« 森敦『意味の変容・マンダラ紀行』 | トップページ | 岩瀬大輔『生命保険のカラクリ』 »

2013年4月15日 (月)

井筒俊彦『「コーラン」を読む』

コーランの最初にある「門扉」の7行の文章をその文化的背景とあわせて解釈した本です。著者の解釈学の方法と哲学が見事に示されています。

人間の言語活動の「意味聯関のつくり出す下意識的領域を私は仮に潜在的意味聯関とか言語アラヤ識とか呼んでいるのですが、そのような意味空間というものが我々の意識の深部にある。それが、普通、ラングという名で知られている言語記号の体系の意味論的底辺です。いちいちの発話がすべてそれの発現なのです」(57頁)

ここから著者はコーランから読み取れる「一種の存在感覚、あるいは原初的な世界像」(58頁)を読み取っていきます。

普通の読み物を読むようにして読んでいてもわからないところを探り当てていく読み方には感心しないではいられません。著者は言います。

「人が喋るいちいちの文は断片的だけれども、そのどれにも必ずそこに『世界』全体が働いていると考えなくてはならない。本当は文だけじゃありません、個々の単語でも同じことです」(59−60頁)

こうして、アッラーという言葉一つでも「神」と訳すだけではなくて、アッラーという語の意味を下から支えているアラビア語の全体的意味聯関を考える必要がある、と著者は言います。

というわけで、全10回の講義がこの「門扉」7つの文だけでも時間が足りないくらいに綿密に解釈されます。

コーランの中の、裁く神と慈しむ神との両面を併せ持つ性格や、都市に定住する商人の言葉で書かれた文体、それも三重構造をとるレトリックの問題など、様々な読解の手がかりが解説されていて、イスラム教理解としてだけでなく、およそ解釈に関するあらゆる学問に共通する方法論を読み取ることが可能です。

いい本でした。著者の『イスラーム生誕』もいずれ読んでみます。

(岩波現代文庫2013年1420円+税)

|

« 森敦『意味の変容・マンダラ紀行』 | トップページ | 岩瀬大輔『生命保険のカラクリ』 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。