中津文彦『つるべ心中の怪 塙保己一推理帖』
塙保己一を主人公にした連作時代小説の3巻目です。この間では江戸時代にコメを換金したり、融資したりする札差(ふださし)がどういうものかがうまく説明してあって、勉強になりました。蔵前から浅草橋にかけて札差が並んで営業していたんですね。
この界隈は昔国技館があって、そこでアルバイトしたことがありますし、先輩の先生のご自宅や、演劇関係の小道具を扱うお店があったりして、知らない街ではないため、へーあのあたりがねー、と思い起こしたりできるので、当時をいっそう身近に想像することができます。
また、レザノフを乗せたロシアの軍艦が長崎港に来たりと、時代背景も書き込まれていて、太田南畝が当時一年ほど長崎奉行所に勤めていたなんてこともわかります。
この巻も結構陰惨な事件が描かれますが、同時に周囲の人間模様もちょっとずつ動いて、これは最終的にどうなるんだろうと思っていたら、本巻のあとがきで作者は「ひとまずこの巻で筆をおきたい」と述べています。
史実としては登場人物たちはまだまだ長生きしてご活躍するそうですので、作者が改めて続編を書く気になるよう期待しています。
(光文社文庫2010年762円+税)
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