キャス・サンスティーン『最悪のシナリオ 巨大リスクにどこまで備えるのか』田沢恭子訳・斎藤誠解説
最悪のシナリオというのは、めったに起こらないだけに、もしも起こったときには取り返しの付かないほど壊滅的な惨状を呈するような出来事のことです。
それで普通は想定外のこととしてうっちゃっておかれますし、お金がかかることだとますます無視されます。
しかし、テロや地震や津波は本当に忘れた頃にやってくるから困るんです。
著者は費用便益分析からして得にならないことはみんなますますやりたがらないということを丁寧に調べてくれています。京都議定書をどうしてアメリカが批准しないかというと、対費用効果が小さく、損になるばかりだからだということを露骨に示して見せてくれます。
その結果人類全体がいつかは取り返しのつかない事態に立ち至るということがわかっていても、やはり批准しないというのはアメリカ人が愚かだということはもちろんですが、アメリカ人だけの問題ではないということを著者は思い知らせてくれます。
要するに人間は愚かだという元も子もない現状があるわけですが、少しはこの「最悪のシナリオ」について考えておいたほうがいいんじゃない、というのが著者の控えめな主張です。
著者はアメリカ大統領府情報規制局の長官という実際に権限を持った実務家でもあるため、常に対立する見解を丁寧に拾って、議論の可能性をいろいろと検討しないではいられないようです。
そのため、一般読者としては読んでいてどことなくスカッとしないところがありますが、それでも、先の著者の学術論文よりはずっと読みやすかったです。
「最悪のシナリオ」というのは、タレブが「ブラック・スワン」と読んでいた問題と同じことなのですが、著者の性格次第で同じ問題でもこんなにアプローチが違うのには驚かされます。
同じ読むならやはりタレブのように面白いほうが個人的にはありがたいですが、そんなことを言っていると、法哲学者の偉いさんなんかからは馬鹿にされるんでしょうね。ま、慣れてますけど。
(みすず書房2012年3800円+税)
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