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2013年4月28日 (日)

ひろさちや『ひろさちやの英語で話す日本の仏教』ジェームス・M・バーダマン訳

かつて著者の『やまと教』(新潮選書)には感銘を受けましたが、本書はそのやまと教を含めて、日本の宗教のいろいろを歴史的にコンパクトに説明してくれています。

本書では、宗教は「人間らしい生き方を教えるもの」(14頁)と定義されています。日本の場合は「古き良き時代に、われわれの祖先たちが生きた美しい生き方」(22頁)を理想とする民族宗教が、著者のいう「やまと教」ということになります。

したがって、やまと教は一応日本書紀や古事記を聖典扱いにはしますが、これといった特定の聖典も教義も持っていません。日本人であれば全員が信者にされてしまうあいまいな民族宗教なのです。

やまと教の神はいわゆる八百万の神で、神話の神々や天皇、霊、霊力、道祖神や七福神、鬼神や貧乏神までも含まれます。こうした神々に対しては分け隔てなく感謝の気持ちを持って接しなければなりません。

また、気や穢れや禊、祓いといった重要な概念も解説され、実に興味深いのですが、詳しくは本書を読んでください。

このやまと教は、歴史上外国から仏教や儒教、道教、キリスト教が入ってきても今日までびくともせずに人びとの精神の中に息づいているというのが、著者の主張です。多分そうなんでしょうね。

また、日本の宗教史の簡潔明瞭な記述も印象的で、この内容に適切な英語訳が施されているのは、日本の宗教について外国人に説明する際に本当に助けになると思います。

外国で新しい学説があるとかいうと、競って取り入れるのがわが国のインテリの昔からの習性ですが、外国に対して日本についての説明をするという方向で英語その他の外国語を学習することはあまりなされていないと思います。

かつての新渡戸稲造や内村鑑三、鈴木大拙といった先人は著作の多くが英語だったことを思うと、わが国の知識人の世界に向けての発信能力は劣化しているように見えます。

もっとも、語学力もさることながら、紹介に足る内容のあるものを書いていれば、必ずや有志が翻訳してくれます。もっと頑張らなきゃですね。

(株式会社ジャパンブック2010年1300円税別)

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2013年4月27日 (土)

榊博文『マインドコントロール式説得術』

社会心理学を応用した説得術の本です。社会心理実験の成果がたくさん紹介されていながらコンパクトな新書にまとまっていて、社会心理学の入門書としてもおすすめです。(私の授業をとっている学生諸君は読んでおくように。)

社会心理学と言っても、著者の語り口が平易で親しみやすいので、決して学問学問した感じになりません。こういう語り口を見習いたいものですが、なかなか見習えないものです。ついわかりにくいことを書いてしまいがちな自分を反省しないわけにはいきません。

最終章の「マインドコントロール式説得術を実践する」ではケーススタディのように具体的に書かれていて参考になります。特に「自分より地位が上の人を動かす」というテーマは、常日頃自分の抱える問題でもあるので、いろいろと考えるヒントが得られます。

それにしても、理事長の気持ちまでを動かすのは至難の業です。提案が伝わるだけでもどうかすると何年もかかったりしますから。組織の体質の問題もありますし、なかなか一筋縄では行かないものです。

その一方で、なかなか説得に応じない人が、誰が見ても詐欺師然とした人間にいとも簡単にだまされたりするのを見ていると、説得交渉という世界の奥の深さを感じないわけにはいきません。

鍵は人間の欲望ですね。小説に書いた方がいいのかもしれません。

(マイナビ新書2012年830円+税)


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2013年4月26日 (金)

ホッブズ『哲学者と法学徒との対話―イングランドのコモン・ローをめぐる』田中 浩・新井 明・重森 臣広訳

ホッブズの立場が鮮明に示されている法制度論です。

法は立法者の意図が統一的にあらわれたものとして解釈され、
適用されるべきだという立場です。

この点で、立法者が国王であっても、議会であっても、
ホッブズの立場は同様に一貫しています。

コモン・ローというのもホッブズはむしろ、
ほとんど理性の別称だと考えているようでもあります。

ホッブズがここまで体系的法思想家だったのかと、
ちょっと驚かされますが、考えてみたら、かのリヴァイアサンの主張は、
国王を中心とした強靭な法治国家を確立すべしというものなので、
やはりこれでいいいんだということがわかります。

ホッブズはこれをベタな体制派知識人として述べているのではなくて、
むしろ、法制度の絵空事的性格、つまり、フィクション性を十分意識した上で
徹底して考え抜いて発言しているように思われます。
「さしあたりだれでもいいから誰かがこの役をやってくれなきゃ困るでしょう」
とでも言いたそうな感じです。劇団の座長みたい。

