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2012年11月23日 (金)

アザー・ガット『文明と戦争』(上)

ルソーの社会契約論では、文明化されていない人間の原始的な自然状態は、戦争など存在しない穏やかなユートピアであったと仮定されていました。この仮定はマルクスにも受け継がれ、現代人の通念となっているように思われます。

著者はこうした通念は間違いで、原始時代から人間は殺し合いに明け暮れてきたという事実を、様々な学問の成果を取り入れながら実証しています。そして、どうやら実態はルソー以前にイギリスのホッブズが「人狼」状態と呼んだものに近かったということがわかってきました。

原始時代において、人類の死因のトップは殺人で、男性の10パーセントから30パーセントが殺人と戦争で亡くなってきたと推定されています。皆殺しでなければ、奴隷という戦争が世界の伝統だったことがわかります。

アメリカ兵が戦勝国として日本国民に乱暴狼藉をはたらいてきたのも(いまもそうですが)、敗戦国の人間は皆殺しでなければ奴隷だと考えているからでしょう。旧約聖書の民数記31章に未婚の女性の分配について記述されていることも、ユダヤ・キリスト教の常識として考えておいた方がいいのかもしれません。それにしても著者はイスラエルの研究者ですが、民数記についての言及も避けていないところが立派です。

こうしてみると、それなら人間の善行はいったい何を根拠に生まれてきたのだろうかと、不安になってしまいます。私自身気がつかないうちに原始社会=ユートピアの観念にとらわれていたのでしょう。私自身結構えげつないことを本に書いたりしてきたんですが、それでも驚かされることがたくさんありました

すごい本です。

下巻を読んで気がついたことがあったらまた書きます。

(中央公論新社2012年3600円税別)

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