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2012年12月29日 (土)

日下公人『思考力の磨き方』

本書は、著者がこれまで日本を書くためにしゃべったり書いたりしてきた断片的なアイデアを版元のすすめでまとめて一冊にしたものだそうです。実際、読んでみると、本書は著者ならではの刺激的なアイデアがぎっしり詰まっていて驚かされました。

以下、印象的な箇所を列挙してみます。

「いくら計量モデルを用い、数式を駆使しても、投資や消費や規制緩和に反応する『中流』の人がアメリカにはもういないとか、日本には比較的多いとか、そういう社会の変化を考えない数量経済学や理論経済学は成り立たない。媒介変数が変わると乗数効果が変わる。ときにはゼロになる。アメリカでも日本でも、政権の周りに集まっている学者たちはそのことに気づいていないか、見て見ぬ振りをしている」(42頁)

新政権の経済政策も心配です。

「言葉を使って人をだますことは、いくらでもできる。しかし、ごまかしをしょっちゅうやっていると、言葉に溺れてしまい、やがて自分自身がだまされることになる」(65頁)

こういう偉いさんって少なくないですよね。

「人間には『アナリシス』(分析)よりもっとすごい『アナロジー』(類推)力があって、一瞬にして結論に到達することができる。アナロジー力は人間がもっている直感能力で、これはロジックを必要としない」(97頁)

たとえ話がうまい人というのは説得力がありますもんね。

これだけからでもいろいろと考えさせられます。ほかに具体的で面白い提言もたくさんありますが、ここでは省略させてもらいます。ご関心のある向きはぜひ本書をお読みください。

(PHP研究所2012年1,400円税別)

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2012年12月26日 (水)

日下公人『日下公人が読む 2013年〜 日本と世界はこうなる』

いつも他の人と目の付け所が違う著者ですが、本書もまた色々と教えられました。

ヨーロッパがアジアやアフリカから膨大な富(過去の労働)を略奪して、それを元金として有利な産業へと貸し出すことで資本主義が始まり、その利益や配当は資本を借りた人たちの「現在の労働」から支払われ、元本の返済は、これから誕生する将来の産業で働く人たちの「将来の労働」から支払われる、と著者は言います。

なるほど資本主義の始まりが略奪で、最後はその金融ゲームのツケを将来に回すというように、全体がバブリーな仕組みになっていることがよくわかります。

そして、この仕組を支えているのが「信用」で、これからはどうやら信用が収縮する時代に入るだろうと著者は言います。

信用が収縮すると、担保に何を取るかが問題になりますし、ヘタをすると国家が不渡りを出すようなことになりかねません。人びとは少しでも安全な通貨に替えようとするため、かなりの円高になることが予想されます。

そういう著者は「野田政権の次の政権が日銀法を改正して、金融を自分の好きにするかどうか心配である。それをすると、やがてやってくる金融大津波に日本も飲み込まれる可能性がある」(118頁)と危惧しています。

しかし、その心配通りの道を安倍新政権は今のところ進もうとしているように見えます。どうしたものでしょうね。

専門の学者たちの間でもリフレ派と構造改革派はお互いに相手の不勉強を貶し合っていますが、著者の角度から見たら、やはり世界的には少数派に属するリフレ派の旗色が悪そうに見えてきます。

実際どうなんでしょう。マンキューやスティグリッツのマクロ経済学を読めば、そこら辺って少しは分かるんでしょうかね? ま、おいおい勉強していきます。

他に、財務省や金融相を東西に分けて競争させてみるとか(江戸時代の北町と南町奉行所みたいに)、衆議院を全国一区制にして、例えば上位300人(定員)を当選にするとか、面白い提案がたくさん出てきます。

(WAC株式会社2012年1238円+税) 

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2012年12月21日 (金)

ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』村井章子訳

人間は、直感的で感情的な「速い思考」と、意識的で論理的な「遅い思考」とを組み合わせて用いながら、意思決定を行なっているというのが、著者のいう「ファスト&スロー」です。

本書ではこの前者をシステム1、後者をシステム2として話が展開します。システム1は自動的に働きますが、システム2は努力を伴います。で、しばしば人間は怠け者なので、システム1だけで済むものなら済ませようとします。

そして何よりこのシステム1だけで済ませようとするところに、人間の不合理な行動の鍵が潜んでいます。システム2は怠け者なのだと著者は言います。

この二分法は人間の認識や行動のあやまちを実にうまく説明してくれます。我々のあやまちの原因は、衝動的に結論に飛びついたり、あっという間に目に映る物から固定観念やストーリーをこしらえてみたり、答えを出しやすい方法を優先したり、原因と結果を妙につなげてみたりするところから生じています。

