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2013年10月29日 (火)

Dorothy L. Sayers, The Lost Tools of Learning [Kindle]

推理小説作家として有名なセイヤーズの教育論です。

セイヤーズのミステリーはほとんど読んでいますし、キリスト教に関する本も気に入っています。

ここでは著者は中世の基本7課目の復活を提唱しています。

具体的には文法学・修辞学・論理学の3学、および算術・幾何・天文学・音楽の4科で、これを生徒の発達段階に合わせたカリキュラムまで考えています。

原書で23ページほどのサマースクールでの講義の予稿とのことですが、日本に置き換えたらどうなるかなとか考えながら読みました。「論語」とか入れるべきでしょうかね。

教育関係者には特に示唆するところが多いと思います。

たしかにこの7科目で基礎教養は十分です。これを土台にして自分の頭で考える学問の世界に入っていけたら、言うことなしです。

なお、セイヤーズの言うことはほとんど腑に落ちるのですが、この中で、ロシア語は発達の遅れた言語だというくだりもあって、そこだけはちょっと賛同しがたいところでした。

(Kindle版、100円)

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2013年10月27日 (日)

ジョン・R ・サール『心の哲学』山本貴光・吉川浩満訳

デリダ−サール論争で名前だけは聞いていましたが、今まで読んだことはありませんでした。言語行為論の系統の人なので敬遠していましたが、読んでみると滅法面白かったです。

やはり食わず嫌いは損しますね。

本書の前半はデカルト流二元論と唯物論の批判で、これは明快で痛快でもありました。

後半は自身の立場を展開することになるのですが、こちらの方はやはりそう簡単な話ではないようで、いろいろ議論の余地があることを本人も承知しながら書いているので、決して読みやすくはありませんでした。

意識の問題を三人称ではなくて一人称の視点から構築しようとするのは、着眼点として実に素晴らしいものがあります。この着想だけで一生退屈しないで済みそうです。

ただ、一般読者に理解してもらうのはなかなか骨が折れそうです。

専門的議論を噛み砕いて説くのはかなりの気力と体力のいる仕事だからです。

しかし、面倒くさい議論の中からも、英米系の哲学者がロックやヒュームに関して論じてきた学問的蓄積に大変なものがあることをあらためて教えてもらいました。

翻訳はよくこなれていると思いますが、アスペクトとかそのまんま言われるのはちとわからないですね。dispositionを「傾向性」と訳すのは、そもそも傾向性という言葉自体が気持ち悪いので、これもパスです。「傾向」ではいかんのでしょうか。

わがままな読者ですみません。

(朝日出版社2006年1800円+税)

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2013年10月25日 (金)

三浦しをん『政と源』

しをんワールド全開です。

これはほとんどそのままドラマか映画になりそうです。

幼なじみの爺さん凸凹コンビが東京下町を舞台に活躍します。

勝手に配役を考えると楽しいかも。

こういう世界を作り出せるなんて羨ましいです。

細部まで丁寧に作りこんであります。

このお話の構成の仕方は、今度自分の本を書くときにも参考にします。私が書くのは小説ではありませんが、ちょっとヒントを貰いました。

それはともかく、秋の夜長にお勧めの1冊です。

(集英社2013年1400円+税)

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2013年10月18日 (金)

竹田いさみ『世界史を作った海賊』

イギリスの産業革命以前の原始資本蓄積はエリザベス女王の指示を受けた海賊の略奪行為によるものだったんですね。

この手の「国家事業」でスペインやポルトガルの財貨を奪い、無敵艦隊を破り、いわゆる三角貿易を通じて産業革命の原資を貯めこんでいたわけです。

本書では香辛料、茶、コーヒー、奴隷といった商品取引の実態もきっちり書かれていて勉強になりました。著者本人も当時の交易港などの調査に現地に足を伸ばしているためか、説得力が増している感じがします。

歴史家にはこういう面白い本をどんどん書いてもらいたいですね。

(ちくま新書2011年760円+税)

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2013年10月13日 (日)

