« 日下公人『思考力の磨き方』 | トップページ | キャスリン・シュルツ『まちがっている エラーの心理学、誤りのパラドックス』(松浦俊輔訳) »

2013年1月 3日 (木)

ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』(下)村井章子訳

上巻の感想と基本的には変わりませんが、この巻でも直感的判断や選択のエラーについての例がふんだんに挙げられていて、ほんとうに参考になります。

専門家と言えども、あるいは専門家だからこその直感的判断の誤りにはとりわけ用心しなければならないことがよくわかります。経営者が「自分の能力で結果を左右できると思い込む『コントロールの錯覚』に陥りやすい」(45頁)といった指摘などは、心ある経営者の耳には届くのでしょうけれど、届かない人もたくさんいそうです。

経営者ばかりではありません。大企業の財務責任者の予測などは相関関数がゼロ以下(つまりまったく当たらない)にもかかわらず、「それよりも悪いニュースは、CFO[最高財務責任者]が自分たちの予測能力のなさを、いっこうに自覚していないらしい」(48頁)ことです。ああ、これも思い当たりますね。

患者の生存中に意思が下した診断と解剖結果の比較調査では「絶対確実と医師が自信を持っていた生前診断の約40%は誤診だった」(50頁)そうです。そうでしょうね。内科のお医者さんなんか、もっと多いんじゃないでしょうか。

こうしたミスを防ぐための方法も著者はいくつか提唱していて、医者にかぎらず、経営の失敗なども含めた「死亡前死因分析」を行うことなどはかなり有効だと思います。

また、サンクコストへの対応は以前の決定にこだわって損切りを嫌がるCEOの更迭(168頁)だというのも社会心理学的な根拠があるわけです。

著者は言います。「ことエラーの防止に関する限り、組織のほうが個人よりすぐれている。組織は本来的に思考のペースが遅く、また規律を持って手続きに従うことを強制できるからだ」(273頁)

組織をシステム1を監視するシステム2の働きをするものとして有効に活用すべきだということです。実際、国家から小さな会社あるいは町内会に至るまでの組織を見ていると、権力に物を言わせて直感的かつ拙速に行われるイレギュラーな決定は、ことごとく間違っていると言っていいですから。

翻訳は読みやすく、日本語的に気になるところもなくスムースに読むことができました。原書と読み比べたわけではありませんが、きっと力のある翻訳者なのだろうと思います。

(早川書房2012年2100円+税)

|

« 日下公人『思考力の磨き方』 | トップページ | キャスリン・シュルツ『まちがっている エラーの心理学、誤りのパラドックス』(松浦俊輔訳) »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。