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2014年2月27日 (木)

小坂井敏晶『社会心理学講義 〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』

今日の社会心理学はどちらかというと瑣末な心理実験に明け暮れている印象があり、一般的な教科書でも通読に堪えるものが少ないのが現状です。

その点で、本書は副題にあるような社会変容、文化変容に関する問題意識を軸に、様々な知的領域に踏み込みながら議論を展開していて、知的刺激に満ちています。あとがきによると本来の本書のタイトルは『社会心理学の敗北』だったそうですから、著者がこの学問の現状に満足していなかったことが窺われます。

本書は、この学問領域で「実験」にうんざりしている学徒にとっては教科書の副読本以上の効果が期待できますし、一般読者にとってもあまり馴染みがあるとは言えないこの学問が本来持っていた問題意識を共有することができると思います。

本書で考察されている少数者の社会全体に対する影響や、文化変容の問題は、民族問題や差別意識の問題、異文化交流といった人類共通の難問解決に多くの手がかりが得られると思います。

それはそれとして、本書では何よりも著者の考える姿勢が見事です。専門家も一般読者もこの点に一番学ぶべき点があるように思います。なにせわれわれはすぐに自分の頭で考えることを放棄し、外国人タレントの紹介でなければ密輸にいそしむという、これまた極めて日本的な社会心理の支配下にあるからです。

著者はアメリカでも日本でもなく、パリで社会心理学を教えている先生ですので、わが国の閉じられた社会的な因習からは免れている感じがします(当然様々なご苦労をされているはずですが)。それよりむしろ、地の利、人間関係や文化の利を学問研究に活かしているところがあります。

この点で本書は、型破りな社会心理学というより、むしろ社会哲学の基礎理論として多くの示唆を得られます。

多くの学生に読んでほしい本です。来年度の講義では学生に勧めましょう。

(筑摩選書2013年1900円+税)

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