セルジュ・ユタン『英米哲学入門』

白水社のクセジュ文庫の図書館用特装版を以前どこかで入手していたのですが、出勤前にふと本棚で目について手に取りました。

良い本でした。今まで読まなかったのはもったいなかったです。でも、今読んだからわかったところもありますし、このまま本棚で眠らせておかなくてよかったと思います。

ここ数年、ベーコンやJ.S. ミルをあらためて読みなおして感心しているところだったので、なおさらそう思うところがあります。

著者は言います。「英米哲学は《深みがない》といって非難するむきがある。だがこの避難は全然あたらない。ホッブズ、バークリ、ヒューム、ホワイトヘッド、ろいす、パース――行き当たりばったりに名をあげただけでも――こういう人たちは決して《深みのない》人ではない」(143頁)

全くそのとおりで、こういう人たちは確かに読めば読むほど味があります。それと、とりわけイギリスの思想家には大陸合理論の生真面目な哲学者立ちとはちょっと趣が異なり、そこはかとないユーモアが感じられるのが気に入っています。

著者はフランス人ですが、英米の哲学者たちへの愛情に満ちた筆致で、ポイントをしっかりおさえながらも言いたいことを言っています。力がある人でなければできない技です。

アメリカのパースやジェイムズ、サンタヤナやM.R.コーエンにもきっちり目配りがなされていて、アメリカ哲学史としても啓発されました。

(野沢協訳白水社1975年600円)



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2013年10月11日 (金)

伊賀泰代『採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの』

採用基準はリーダーシップのある人です。

リーダーというのは成果を出してくれる人で、著者は「救命ボートの漕ぎ手」としてふさわしい人を思い浮かべればいいと言います。

「命さえ助けてくれるなら、漕ぎ手の性格が強引で人当たりが悪くても、無口で自分とは合わない正確であっても、私たちはそんなことを気にしないはずです」(95頁)

なるほど。

そうしてみると、わが国にはリーダーシップのある人が少ないんじゃないかという気がしてきますが、実際そうなんです。著者は言います。

「日本に足りないのは、専門知識でも技術力でもありません。地頭のいい人が足りないわけでも、日本人が勤勉さを失ったわけでもないのです。そうではなく、知識や思考力や勤勉さを総動員し、目の前の問題を解決していくためのリーダーシップを発揮できる人の数が、あらゆる場所において不足しているのです」(188頁)

著者は全員がリーダーシップをもつ組織の強さを強調します。そうした組織は「一部の人だけがリーダーシップをもつ組織より、圧倒的に高い成果を出しやすいのです」(69頁)

リーダーシップを正しく理解すると、そういうことになるのでしょう。しかし、チームで革新的なアイデアを出し、成果を出してきた経験がある人が少ないわが国の企業文化では、真のリーダーが育ちにくいという弱点があります。

まして、トップから下々までどこを見渡してもリーダーシップをもつ人がほとんどいないような組織の場合、現状を打開するには圧倒的に時間が足りません。どうしましょう。

そういうリーダーは結局他所から来てもらうしかないでしょうかね。ジョブズみたいな人は早晩追い出されるのがオチですし。

(ダイヤモンド社2012年1500円+税)

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2013年10月 9日 (水)

長谷川三千子『民主主義とは何なのか』

これはすごい本でした。今まで読みそこなっていたのがもったいなかったです。でもまあ、今読めたのでよしとすることにします。

本書を読めば、民主主義というのは理性を封じ込め、暴力を解放する思想であり制度であるということが、よーくわかります。

ホッブズのリアリズムに対して、ジョン・ロックのペテン師ぶりも見事に捉えられています。

「もう一度しっかりとホッブズを読み、そのあとでロックを読んでみること、そして、後者がいかにインチキだらけであるかに気付くこと」(210頁)とあります。

これはいずれ検証してみるつもりです。

これから人類が理性を回復することができるかどうかが鍵ですね。

絶望の書ではありません。希望はあります。

(文春新書、平成13年、700円+税)

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2013年10月 7日 (月)

榊博文『認知の陰陽理論ー日本生れの態度変容理論ー』

自分の考えとあまり違わないような意見を聞かされた時、人はむしろ反発してしまう傾向がある一方で、自分の考えとまったく違う意見を聞かさると、それまでの態度が変わってしまうことがあるというのが、著者が何度も社会心理学的実験を重ねて得えられた結果です。

これは従来の欧米の学問的仮説とまったく異なる結果だったため、それを説明するために著者が到達したのが、副題の「陰陽理論」です。外国人タレントの受け売りに終始しながら一流を気取っているようなわが国の凡百の研究者とは一線を画しています。