ホッブズの感覚は近代的で、かつ徹底したリアリストです。
今日の法哲学者の誰よりも面白いと思いますが、
法哲学プロパーの人にはあまり人気がないようです。
保守反動に映るからでしょうか。
それとも面白すぎて自分が喰われちゃうからでしょうか。

(岩波文庫2002年792円税込)

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2013年4月24日 (水)

『中谷宇吉郎随筆集』樋口敬二編

二回読んじゃいました。いい本ですね。随筆選集も読んでみたいです。科学・学問についての示唆がたくさん得られます。たとえば、

「本統の科学というものは、自然に対する純真な驚異の年から出発すべきものである。不思議を解決するばかりが科学ではなく、平凡な世界の中に不思議を感ずることも科学の重要な要素であろう」(76頁)
「人間には二つの型があって、姓名の機械論が実証された時代がもし来たと仮定して、それで生命の神秘が消えたと思う人と、物質の神秘が増したと考える人とがある。そして科学の仕上仕事は前者の人によっても出来るであろうが、本統に新しい科学の分野を拓く人は後者の型ではなかろうか」(78頁)

「新しい発見の確率は、何か変わったこと、すなわち糸口を捕らえる確率と、それを追求する方法の成功率との積できまる。その両者とも、科学の基礎知識が、その基盤となることはもちろんであるが、前者には勘が重要な役割をなし、後者には研究に対する愛情が必要である」(281頁)

といった珠玉の言葉がたくさんでてきます。
また、恩師寺田寅彦の言葉を受けて、「研究者として成熟した人は、線香の火を消さなかった人である」(274頁)とあります。線香の火を消さないというのは研究を続けるということです。

私のような者には実に励みになります。

(岩波文庫1988年670円)

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2013年4月23日 (火)

安田喜憲『森を守る文明・支配する文明』

同僚の先生にお借りした本です。書名の「支配する文明」は西洋文明です。人類はもともと森と共にあり、森を守って生きてきましたが、西洋文明が森を支配して今日の環境破壊をもたらしてきたという大筋はそのとおりです。

古代の神話や伝説の話がたくさん引き合いに出されていて面白いのですが、細部で首を傾げるような妙な記述が散見して、あまり丁寧に資料に当たっていないのではないかと思われるところがあるのが残念です。

森を守る文明から多くを学び、その知恵を現代に生かすのは必要なことだと思いますが、そのままかつての自然の神々に生け贄を捧げてきたような文明に戻らないための歯止めが必要です。その点については著者の態度は不明です。

本書は梅原猛と堺屋太一を足して二で割ったような書き方で、思いつきのよさと大味な展開がそれなりに魅力的なところなのでしょう。でも、私はパスです。

(PHP新書1997年)

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2013年4月17日 (水)

中谷宇吉郎『雪』

週末に大阪出張があるので、ついでに中谷宇吉郎展を見てきます。その前に読んでおこうと思って本棚から引っ張りだしました。長らく積ん読状態でしたが、ようやく読めました。

著者の純粋な好奇心と情熱、そして誠実な人柄が伝わってくる文章で、さすがにロングセラーになっているだけのことはあります。

十勝での天然雪の観察の様子などは大変な苦労だったでしょうに、どこかのんびりしていて、ユーモラスです。実験・観察の現場って実際こんな感じなのでしょうね。

日本は雪の結晶の種類が世界一多いということも本書で初めて知りました。確かに、地形も気候も多様で変化に富んでいますから、そういうことになるんでしょうね。

こういう本が多くの若い人に読まれて、科学を志す人が増えてくれるといいですね。

(岩波文庫1994年460円+税)

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2013年4月16日 (火)

岩瀬大輔『生命保険のカラクリ』

著者はライフネット生命の副社長。業界のことをここまで正直に書いてくれるとは驚きです。

本書は、国際的にもわが国の保険が異様に割高だということや、その大きな理由の一つが支払い総額の3割から6割が手数料だということを明らかにしてくれます。

保険会社の役員報酬からセールスレディたちの給料も出ているわけですから、常識的に考えて、基本的にお得な保険なんてないということがわかります。

しかし、人生まさかの坂を考えると、やっぱり何かに入っておいた方がいいという気はします。そこでさらに、貯蓄型なんて話を聞かされると、得かもしれないと思うようになるわけです。さらに次のような心理も働きます。

「保険料を10万円払って保障のみを確保する保険と、保険料を20万円支払って、無事に満期を迎えたら10万円が払い戻される保険」(78頁)を選べと言われたら、算術的には変わらなくても、95%の人が後者を得と感じるそうです。

