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2013年2月16日 (土)

北村英哉・大坪庸介『進化と感情から解き明かす社会心理学』

社会心理学はとりわけアメリカに実験データの膨大な蓄積があり、これを鳥瞰し整理するだけでも一生が終わってしまいそうな気がするくらいです。初学者向けの入門書を書くためでも、こうしたデータの全体像を把握しているかどうかが問われますので、専門家とはいえ大変なんだろうなと想像します。

本書は進化論的観点から社会心理学の研究遺産を把握し、整理し直そうという意欲的な試みです。

もちろん進化論といっても最近の潮流は、かつての適者生存ないしは自然淘汰の競争社会だけをイメージするようなものではなくて、人間がそれと気づかずに行なっている生存戦略や環境への適応、あるいは社会的認識の歪みなどについて、スマートに説明してくれるものです。

R.H.フランク『オデュッセウスの鎖』などはその代表的なものの一つかと思われますが、最終的な説明の根拠を進化論に求めると、説明としては筋が通りやすいのも確かです。

ただ、本書は大学生向けのテキストということもあって、真面目できっちり説明してくれるのがあだとなって、すんなりと頭に入りすぎてしまい、進化論的説明の利点があまり印象に残りません。なるほどー、と理解してそのままになてしまいそうです。

本書はたとえば、旧来の社会心理学ではうまく説明がつかなかったことが進化論ではこう説明できるというスタイルではないので、もう少し著者たちの立場を強調するように演出してくれたらよかったかなと思います。

そうした論じ方の点では、アメリカの社会心理学者の語り口は見事です。思うに欧米のインテリは激情や映画館に足を運び、文学に親しむ度合いがわが国と比べてはるかに高いということがあるのではないでしょうか。読者を楽しませるということにかけて、工夫の仕方が半端ではないのです。

もう一つは、学者以外のサイエンス・ライターの層が厚く、先端科学を一般読者にわかるように解説してくれる本が沢山刊行され、しばしばベストセラーになっているということがあるかもしれません。学者の文体や語り口にも好影響を与えているような気がします。

それはそうと、本書はもちろん大学のテキストとしては水準以上によくできていて、文献案内も充実しています。この分野を専攻する学生にとって必読の入門書ですし、私も本書を手がかりにこれからいろいろ勉強させてもらうつもりです。

(有斐閣2012年1900円+税)

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