本書はその間の経緯が一冊にまとまった研究書です。専門学術書ではありますが、明快な記述で、一般読者にもおすすめできます。amazonでは妙に高額な値段がついていますが、普通に注文したらまだ定価で買えます。

著者の研究はこの実験を精緻化することとあわせて、この先の具体的な分野、すなわちTV広告の分析と提言などに進んでいますが、これはこれで記念碑的労作です。

著者の『日本人はなぜ大人しい?』を読んで興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。

(おうふう2011年4800円+税)

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2013年10月 5日 (土)

ケルゼン『デモクラシーの本質と価値』

民主制は自由を前提として保障し、規範的国家的意志を確立するという点で支持できるというのがケルゼンの考えのようです。

シンプルな主張ですが、議論はあまりシンプルではありません。ヨーロパの知識人らしく、民主主義の怪しいところやえげつないところも承知した上での発言なのでしょうから、どこかわれわれにはわかりにくいところがあります。

初版と第二版を読み比べたわけではないのですが、解説によると結構な異同があるそうですので、おそらくケルゼン自身いろいろと逡巡しながら書き直して出来上がった本なのでしょう。

ケルゼンはヨーロッパの学者によくありますが、何度も若いときの本を上書きしながら自身の立場を練りなおしていくところがありますので、初版本だけにこだわっていると、当の本人から批判されたりすることもあります。

ハンガリーのショムローなんかは生前ケルゼンとは親しかったのですが、昔の自分の本の立場を変更したので、あなたの立場には賛成出来ないと言われたりしています。

それはそうと、本書でもケルゼンは一見官僚制について弁護するようなことを言ってみたり、国民の自由を擁護する立場にもかかわらず、その例として最後にバラバが恩赦されてキリストが処刑される例なんかを出してきたりするので、読んでいて混乱させられます。

本書は1932年の第二版に基づいた翻訳ですが、1936年にナチスが政権をとったことも踏まえて、第二次大戦後に新たな版を書いていたら、また違った記述になったのではないかと邪推したりしています。

訳文自体も決してわかりやすくはないので、原書と付き合わせて読んだほうがいいのかもしれません。

でも、本当はもう、ケルゼンがどう言ったかではなくて、日本人自身で民主主義のことをしっかり考える必要がありますね、長谷川三千子さんみたいに。

長谷川三千子『民主主義とは何なのか』(文春新書)は今読んでいます。これは新鮮な指摘に満ちています。またいずれ感想を書きます。

(岩波文庫1966年改版)

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2013年10月 1日 (火)

ジェイン・ジェイコブズ『経済の本質 自然から学ぶ』香西泰・植木直子訳

2001年に出た翻訳書『経済の本質』の文庫版です。原著は2000年刊。

著者は自然が単純な系統から順次発展するのではなくて、様々な要素の相互作用の中でいわば複雑系として発展、変化していくのと同様に、経済も複雑系としての特徴を備えていると言います。

したがって「発展、拡大、持続可能性、修正という自然法則にそって仕事を進めれば、人々はいまもっているものよりももっと確実に反映する経済を、そして人間以外の自然ともっと調和のとれた経済を、つくりだせる」(30頁)

と、登場人物の一人に語らせています。本書は小説仕立てなので、登場人物の台詞がそのまま著者の思想というわけではありませんが、これは一つの理想ではあります。

他方で著者は複雑系の動きを予想できないこともよく知っているので、「将来を予測し形成できると思った人々が企てた不発弾が、経済史には充満している」(220頁)といいながら、「試してみなければ何が有効化を経済は見いだせない」(同頁)とも述べています。

こうして登場人物たちの話は対立や強調を重ねながら、最後にこうした表現に行き着きます。

「経済生活によって、われわれは文化や目的を実現するための多くの用途を発展させることができる。そして、私の意見では、それがわれわれにとって経済の最も意義深い機能なのだ」(232頁)

著者に大きな宿題を出されたような読後感です。でも、著者の言うように自然に学んで、理論を過信せず、人びとがそれぞれの持場で物事を着実に進めていけば、活路は見いだせるだろうという希望は見えてきます。

(日経ビジネス人文庫2013年1000円+税)

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