このあたりの心理の働きがあるから、様々な商品が出てくるというわけです。

著者は賢い保険商品の選び方も指南してくれているので、参考になります。まずは中核の死亡保険を、安い定期保険で確保し、医療保険は、コスト、リターンを冷静に把握する、とかです。いろいろと有益な示唆が得られます。

(文春新書2009年780円+税)

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2013年4月15日 (月)

井筒俊彦『「コーラン」を読む』

コーランの最初にある「門扉」の7行の文章をその文化的背景とあわせて解釈した本です。著者の解釈学の方法と哲学が見事に示されています。

人間の言語活動の「意味聯関のつくり出す下意識的領域を私は仮に潜在的意味聯関とか言語アラヤ識とか呼んでいるのですが、そのような意味空間というものが我々の意識の深部にある。それが、普通、ラングという名で知られている言語記号の体系の意味論的底辺です。いちいちの発話がすべてそれの発現なのです」(57頁)

ここから著者はコーランから読み取れる「一種の存在感覚、あるいは原初的な世界像」(58頁)を読み取っていきます。

普通の読み物を読むようにして読んでいてもわからないところを探り当てていく読み方には感心しないではいられません。著者は言います。

「人が喋るいちいちの文は断片的だけれども、そのどれにも必ずそこに『世界』全体が働いていると考えなくてはならない。本当は文だけじゃありません、個々の単語でも同じことです」(59−60頁)

こうして、アッラーという言葉一つでも「神」と訳すだけではなくて、アッラーという語の意味を下から支えているアラビア語の全体的意味聯関を考える必要がある、と著者は言います。

というわけで、全10回の講義がこの「門扉」7つの文だけでも時間が足りないくらいに綿密に解釈されます。

コーランの中の、裁く神と慈しむ神との両面を併せ持つ性格や、都市に定住する商人の言葉で書かれた文体、それも三重構造をとるレトリックの問題など、様々な読解の手がかりが解説されていて、イスラム教理解としてだけでなく、およそ解釈に関するあらゆる学問に共通する方法論を読み取ることが可能です。

いい本でした。著者の『イスラーム生誕』もいずれ読んでみます。

(岩波現代文庫2013年1420円+税)

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2013年4月 5日 (金)

森敦『意味の変容・マンダラ紀行』

不思議な小説です。「意味の変容」は、幾何学的発想が私小説の語りによって展開されて行きます。「マンダラ紀行」も空海ゆかりの場所を旅行しながら。曼荼羅の解読について、華厳経の「一切即一」「一即一切」の理解と合わせて幾何学的で立体的な世界が展開されます。

日本の私小説的な文学風土で、生と死や、世界の成り立ちをめぐる形而上学的考察が可能なことを示してくれています。こんな仕方があったんですね。

『月山・鳥海山』の世界も、光学機械工場やダム建設、印刷といった著者のいろんな仕事の経験も、全部ここに流れ込んでくるのですが、ドロドロするのとは反対に、いたって爽やかな世界です。

一つには著者の文章・文体の持つ力でしょうね。文学おそるべしです。これがなければ学者のつまらない文章になってしまいます。

解説者の一人、浅田彰の文章と比べると、ほんとうによくわかります。それはもう気の毒なくらいです。以前もてはやされた人ですけどね。その当時、『構造と力』は悪文だという中島梓の指摘がありましたが、実際、今も変わっていませんね。こういうのは体質みたいなものなので、変わらないんでしょうけど。

それはともかく、森敦の小説はもう少しほかのものも探して読んでみようと思います。

(講談社文芸文庫2012年1400円+税)

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2013年4月 3日 (水)

マルコム・グラッドウェル『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』

カーネマンの『ファスト&スロー』に先駆けて、人間が少ない情報から瞬時に結論を導き出す能力「第1感」に注目した本です。

当然、人間の驚くべき能力について述べてあるわけです。テニス選手がダブルフォールトをするのがサーブを打つ直前に分かってしまうコーチや、美術品の真贋が一目見た瞬間にわかってしまう人の話とか、いたく感心させられます。

こういう能力はその道のプロに限らず、素人にもあるのですが、言葉で表そうとすると、素人の場合はとたんに当たらなくなるんだそうです。素人は言語化すると安易な理屈に飛びついて、本来の感覚を失うようです。(これって、学者も気をつけなければいけないところでしょうね。)

もちろん本書は人間のそういう「第1感」という独特の能力を礼賛するだけの本ではありません。そういう第1感は間違うこともありますし、偏見を養うだけの結果に終わることもあります。

悲惨な間違いとして印象的なのは、ニューヨーク、ホイーラー通りでパトロールしていた4人の警官が、怪しいそぶりをしているように見えたギニア生まれの若者を(実際には好奇心を隠しきれずパトカーを観ていただけだったのに)あっという間に撃ち殺してしまったという不幸な例です。

