歴

といったものです(122-123頁)。

ヘアによれば、連続殺人犯だけでなく、企業や政治や宗教の世界にもサイコパスはいて、経済や社会をめちゃくちゃにするそうです(141頁)。そうでしょうね。そうやって見てみるといたるところにこんなタイプがいるような気がしてきます。それもかなりの割合で。

実際、サイコパスがいる割合は、通常の人びとの集団よりも高い地位についている人びとの集団のほうが高い(141頁)とする専門家も少なくないようで、その割合は3~4%に上るとも言われています。やっぱあの人なんかそれ系ですねとか思い当たる向きも少なくないでしょう。

著者もそういう観点から、他に類を見ないほど残虐なハイチの「死の部隊」の創設者や、リストラ大好きなCEO、元英国諜報部の英雄や天才犯罪プロファイラーなどにインタビューを重ねていきます。みんながサイコパスというわけでもなさそうなのですが、思いっきり変な人ばかりです。

もちろん、このリストはそれなりに有効ですが万能ではなく、境界事例も存在しえます。著者はこのリストによってどちらかと言うと安易に判定された可能性を否定出来ない事例も取材し、精神病院に12年も閉じ込められたままになっている青年にも会いに行きます。

著者自身が次第にこのリストの持つパワーに疑問を持ち始めることも正直に書かれていて、精神分析を巡る欧米の状況も丁寧に取材されています。分析医が病気を作り出す側面もまた否定出来ないからです。

こういう問題へのアプローチと語り口に関しては、とりわけ欧米のノンフィクションライターは上手ですね。参考にしたいと思っていますが、こんな感じでハンガリー思想史なんか書いてみるとどうなるのかは、よくわかりません。とりあえず書いてみてから考えたほうがいいのでしょうね。

(朝日出版社2012年1600円+税)

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