これまでも他の本で、とりわけ行動経済学の本で扱われてきた人間の思考の癖とか慣性はもれなく収録されている感じです。なにせ、著者はこの道の大家ですからね。

本書でとりわけなるほどと思わされたのは平均への回帰という現象です。確率論的な事象は平均値に近づこうとしますが、このことを妙に解釈することで、人はとんでもない因果論を主張する場合があるということです。栄養ドリンクを飲むと鬱が解消するなんてのがこれです。

専門家も同様のあやまちに足元をすくわれることが少なくなくて、むしろ専門家だからこそ陥りやすいあやまちが縷縷説かれています。このあたり統計的にもびっくりするような数字が示されています。

はたして人はそうした自分のあやまちにいつかは気がつくのでしょうか。気がつくとしたら一体どんなきっかけでしょうね。気がついてほしい人はいろいろといるんですが、そういう人ほど気がつきそうにないんですよね。

下巻が楽しみです。

(早川書房2012年2100円+税)

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2012年12月17日 (月)

新渡戸稲造『西洋の事情と思想』

新渡戸稲造の博識と人柄が偲ばれる名著です。ずいぶん以前に読んで印象深かった本ですが、先日生誕150年記念研究会(という名の飲み会)を開いたので、改めて読み返しました。

やっぱりいい本でした。語り口ももともと講演だったものを起こしたこともあり、親しみやすく、ユーモアにあふれています。

長い海外生活の中で得られた知見からもいろいろ教えられるところがあり、例えば紀元前の戦争の話でギリシャとイランの代表者が、国際会議の席上で言い争ったりするなんてのを目撃するのは著者ならではのことではないでしょうか。

また、ヨーロッパとアジアの境とされる、ウラル山脈のなだらかさについて、著者は「私も幾度か通ったが、いつ越えたのかわからないような所である。ブラブラ散歩しながら通れるような所で...」(46頁)と書いています。こういうふうに実際に体験し、実感した話というのは、説得力があります。

「だから境界といえば境界であるが、これをもって民族の移動を妨げるとか、、戦のときに盾に取るというほどの境界ではない」(同頁)とか言われると、世界史の見方もちょっと違ってきます。

ヘレニズムやヘブライズムその他の基本的知識も勘所をとらえてわかりやすく述べられていますので、比較文化論の参考書にもうってつけです。

ただ、巻末の平川祐弘氏による解説は、本書の内容について、著者よりもずいぶんな高みに立ったところからの否定的評価がなされていて、驚きます。

本はつまらないけれど、多くの優れた弟子たちを育てた点で、やはり「近代日本の偉人の一人」(216頁)だろう、という解説ってありですかね。

(講談社学術文庫1984年600円)

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2012年12月13日 (木)

新渡戸稲造『武士道 BUSHIDO 』(須知徳平訳)

今年生誕150年ということで、年末に新渡戸稲造研究会という名の飲み会を企画していますが、せっかくですから、この機会に読み直しました。

昔、矢内原忠雄訳で読んだことがありましたが、本書は英文対訳になっていて、原書の英語を参照することができます。ときどき気になって英文を眺めてみましたが、英文は明快で、いいお手本になるように思います。

何より今日こういうかたちで海外に向けてメッセージを発信することのできるインテリが少なくなっている気がします。日本人が日本の文化について、外国人に説明し、説得しようとするという姿勢自体が稀有なものとなっています。

洋行帰りのインテリはたくさんいますが、しばしば国内で自分の語学力を自慢する方向でしかその知性が機能していない人を見かけます。

著者にしても、盟友の内村鑑三にしても、鈴木大拙にしても、その著作の半分以上が英文だったりするような人は、そもそものベクトルが正反対なのでしょうね。

新渡戸稲造の著作としては『西洋の事情と思想』が一番好きですが、本書もその姿勢をまずは学ばなければと、読むたびに思います。

それにしても、武士道自体は今やほとんど消えかけていますね。きょうびはヤクザの中にも残っていないようです。

一方本書を読みながら、武士道はむしろ日本の母親の中に案外息づいているのではないかという気もしました。案外職場でも女性のほうが義侠心があったりします。労働組合活動なんかをしっかり支えてくれるのもむしろ女性だったりしますから。

(講談社インターナショナル1998年1300円税別)

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2012年12月12日 (水)

アザー・ガット『文明と戦争』(下)

