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2012年9月 2日 (日)

佐貫亦男『不安定からの発想』

航空工学の苦難の歴史だけでなく、不安定な状態を受け入れつつ、操縦することで安定を獲得するという知的営みが、実人生にも多くのヒントを与えてくれることも教えてくれる本です。

著者はこれを意識的に展開していて、本書中には様々な金言が散りばめられています。

著者は次のように言います。

「もちろん、力学と人間的行動との対比には問題があるから、このとおりとは断言できないが、よく対応する点も多い。したがって、このような力学的モデルを作って一応結論した上で、さrに細部にわたって再検討し、必要ならば訂正変更をすれば、さらに興味のある内的反省が可能となる」(214頁)

こういう思考法はわが国では畑村洋太郎さん設計理論などに典型的に現れていますが、本当はわが国の社会学的思考があまりにも理論モデルの構築とは無縁の作文をするので、こういう議論に慣れていないだけのことかもしれません。

本当はコントやデュルケームやヴェーバーの社会学理論にもこの要素が含まれているのですが、ついつい文学的ではないにしても、難しい文体の思想的著作として、こうした理論を情緒的に理解しようとする傾向があるため、話を無用に複雑にしてきました。

同じテキストを読んでもつかまえるポイントが随分ずれているところがあるのです。

その点で、こうした理系的なすっきりとしたモデル構築的知性に出会うと、頭の中のごちゃごちゃを掃除し、整理整頓してもらっているようで、さわやかな気になります。

比喩のすべてに納得がいくわけではなくても、作者自ら訂正変更の余地を織り込み済みなので、著者から議論の内容以上に余計なプレッシャーを受けることはありません。

著者の文体は堅苦しいものでないどころか、ユーモラスでおおらかな人となりが伝わってきます。楽しい本でした。

(講談社学術文庫2010年840円税別)

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