マルコム・グラッドウェル『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』
カーネマンの『ファスト&スロー』に先駆けて、人間が少ない情報から瞬時に結論を導き出す能力「第1感」に注目した本です。
当然、人間の驚くべき能力について述べてあるわけです。テニス選手がダブルフォールトをするのがサーブを打つ直前に分かってしまうコーチや、美術品の真贋が一目見た瞬間にわかってしまう人の話とか、いたく感心させられます。
こういう能力はその道のプロに限らず、素人にもあるのですが、言葉で表そうとすると、素人の場合はとたんに当たらなくなるんだそうです。素人は言語化すると安易な理屈に飛びついて、本来の感覚を失うようです。(これって、学者も気をつけなければいけないところでしょうね。)
もちろん本書は人間のそういう「第1感」という独特の能力を礼賛するだけの本ではありません。そういう第1感は間違うこともありますし、偏見を養うだけの結果に終わることもあります。
悲惨な間違いとして印象的なのは、ニューヨーク、ホイーラー通りでパトロールしていた4人の警官が、怪しいそぶりをしているように見えたギニア生まれの若者を(実際には好奇心を隠しきれずパトカーを観ていただけだったのに)あっという間に撃ち殺してしまったという不幸な例です。
人間はこうした「第1感」を活用してきたからこそ、これまで生き延びてこられた側面があると同時に、お互いに殺し合っても来たわけです。著者はその両面をバランスよく記述しています。単に「第1感」を単純に礼賛するのではなく、それはうまく育てて制御することもできるというメッセージが含まれています。
こういう微妙な問題を多くの文献に当たり、取材を重ねて、ドラマチックに読ませてくれるのが、著者の真骨頂です。こういうサイエンス・ライターの層が厚いのがアメリカのいいところです。本当に感心させられます。
ただ、タレブの本によると、タレブ本人が著者グラッドウェルの取材を受けて書かれた原稿を読んだら、全然違うことが詮索されて書かれていたので、それ以来、自分は著作には架空の人物を登場させて、好きなように人物造形することにしたとのことです。これなら取材した人に迷惑がかからなくてよいとも言っています。
タレブにとっては、よっぽど思いもよらないことが書かれていたのかもしれませんね。しかし、どこまでが眉唾なのかはうまく書かれているとわからないものです。とりあえず本書には楽しませてもらいました。
本書では参考文献リストは割愛されているようなので、何かに使おうと思ったら、原書を入手して調べておく必要はあるかもしれません。
(光文社2006年1,500円+税)
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