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2014年4月29日 (火)

フランス・ヨハンソン『成功は“ランダム”にやってくる チャンスの瞬間「クリック・モーメント」のつかみ方』池田紘子訳

新しいアイデアや科学的発見はどうやったら可能になるのかと言えば、答えは偶然の幸運な展開の中にあるということにほかならず、そこでは確固たる発想法が確立されているわけではありません。もしそうならみんなやってますよね。

本書も偶然の積み重ねのような成功事例をこれでもかとばかりに挙げてくれています。特にルールが厳密化されたスポーツやクラシック音楽とは違って、素人が参入しても爆発的成功をおさめることができるビジネスのような分野は、調べれば調べるほど成功の鍵は幸運と偶然以外の何物でもなかったりするようです。

実際、グラッドウェルの言う鍛錬のための「1万時間ルール」が意味をなさない場所のほうが、人生の多くの局面で圧倒的多数を占めるようです。

要するに成功には法則性がない=「ランダム」だ、ということなのですが、著者はその中からチャンスをつかむための一般的心得を可能な限り抽出して示してくれます。

たとえば

・自分とは異なる分野、異業種を探索する
・多様性のあるチームを作る
・小さな賭けをたくさん行い、すぐにフィードバックする
・ともかく一歩踏み出して考える
・情熱をモチベーションにする
・好機(クリック・モーメント)到来と見たら、倍賭けをする
といった、イノベーションを可能にするための周囲の環境を整えることが丁寧に説明されています。親切な本です。勇気づけられます。
翻訳は全体に読みやすいのですが、「独擅場」というべきところを「独壇場」と訳しているところが2箇所(54頁,81頁)ありました。最近はひょっとして広辞苑などにも独壇場が収録されているのかもしれませんが、やはり恥ずかしい誤用だと思います。プロの編集者も校正も気がつかない時代になったんですね。

(阪急コミュニケーションズ2013年1700円+税)

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ギルボア2冊

1.イツァーク・ギルボア『合理的選択』(松井彰彦訳、みすず書房、2013年、3200円+税)
2.同『不確実性下の意思決定理論』(川越敏司訳、勁草書房、2014年、3800円+税)

ギルボアの本は『意思決定理論入門』(NTT出版)が面白かったので、まとめて読みました。ただ、『意思決定理論入門』では数式はほとんど出てこなかったのですが、高校数学では出てこない数式なども登場してくると、まあ読み飛ばすしかありませんでした。

それでも、高校数学の本を引っ張りだしては、載ってないことを確認するまではやったわけですから、自分にお疲れさんって言っておきましょう。

ミクロ経済学やゲーム理論、意思決定理論の問題をコンパクトに並べて解説してくれるのはありがたいですが、私には『入門』だけで十分だったかなと、とりあえず読み終えてから考えています。

それでも1.の『合理的選択』は数式はウェブサイトに別にまとめてあって、かなり読みやすくなるように配慮されています。

ただ、なんとなく気持ちが悪いのと、ジェーン・ジェイコブズの理論も理解したいので、『長岡先生の授業が聞ける 高校数学の教科書』(旺文社)を買ってきて数学の基礎からのやり直しを始めたところです。

ベイズの定理や効用関数、期待値なんかの理解はそのあとですね。

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2014年4月27日 (日)

エドワード・O・ウィルソン『人類はどこから来て、どこへ行くのか』斉藤隆央訳

生物学の大家が書いた生物としての人類史です。

印象的な指摘や問題提起がたくさんありますが、特に「協調性、共感、ネットワークの形成の傾向といったグループレベルの特性は、人間で遺伝することがわかっている」(348〜349頁)というところです。
一種の文化的獲得形質の遺伝で、ドーキンスがミームと呼ぶのもこれと共鳴しあう考え方なのかもしれません。生物学では共有されている考えなのでしょうか。

他方で、この道の専門家、巌佐庸氏による本書解説を見ると、血縁淘汰や群淘汰の考えについては著者と解説者の考えがずいぶん異なっているようで、門外漢の私にとっては戸惑を覚えることの多い本でもありました。

結局「人類はどこへ行くのか」はわかりませんが、著者は多少なりとも楽観的な見通しを持っているようです。全体のトーンも明るくて「なんとかなるかも」と思わされる本でした。
(化学同人2013年2800円+税)

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2014年4月16日 (水)

歴史学の入門書(新書)三冊

 大学の授業で急に教養の歴史学を担当することになったので、学生たちに紹介するために以下の3冊をあらためて読み直しました。

1. E.H.カー『歴史とは何か』(清水幾太郎訳、岩波新書)
 名著の誉れ高い本です。しかし、今どきの学生には難しいでしょうね。現代政治史の事件と他の歴史学者の著作への言及が、煩雑な印象をあたえるため、今どきの学生はついていけないかもしれません。大事なことも随所に散りばめられているので、それを拾い出す根気が問われるところがあります。
 日本語にうるさいはずの翻訳者ですが、33ページに「すべからく過去を愛さねばならぬ」という「すべからく」の誤用があって、意外でした。

2. 小田中直樹『歴史学ってなんだ?』(PHP新書)
 学生向けの入門書としてもよくできています。書き方はソフトですが、結構言いたいことを言ってます。歴史学は「コミュニケーショナルに正しい認識」に到達しようとしているという指摘には教えられるところがありました。他者に対する説得力ということでもありますが、「こういうことはあったよね」という史実が存在するのは確かですから、そこに向けてのアプローチというのは一つの有力な立場だと思います。

