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2013年5月26日 (日)

山岸俊男『日本の「安心」はなぜ消えたのか』

著者の本は時系列に沿って読んでいくと、一つの問題が次々と展開されて説得力を増していくことがわかり、感心させられます。

本書では、日本人が伝統的集団生活の中で「安心」を確保する行動様式を身につけてきたという事情が、心理実験の結果もふまえながら語られます。

その点では一般的な通念とは異なり、アメリカ人と比べてみると、日本人は個人主義的で、他人を信頼しないという傾向が見えたりします。言われてみるとなるほどです。日本の集団主義社会はそもそも「信頼」を必要としなかったからです。

このままでよければ幸せなのですが、著者はこれから日本も「信頼」を軸とした社会に移行せざるをないとみていて、そのための処方箋をいろいろとて提案してくれます。

他人が信頼できるかどうかを感知する能力は、実は日本人にも備わっているので、そのあたり、制度設計とあわせて正直者が得をする社会にしていくことは、本書を読むとできそうな気がしてきます。

ただ、著者はわが国の旧来の「安心社会」の倫理と「信頼社会」の倫理が混合してしまうと危険だとも警告しています。具体的には、安心社会の倫理を代表する武士道精神が、信頼社会に移行中のわが国で強調されるのはいたずらに混乱を引き起こすだけいにとどまらないほどマズいということがわかります。

日本人としての「心の教育」をすればするほど、ただ乗りの利己主義者ばかりの社会が出来上がってしまうというジレンマというか、パラドックスに落ち込んでしまうのです。このあたりの理路は本書をお読みください。社会心理学のキモでもあります。

実際、日本にも商人道徳という信頼社会の倫理があるのですが、最近はあまり旗色がよくないと著者は感じているようです。そうやっていわれてみると、特に本書が出た頃は武士道とか品格の本がベストセラーになっていましたからね。

そういえば、清水義典の『スシと忍者』(講談社文庫)にも、これと同様ですが、作家独自の考察が示されていたのを思い出しました。結論は少し異なっていたかもしれませんが、問題の捉え方はさすがだと思います。全編笑える長編小説でしたが、もう一度読んでみましょうか。

(集英社2008年1600円+税)

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