« 木村敏『生命のかたち/かたちの生命』 | トップページ | ヴァイツゼッカー『ゲシュタルトクライス 知覚と運動の人間学』木村敏・浜中淑彦訳 »

2013年6月27日 (木)

安永浩『精神の幾何学』

著者のウォーコップ論を昔、岩波『講座精神の科学』第3巻で読んで、非常に感銘を受けたことがあります。本書はそのウォーコップについて、作者がその後の一層徹底した読解を通じて、独自の精神医学理論を紡ぎだすまでの歩みが分かる本です。

ウォーコップは生前に『ものの考え方―合理性への逸脱』という1冊の本しか残さなかった謎の哲学者ですが、その著書は実に魅力的で、講談社学術文庫の深瀬基寛訳を私も誇張ではなく100回近く読んだことがあります。

私のホームペー『知られざる思想家たち』でも紹介していますので、よかったらご覧ください。

ウォーコップを繰り返して詠んだおかげで、当時流行っていた現代思想のインチキなものには惑わされずにすんだ気がしますが、著者も同様に感じられていたようで、「目まぐるしく多様な変動のさ中にあって、ウォーコップ的ものの見方が、変わらず安定した視点を供給してくれた」と書かれています(142頁)。

ウォーコップは、生と死、無合理と合理、質と量、主観と客観、自己と他者といった二元論的パターンを通じて、世界を説明する方法をとりますが、常に、生から出発して理解するところが、実によく考えぬかれていて、ゆにーくなところです。

著者は学生時代からずっとこのウォーコップに親しみ、ウォーコップの思想のより一層の展開を成し遂げています。図式は洗練を加えられ、精神医学の分野だけでなく、哲学的認識論としても説得力を増しています。

私はこんなふうには展開できないですね。参りました、と率直に思います。

私の場合は「人間は神の他者である」という表現について、ずっと考え続けているところだけは、著者とは違うところかもしれません。その成果をいずれうまくまとめられたらいいなとは思っています。

たぶそんなふうに人によっていろんな読み方ができるのも、ウォーコップのえらいところなんでしょうね。

(岩波書店1999年2500円税別)

|

« 木村敏『生命のかたち/かたちの生命』 | トップページ | ヴァイツゼッカー『ゲシュタルトクライス 知覚と運動の人間学』木村敏・浜中淑彦訳 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。