3. 岡田英弘『歴史とはなにか』(文春新書)
 これが一番言いたいことが的確にというか、言いたい放題に言われていて、悪は強いですが、個人的には一番しっくり来る本でした。
 「歴史とは、人間の住む世界を、時間と空間の両方の軸に沿って、それも一個人が直接体験できる範囲を超えた尺度で、把握し、解釈し、理解し、叙述する営みのことである」(10頁)
 という定義も明解で、これが文化の違いや個人の好み、また、時代の制約を超えて、多くの人を説得でいる強い力を持つことが目指されています。

 結局授業では主にこの最後の本の定義を中心に説明するところから始めています。久しぶりの通学部の学生たちですが、みんなえらく真剣に聴いてくれているのが意外です。この調子で半期頑張ります。

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西加奈子『ふる』

いつもながら、こんな微妙なところに文学を見出すのか、と驚かされます。

既視感のない、しかし、だれでもどこかで知っているはずの世界に連れて行ってくれる作品です。

一昨日読んだ『舞台』よりも、こちらのほうが一年前に発表されています。

『舞台』では羞恥心と自意識の塊のような29歳の男性が登場しましたが、こちらは人付き合いの中で過度に他人を傷つけまいと気を遣う28際女性の気持ちが実に細かいところまで書かれています。

その主人公が作品の中で一つ大人になるというか、一歩進んだステージに立てるようになります。

刺さる言葉も出てきます。いい作品です。

著者は毎年1冊位の割合で書き下ろし小説を発表していて、そこではいつも独特の濃密な小説世界が紡ぎだされています。

今年も楽しみです。

(講談社2012年1400円税別)

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2014年4月15日 (火)

上橋菜穂子『物語ること、生きること』構成・文 瀧晴己

このたび著者は国際アンデルセン大賞作品賞を受賞されました。おめでとうございます。

日本人作家ではまど・みちお氏に次いで二人目ということですが、あの素晴らしい作品群は確かに受賞にふさわしいものです。

本書では若い人向けに生い立ちから作家になるまでの道のりが優しく語られています。作家になりたいと思っている若い人を勇気づけ、励ましてくれる本です。

著者は文化人類学者でもあり、オーストラリアのアボリジニをフィールドワークの対象にしていますが、そうした経験も作品世界に十分に生かされていることがわかります。

先日連絡が取れた昔の教え子のハンガリー人翻訳家にもハンガリー語に訳してほしいと伝えておきました。すでに各国語に訳されていますが、ハンガリーでもぜひ紹介してほしいものです。

私は守り人シリーズと旅人シリーズは読みましたが、実は「獣の奏者」はまだです。これから読むことにします。

(講談社2013年1000円税別)

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2014年4月14日 (月)

西加奈子『舞台』

めっちゃ他人の視線を気にしすぎて、ほとんど自縛状態に陥っている29歳の青年が主人公です。

ただでさえ自意識過剰なところでもって、ニューヨークに一人旅に出て、そこでかばんを盗まれてしまいます。えらいこっちゃ。

太宰の『人間失格』へのオマージュにもなっている作品です。

それにしても、よくもまあここまで情けない男の話を書き込めるものだと感心させられます。

作者はしかし、登場人物を愛してますよね。全然見捨ててません。

しっかり時代とリンクしています。『地球の歩き方 ニューヨーク』も小道具として活かされています。9.11も著者らしい形で絡んできます。

情けない若者も、おっさんも、これを読んで救われるところがあるだろうなという、そんな小説です。

(講談社2014年1400円税別)

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2014年4月13日 (日)

中谷宇吉郎『科学以前の心』福岡伸一=編

いい文章、いい編集、いい解説に加えてお嬢さんのあとがきまでみっちり楽しませてくれる文庫です。

著者の文章を読んでいるだけで幸せな気持ちになれます。何の奇をてらうでもなく普通に書かれているようでいて、その文体のリズムが心と体に染み渡ります。

名文を味わうだけで読み終えたと思っていましたが、あとで見返すと、いくつか線が引っ張ってありました。たとえばこんなところ。

「本統の科学というものは、自然に対する純真な驚異の念から出発すべきものである。不思議を解決するばかりが科学ではなく、平凡な世界の中に不思議を感ずることも科学の重要な要素であろう」(122頁)

「人間には二つの型があって、姓名の機械論が実証された時代がもし来たと仮定して、それで生命の神秘が消えたと思う人と、物質の神秘が増したと考える人とがある。そして科学の仕上仕事は前者の人に寄ってもできるであろうが、本統に新しい科学の分野を開く人は後者の型ではないだろうか」(125頁)

これは社会科学でもたぶんそうですね。そして、この基本がしばしば忘れられがちなのかもしれないと思ったりします。

(河出文庫2013年700円税別)

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2014年4月 9日 (水)

福井憲彦『歴史学入門』

タイトル通りの教科書です。

社会史を専門とする著者らしく、世の中の様々な事象について広く関心を寄せているところがうかがわれます。

学生の教科書にどうかと思って読みましたが、教養の歴史学の入門としてはちょっと高級すぎる気がしました。歴史研究の入門書としてならOKです。

何しろ今の学生は大学レベルの入り口に到達する前に、カウンセリングを兼ねた知的準備体操が必要です。この本のレベルにいきなりジャンプさせるのは無理で、みんな自分の世界に閉じこもってしまいます。

というわけで、教科書としては採用しないことにしますが、読み物としてはまずまずだと思います。岩波好みの高級な感じでいいんじゃないでしょうか。

(岩波書店2006年1600円+税)

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