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2014年1月31日 (金)

瀧本哲史『武器としての交渉思考』

『武器としての決断思考』と同様スリリングな本です。併せて読むと効果的です。

『決断思考』は「ディベート思考」についてでしたが、本書は「交渉」についてです。それも、具体的な実例をあげながら解説されているので、よくわかります。教室でも行うことができます。

京都大学で一番の人気講義だというのもうなずけます。このエッセンスは京大だけにとどめておくわけにはあまりにも惜しいので、本書があって助かります。私も来年度からの授業に早速活用させてもらうことにします。

著者は「頭の良い人が作った仕組みやルール」が今日の日本社会ではもはや行き詰まりを見せているととらえ、こう言います。

「だからこそいま、若い世代の人間は、自分たちの頭で考え、自分たち自身の手で、合意に基づく『新しい仕組みやルール』を作っていかなければならない。そのために交渉の仕方を学ぶ必要があるのです」(26頁)

社会心理学や意思決定理論の成果を踏まえながらも、あくまで現場の交渉に密着した形で議論が進められていくのは、わかりやすくて説得力があります。そこには実際に投資家として活動してきた著者ならではの経験と考察が光っています。

著者は若者たちに「自分自身が、自分の今いる場所で小さいながらも集団をつくり、そこでリーダーとなっていく」(329頁)ことを呼びかけます。

これまで官僚型エリートでなければリーダーに盲従する鉄砲玉の養成しかしてこなかった大学も、こういう人が出てくることで、少しずつ変わってくるかもしれません。また、そうでないとこのとりわけ若者が陥っている閉塞状況は打開できないでしょう。

若者に限らず広く読まれてほしい本です。若者をサポートする人びとにも勇気と元気を与えてくれます。

(星海新書2012年860円税別)



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2014年1月30日 (木)

ダン・アリエリー『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』櫻井祐子訳

軽い気持ちで不正ができて、バレることはないという状況を設定して社会心理実験をすると、多くの人がこの誘惑に勝てないということがよくわかります。

著者も例外ではなくて、若いころユーレイルパスをごまかした経験を正直に披露しています。

本物の現金よりもトークンとか商品券のようなもののほうがごまかす率が上がったり、倫理基準を意識させると監視がなくてもごまかさなくなったりと、ケースごとに様々な興味深い事実が披露されています。

本書ではあくまでもごまかしが対象で、それは窃盗や詐欺といった本格的な犯罪行為ではありません(そちらについては別に犯罪研究が必要でしょうけれど)。しかしそれとは別に、人はしばしば自己イメージを維持または上げようとするため、ちょっとしたセコいことをしてしまいます。

他方で、とことん悪いことをしてしまうと自身の正当性が損なわれるので、そこまで極端な真似はしないという側面もあります。公正な自分というイメージの方につじつまを合わせようとするわけです。人というのはまったくもって微妙で厄介な生き物です。

もっとも、これがエンロンのように社員の大多数が粉飾経理に加担していたりするということになると、当然大きな損失につながりうるわけです。

これを制度的工夫によってどう未然に防ぐことができるかというのは、制度設計の際の重要なポイントになります。

本書では、疲労やストレス、ダメージがあると、まるで報復行為のようにごまかしの発生率が上昇するというデータも示されていて、興味深いです。社内ストレスを減らすことも重要なポイントですね。

また、創造性の高い人ほど不正に手を染める傾向もあって(自分が正しいという物語をこしらえるわけです)、全国の大学で研究費の不正使用があとをたたないのも、ひょっとしたら関係するのかもしれません。ただ、大学というところに必ずしも創造性の高い人が結集しているというわけでもないので、この辺りは割り引いて考える必要はありそうです。

また、ごまかしに関しては民族間の差がまったく現れないというデータも出ていて興味を惹かれます。あそこの国とかあそこの国などごまかしが多いに違いないと、当の国民が異議を挟んだりしていますが、民族間に有意差は見られないそうです。人類共通なんですね。

学生にも薦めなくては。

(早川書房2012年1800円+税)

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2014年1月24日 (金)

瀧本哲史『武器としての決断思考』

本書でいうところの「決断思考」とはディベート思考のことです。

これが、武器としての教養(リベラルアーツ)の核心です。

要は、知識ではなくて柔軟かつ強靭な思考法のことです。

ギリシアの時代からある弁証法=対話術でもあります。

本書はそのディベート的思考が具体的な意思決定の問題として、たとえば「夏休み期間中に内定をもらった学生A君が就活を続けるかどうか」ということについて、メリットとデメリットを挙げる仕方から丁寧に説明されています。

複数の問題が出てきた時にはたとえば、

・X社の内定を受けるべきか否か
・大学院に進学すべきか否か
といった形に分けて考えることが説かれています(84~85頁)

なるほど。

メリットもデメリットもそれぞれ3条件に分けて、解決が可能なのか、このままでは新たな危機的な問題が生じないかどうかといった問題を摘出します。

その際の反論は「メリットとデメリットが本当に正しいかどうかを検証するために必要になってくる手順」(129頁)であり、決して相手を論破することではないそうです。このあたり確かにしばしば誤解されがちですね。

演繹法と帰納法の問題にも触れられていて、原因と結果を取り違えた議論の例なども検証されています。

「どうやって世間にはびこるデタラメ論にダマされないようになるか」がわかるようになることがディベート思考の効用だといいます。

こうしたことをトータルに学ぶことができる科目を大学のカリキュラムに揃えてみたいと思っていますが、どうでしょうね。

(星海新書2011年820円+税)

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2014年1月23日 (木)

