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2013年1月19日 (土)

中津文彦『亥ノ子の誘拐 塙保己一推理帖』

塙保己一の研究会という名目で学生と飲み会を企画していますが、当日までに保己一関連の著作などを読んでおかなければないという宿題があります。まさか、『群書類従』を読むわけにもいかないので、この推理小説を読んでいくことにしました。

盲目の大学者塙保己一については森銑三による研究書をはじめ、結構たくさんありますが、小説家たる著者が丁寧に調べて、愛情のこもった想像力によって造形された人物像は研究書とは違う魅力があります。

あとがきにありましたが、時代小説作家もまた、『群書類従』のお世話になることが少なくないのですね。実際、時代考証には欠かせないそうですから。そうして調べ物をするうちに、そもそも群書類従を編纂した保己一という人物に関心が出てきたんだそうです。

保己一はもちろん博覧強記の学者で、合理的な洞察力はもちろんのこと、盲人独特の音や匂いに対する感覚も手がかりにしながら、難しい事件を推理していきます。

本シリーズは推理小説としてきっちり作りこまれているだけでなく、江戸の警察組織、行政組織や吉原の風俗に関して、素人にわかりやすく解説されていますので、保己一についてのイメージがつかめるだけでなく、時代劇の入門的知識が得られます。

ただ、事件はかなり凄惨で、悲しいものなので、読後はかなりしんみりとさせられてしまいます。人間のもつ業とその悲しさが胸を打ちます。いい作品であることは間違いありませんけど。
(光文社時代小説文庫2009年590円+税)

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