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2013年1月 8日 (火)

キャスリン・シュルツ『まちがっている エラーの心理学、誤りのパラドックス』(松浦俊輔訳)

面白い本でした。これは一読の価値があります。

間違いは人間につきもので、できるだけ間違わない方がいいに決まっているのですが、残念ながらそういうわけにはいきません。それどころか、その間違いを認めようとせず、事実を曲げたり、ハナから見ないようにしたりなんてことも世の中にしばしば見られます。

私の身の回りにもたくさんあります。自分は間違うはずがないという神話を瞬時に作り上げてしまうのが、人間の特徴だといっていいでしょう。

本書はそうした間違いの実例にも事欠きません。たとえば、目が見えなくても「見えている」と信じている人の話などには驚かされますが、それ以上に、間違った後の人間の心理について、驚かされ、教えられるところが多い本です。

間違っていることに気がつくと、人は世界観が崩れ、孤独で絶望的な気分に陥るということが、書物だけではなく、多くのインタビューなどにも基づいて、丁寧に描かれます。自分の証言によって無実の罪をかぶせてしまった人の経験など、なかなか読めるものではありません。

また、あるとき劇的に世界観が変わり、黒人差別運動(KKK)の指導的地位を捨てて黒人の社会的地位向上に尽力した人の話もあり、感心させられます。

間違いを認めてからが本当の勝負だったりするのですね。

著者は間違いもまた人間の創造力の一つとして付き合っていくべきだと考えています。最終章は詩や劇の話になります。間違いに楽観的かつ積極的に取り組むことで、芸術的創造へと繋がる道が見出されますし、生物進化も遺伝子の間違いから生まれると見ることができるからです。

微妙な難しいこともうまく表現できる著者の考察力と表現力が見事です。翻訳も読みやすいと思います。ただ、読むのに結構時間がかかります。内容が充実しているためでしょう。もちろんじっくり読むべき本なのですが、この450ページはかなり歯ごたえ、じゃない、間違っていますね、読み応えがありました。

(青土社2012年3200円税別)

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