下巻も教えられるところの多い本でした。

上下巻併せて1000頁を超える大著ですが、本当に膨大な文献が駆使されていて感心させられます。

下巻では「産業・技術革命と、それに続く自由主義の進展が戦争の発生率を抜本的に減少させた」(447頁)という視点が新鮮でした。核兵器の抑止力以前からこういう状態が生まれていたことを著者は指摘していて説得力があります。

今日の「戦争なんて真っ平御免だ」という態度は、それはそれなりに歴史的意義があることだったんですね。

他方で相変わらず自由主義からは程遠い好戦的な国も相変わらず存在しているわけですから、その点については著者も楽観はしていませんし、また、将来の予測も立たないという結論になります。

まあ、そうですよね。そこから先は自分たちで考えないといけません。

翻訳文はあまり問題なく読めましたが、ethnos をエトノスではなくて、英語流に「エスノス」とするのはいただけません。GHQにきをつかっているわけでもないでしょうに、どうしてなんでも英語流発音にしてしまうのでしょう。

(中央公論新社2012年3600円+税)

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2012年12月 9日 (日)

八木雄二『神を哲学した中世 ヨーロッパ精神の源流』

いろいろと教えられるところの多い本でした。中世の哲学の流れはキリスト教神学が絡んでいるため、しばしば理解が難しいところがあるのですが、著者はこれをわかりやすく解説してくれます。

アリストテレスの自然学などの思想がイスラム世界を経由してヨーロッパにもたらされた事情なども、丁寧に解説されているので助かります。

これまで、なんとなくプラトンとアリストテレスが同時に入ってきたような気がしていましたが、中世ローマには新プラトン学派の影響が残っていたので、ここはアリストテレスのテキストの読解がアラビア語から翻訳されて中世ヨーロッパにもたらされたという理解に修正しておかなければなりません。

以前、とあるいい加減な知識人がプラトンもアリストテレスも中世ヨーロッパでは知られていなかった、なんて言っていたのを真に受けていましたが、思えばアウグスティヌスはプラトンの影響を間接的にではありますが、はっきりと受けていたわけですから、真に受けた私が馬鹿でした。(そのことも本書には書かれています。)

中世における神の存在証明の意味も、本書ではっきりと理解することができました。

「神の存在証明の背景にあるのは、形而上学が前提にしている不可視の実在の秩序である。すなわち、目に見える存在の彼方に、普遍的な根拠(普遍力)が実在している、という実在想定である。そして地上に目を移せば、そこに見える存在は、その普遍力の実在を根拠・原因にしてはじめて存在している。そういう実感である」(175頁)

われわれ日本人の苦手とする思想と世界観が凝縮されています。私も分かったというより、そういうものかとこの表現を眺めつつ、今後いろいろと物事を考えていく糧にしたいと思います。

(新潮選書2012年1400円税別)

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2012年12月 3日 (月)

石井彰『脱原発。天然ガス発電へ』

これもいい本ですが。昨日読んだ同著者の『エネルギー論争の盲点』とかなり重なります。天然ガスについて特化して、記述が詳細になっていますので、そちらにとりわけ関心のある人はどうぞ。

感想としては重なる点が多いので、ここで書くことはあまりありません。ただ、原発については、態度がはっきりしています。

「いくら原発のリスクが高いからといって、代替エネルギーのめども立たないうちに多くの原発を廃炉にしたら、経済全体がダメージを受けるばかりでなく、バーゲニングパワーも一気に低下する。下世話な言い方をするなら、売り手から足元を見られるのである」(125頁)。

経済全体のダメージは実際、年間3兆円の損失となってすでに顕在化しています。国民にその覚悟があるかどうかが今問われているのでしょう。今度の選挙はどうなるでしょうね。結局のところ、またまた雰囲気に流されるのかなあ。

(アスキー新書2011年743円+税)

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2012年12月 2日 (日)

石井彰『エネルギー論争の盲点 天然ガスと分散化が日本を救う』

エネルギーに関する人びとの思い込みを是正してくれる良書です。マスコミ報道も相当いい加減だということがわかります。

本書の帯にもありますが、ドイツの太陽光発電量は1%で、原発大国フランスから安い電力を買い入れて供給量の安定を図っているとか、天然ガスの利点について電力会社の意向を慮って正確な報道をしてこなかったマスコミの態度とか、よくわかります。

本書刊行後のことですが、秋田県沖合で大量のシェールガス地層が見つかったりしたこともありますし、著者の言うように、わが国も諸外国にならって天然ガス・シェールガス利用への移行や、コンバインドサイクルの発電システムやコジェネレーションの普及を推し進める必要があるでしょう。

一読をおすすめします。

(NHK出版新書2011年740円+税)

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