人間はこうした「第1感」を活用してきたからこそ、これまで生き延びてこられた側面があると同時に、お互いに殺し合っても来たわけです。著者はその両面をバランスよく記述しています。単に「第1感」を単純に礼賛するのではなく、それはうまく育てて制御することもできるというメッセージが含まれています。

こういう微妙な問題を多くの文献に当たり、取材を重ねて、ドラマチックに読ませてくれるのが、著者の真骨頂です。こういうサイエンス・ライターの層が厚いのがアメリカのいいところです。本当に感心させられます。

ただ、タレブの本によると、タレブ本人が著者グラッドウェルの取材を受けて書かれた原稿を読んだら、全然違うことが詮索されて書かれていたので、それ以来、自分は著作には架空の人物を登場させて、好きなように人物造形することにしたとのことです。これなら取材した人に迷惑がかからなくてよいとも言っています。

タレブにとっては、よっぽど思いもよらないことが書かれていたのかもしれませんね。しかし、どこまでが眉唾なのかはうまく書かれているとわからないものです。とりあえず本書には楽しませてもらいました。

本書では参考文献リストは割愛されているようなので、何かに使おうと思ったら、原書を入手して調べておく必要はあるかもしれません。

(光文社2006年1,500円+税)

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2013年4月 2日 (火)

山岸俊男編『社会心理学キーワード』

有斐閣のキーワードシリーズは用語辞典的に役立てるようにできているかと思っていましたが、本書は通読にたえられるように編集されています。社会心理学の教科書として使うこともできます。参考文献もきっちりと原典までたどれるように書かれていて助かります。

内容的にも「社会的ジレンマ」で知られている編者の山岸俊男さんの立場がかなり反映された個性的なものになっています。無理してヨイショしている感じでもなくて、あらためて偉い学者さんなんだということもわかります。

特に「適応論的アプローチ」では、通念とは異なり、日本人がアメリカ人と比較してみて案外他人を信頼していないという結論が出てきたりするのは、言われてみればその通りで、山岸さんの『信頼の構造』で追求されていたのを思い出しました。

社会心理学を学ぶ学生さんにとっては必携ですね。勧めておかなきゃ。

(有斐閣双書2001年1900円+税)

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2013年4月 1日 (月)

ナシーム・ニコラス・タレブ『強さと脆さーブラック・スワンにどう備えるか』望月衛訳

本書は『ブラック・スワン』第二版のために新たに書き下ろされた部分をまとめて一冊にしたものです。初版への各界からの専門家の批判にまとめてこたえてもいます。

専門家の批判は著者の想定の範囲内だったでしょうけれど、一般読者から示された理解度の高さは著者の想定を超えるものだったかもしれません。「実際、知性があって好奇心があって開かれた心を持った素人の皆さんは私の見方だ」(56頁)と言っています。そうだとしたら、世の中まだまだ捨てたもんじゃありません。

初版刊行後に著者が気づいたことの一つが、ランダム性の「必要」です。

「で、私は大事なことを見落としていた。生きた組織(人間の身体でも経済でも)には変動性とランダム性が必要なのだ。それだけじゃない。組織に必要なのは果ての国に属する種類の変動性であり、ある種のストレス要因だ。そういうのがないと組織は脆くなる。私はそれにまったく気づいていなかった」(40頁)

このことから著者独自のランダム性を取り入れた健康法にも言及されています。10時間近くゆっくりと散歩したり、突然ダッシュしたり、一日何も食べないでいて、突然ウェイトトレーニングをしたり、めっちゃ薄着をしてみたり、睡眠をとらないときと取り過ぎのときを作ってみたりという「健康とは言えない」健康法です。

それで「私の身体がありとあらゆる点で変わった。いらない志望はなくなり、血圧は21歳の水準、そんな感じだ。加えて、頭はすっきりしたし、ずっと鋭くまわるようになった」(44頁)

自分の身体を実験台にして、免疫力の強化を行っている感じですが、なかなかまねできそうにないですね。ただ、不規則な生活を続けると必ず病気になるというわけでもないということはわかります。むしろ規則正しい生活なんての気にしなくていいとなると、現代人の強迫観念の一つがぬぐい去られていいんじゃないでしょうか。

ただ、心配なのは、著者の以下の記述が当たって、日本経済がブラック・スワン状態に陥ることです。

「私は非線形性の下で金融政策を誤るとどんな問題が起きるか説明しようとした。通貨を供給しても何も起きず……急にハイパーインフレが起こる。あるいは何も起こらない。政府に、ヤツらごときではわからないおもちゃをくれてやってはいけない」(110頁)

「何も起こらない」といいのですが。

(ダイヤモンド社2010年1500円+税)





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