室谷克実『呆韓論』

『悪韓論』に続く強烈なタイトルの本ですが、内容は前著同様、韓国のメディアの報道に基づいた実証的なものです。

本書では『朝鮮王朝実録』に「日本国対馬島」という表現が56箇所出てくることなどが指摘されていて、勉強になります。

他に、東京の放射線量よりもソウルのほうが2倍以上多いこと(101頁)や、韓国の捕鯨頭数は日本の調査捕鯨の1000頭の二倍以上の2350頭(13年1月のKBSの報道による)という事実などが指摘されていて、いろいろと感心させられたり考えさせられたりします。

自分で言っているという事実は動かせませんが、それにもかかわらず、あるいはそれだからこそなのか、妄想が暴走し、一部の人が過激化するのは(日本にも在特会がありますしね)両国にとって不幸なことです。

(産経新聞出版2013年880円+税)

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2014年1月22日 (水)

ロバート・B・チャルディーニ『影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく』岩田佳代子訳

わかりやすく面白い本です。

他人を説得する場合の様々な手練手管のメカニズムが、恩義、整合性、社会的な証拠、好意、権威、希少性という6つの視点から分析されています。

ところがどっこいです。本書は非常勤先の学生にも薦めておいたのですが、全体の三分の一ほど読み進めたところで、これはその後次第に「あれ、どこかで読んだような気がする」という感覚が...。
最初は社会心理学上の有名な実験が取り上げられているせいかと思いましたが、なんのことはない。ご本人の『影響力の武器』(誠信書房)第二版の内容といくつかの話題を除いてほとんど同じでした。

翻訳文はこちらのほうがスムーズで日本語として実に読みやすいです。読み物としてなら本書の方がいいと思いますが、文献注がないのと、まとめや練習問題のような記事がない分、研究志向の学生には不便です。

原著のタイトルは同じですが、副題が違うので、原著もそれぞれ別の版元から出されているのかもしれません。紛らわしいですね。

著者はセールストークに何度も引っかかった経験から社会心理学の研究を志すようになったそうですが、この本については江戸の敵を長崎で討つ方に回ったのかもしれません。

慶應の学生さんごめんね。

今なら本屋で平積みで、翻訳を見比べることもできます。読み物として選ぶか資料として選ぶかですが、研究者志望の人は原書も買わなきゃですね。

学問には金がかかる場合があるということで、あとはよろしくご判断ください。

(SBクリエイティブ2013年1800円+税)

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2014年1月19日 (日)

アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン『「知」の欺瞞』(田崎晴明、大野克嗣、堀茂樹〈訳〉)

ポストモダンの思想が流行っていた頃、私もそれなりに当時の思想家たちの著作に目を通しましたが、数式やら理系の諸科学の概念が出てくるところは飛ばして読んでいました。読んでもわかりませんし。

本書ではそのポストモダンの思想家たちが科学の諸概念を濫用していたことが専門家によって見事に暴かれています。

以前も読んだのですが、今回人間の愚かさについて論文をまとめていて、ちょっと引き合いに出そうと思って再読しました。

原著者の引用とともに丁寧に論じられていて壮観です。

バカの見本市さながらです。

バカにされることを恐れてとった行動が、自らのバカをさらけ出す結果になっています。

知らないことは知らないということでいいのに、虚仮威しで偉ぶる魂胆が透けて見えます。

サールのインタビューのとおりですね。彼らはわからないように書いて、自分の知性を底上げしてみせる必要があったのでした。

ただ、彼らの口ぶりはわが国のインテリにも脈々と受け継がれているので、そういう連中は今後も敬して遠ざけることにしておきます。

(岩波現代文庫2012年1480円+税)

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2014年1月14日 (火)

橋爪大三郎『世界は宗教で動いてる』

著者らしいわかりやすい本です。

問答形式もなかなかいい感じです。
トリビアな知識も面白いです。

特に「なるほど」と思った指摘は次のとおりです。

・日本人の考える祖先はせいぜい二三代さかのぼる程度(154頁)
・インドで頭にターバンを巻いているのはシク教徒で分断統治のためイギリスに採用された(168頁)
・元来の仏教はだれでも覚りに達することができるはずのものだった(173頁)
・禅宗は独特の論理で具足戒(戒律)を守らなてもよいことにした(210頁)
・その代わりに労働し、自活する。労働即修行(212頁)
・日本のカミとは自然現象のこと(222頁)

ほかにヒンズー教のことも勉強になりました。仏を多神教が吸収してしまう論理なんですね。

授業で学生にも勧めます。

(光文社新書2013年760円+税)

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2014年1月 9日 (木)

プラトン『メノン』藤沢令夫訳

新年おめでとうございます。

今年初めての更新です。

メノンを久しぶりに読み返しました。

人間は知らないものについても探求できるということを、
メノンの召使の少年を相手にソクラテスが、
幾何学の問題を問答法によって解かせながら説明するところが、
いたく気に入りました。

数学好きだったと言われるプラトンらしい記述でもあります。

で、その「知らないものについての探求」というのは
本書では「徳」のことなのですが、
徳とは知識でもなく、考え方でもなく、

つまり知性とは無関係に「神の恵みによってそなわる」(117頁)
ということになります。

ここまで突き進んだ議論だったのかと改めて感心させられました。

今まで本書を読んだ記憶では、イデア論の洞窟の比喩なんかも
ここで展開されているような気がしていましたが、それは思い違いでした。
でも、のちの中世哲学への接続あるいは継受などを考えても、
この議論はやはり面白いです。

中世思想史家のジルソンの諸説とも符合しますが、
プラトンの信仰もまた相当に真剣なものだったということがわかります。

(岩波文庫1994年540円+税)

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