ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質』[上][下]望月衛訳
こんなことありえないと思っていたことがある日突然現れて、その影響で世界が一変するような現象を著者は「ブラック・スワン」と呼びます。オーストラリアで実際に黒い「白鳥」が見出されたからには、そんなものは白鳥の湖だけの話というわけにはいかなくなります。
人は「そんなものはあるはずがない」「世界はこの範囲内でしか動かない」といった講釈をつくり上げるのにかけては名人で、一瞬のうちにそんな物語をでっち上げて安心しようとします。
しかし、世界はそんなとんでもないブラック・スワンの影響で動いていると、トレーダーとして長らく不確実な現象に取り組んできた著者は言います。とにかくわれわれは未来に何が起こるかなんて予測をする能力なんか最初から持ち合わせていないのです。
世界はフラクタル的なランダム性だけが表現できるような純然たる不確実なのですが、それを認めたがらない人間の生態について本書では徹底的に批判されています。
しかし、ランダムだからといって悲観する必要はなく、災厄になるような悪い黒い白鳥は避け、良い黒い白鳥は歓迎するという風に考えて、頭も心も柔らかくしておきましょうというのが、この破格で口の悪い著者のスタイルの背景にあるメッセージなんだろうなと思います。
架空のベストセラー作家の話なんかを小説的に盛り込んだりしながら、読者を徹底的に楽しませてくれます。読んでいるうちにそこはかとなく元気になってくるのは、おそらく自分もどこか黒い白鳥的な部分があるからかなと思わせられたりするからなのですが、案の定、最後に「忘れないでくれ、あなた自身が黒い白鳥なのだ」と書いてくれていました。
今まで読んだ本の中ではファイヤアーベントの科学哲学に近い気がしました。それにしても面白すぎます。敵も多いでしょうね。頭の硬い人は読んではいけません。
(ダイヤモンド社2009年1800円+税)
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