榊博文『日本人は何故大人しい ―「陰陽」で読み解く「日本人」―』
社会心理学では相手と自分の意見の食い違いが大きくなると、人は自分の意見や態度を変える傾向があり、さらに食い違いが大きくなると、今度は相手を低く評価するようになると言われてきました(認知不協和理論)。
著者はこの理論を検証していくうちに、実は意見の食い違いが大きくなると、説得方向への意見変化が生じることに気が付きました。そして、
人は自分の立場と同様の立場に立つ意見を主張されると、その主張とは反対方向へ自分の意見を変えるという「ブーメラン効果」があることがわかってきました(161頁)。
これが著者のいう「認知の陰陽理論」です。
陰陽理論は万物に陰陽の二気があり、これが二つで一つをなしているという易経および道教に由来する哲学であり、世界観ですが、この気は固定的なものではなく、常に運動し、陰は陽に、陽は陰に移行するものとして捉えられます。
この見方をとると、世界が「こうなっている」ということについては説明できないものがなくなります。「なぜそうなるのか」についてはわかりませんが、それは思うに誰もわかりません。宗教的な説明ならいろいろありますけど。
この陰陽理論で世の中の様々な現象を説明したのが本書なのですが、東洋生まれの理論ですが、仮説を立てて検証していくスタイルは日本人離れしていて新鮮です。そもそも認知的不協和理論に異を唱えるところから出発している点で、ふつうの横のものを縦にするだけの学者さんではありません。
「一が二に分かれ、二が対立したり協力したりするところに陰陽哲学の妙味があります。そして外と内のバランスの中に、そして自分と他人との交流の中に人間生活があります」(219頁)
というだけあって、本書の話題は多岐に及びますが、特に日本人の性質については、こう言います。
「強者を支え、その陰で歴史を動かしてきたのは、じつは主役を立て、、裏からリードしていった表面的には弱気の、一皮むけば強気の遺伝子を持つ、穏和で聡明で、争いを避けることのできる人たちです」(253-254頁)
この対立し、矛盾する陰と陽を和していくところに著者は日本人の進むべき道を見出しています。スケールの大きな世界の見取り図が提起されていて、日本人として勇気づけられます。
(おうふう2011年2000円+税)
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