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2014年5月30日 (金)

マイケル・カプラン&エレン・カプラン『人はなぜ過ちを犯すのか』山内あゆ子訳

人がつい犯してしまう過ちを最新科学の成果を取り入れつつ豊富な実例とともに丁寧に論じた本です。

人は権限を持った途端に他態度が横柄になるというグルーエンフェルドのクッキー実験や、2005年に実施された49カ国のパーソナリティ調査については授業でもできるので、ありがたいです。

グルーエンフェルドの実験というよりは筆頭著者のケルトナーの実験と言ったほうが正確ですが、なぜか他の本でもグルーエンフェルドの名前が上がっています。今読んでいるサットンの本ではようやくケルトナーの名前が出てくるようになりました。この論文の元になった原稿が出版されていないマニュスクリプト(草稿)なので、混乱が生じているのかもしれません。

国民性と言われるものが実はほとんど意味をなさないという調査も興味深いです。「どの国よりも冒険心に富み、開放的で、生活全般において活発なのは」(364頁)なんとだったりするんですね。
同じページに「コックはフランス人、警察官はイギリス人、エンジニアはドイツ人、恋人はイタリア人、銀行家はスイス人なら天国だ、とたいていの人は思う(コックがイギリス人、警察官がドイツ人、エンジニアがフランス人、恋人がスイス人、銀行家がイタリア人なら地獄だ)」とありますが、これはいろんなバージョンが出回っている世界的に有名なジョークですね。

しかし、こうした典型的なお国柄というのは、パーソナリティテストの結果と比べてみるとまったく正確ではないようです。それはまたそれで面白いことですが。

翻訳はところどころ意味が取りにくかったり、首を傾げる表現があったりします。76ページに「すべからく」をすべての意味で用いているところがあって、「うげっ」ときますが、編集者も見逃さないでもらいたいです。

328ページの「二百五十年前だったら、フレデリック大王は、シュレージエン地方を手に入れようとし」のところも、これはあの啓蒙専制君主のフリードリッヒ大王のことですね。ドイツ語で呼んでやってください。

全体にはそれほど読みにくい訳文ではないだけに、翻訳者も編集者もちょっと調べるだけの手間を惜しんでいるのは残念です。本のタイトルに沿った行動ではありますが。

(ソフトバンク・クリエイティブ2011年1900円+税)

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2014年5月28日 (水)

マーサ・スタウト『良心をもたない人たち』木村博江訳

周辺にサイコパスが何人かいるので、対策のために読みました。

著者のセラピストとしての豊富な経験が活かされた好著です。
典型的な人物を(架空ですが)登場させて論じていくので、具体的でわかりやすいです。こういう書き方は参考になります。

とにかくサイコパスとは関わらないのが大切だということで、私も心して対処したいと思います。つまり、ま、にこやかに挨拶くらいはするけど、それだけにしておきます。

そういえば、同僚も同じこと言ってましたね。賢い人だ。

これが上司だったりしたらたまったもんじゃありませんが、そちらについては、ロバート・サットンの『あなたの職場のイヤな奴』と『マル上司、バツ上司』を参考にしたいと思います。

翻訳はいいと思います。読みやすいです。

(草思社文庫2012年760円+税)

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2014年5月18日 (日)

フランス・ヨハンソン『メディチ・インパクト』幾島幸子訳

先日読んだヨハンソンの『クリック・モーメント』の10年近く前に書かれた本です。

今手に入りにくくなっていますが、はっきり言って『クリック・モーメント』を読めば十分です。この著者に限って言えば、二作目のほうが面白いかもしれません。ふつうは二番煎じになるところが、話題がいっそう豊富に収録されていて、厚さも増してお買い得感があります。

とはいえ、本書もいいところはあります。特にブレーンストーミングのちょっとした工夫とか、リスク・マネージメントをうまく発明・発見に結びつける方法が面白かったです。

社会心理学の講義に使おうと思って『クリック・モーメント』と併せて4〜5回読み返しましたが、どちらも面白いエピソードが丹念に拾い集められているので、退屈しません。

あとは学生に面白さを伝えられるように頑張るだけです。

(ランダムハウス講談社2005年2200円税別)

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2014年5月14日 (水)

増田四郎『歴史学概論』

10年以上前になりますが、通信教育の歴史学を担当したときに読んだ本です。

やはり名著です。

現代歴史学に対して地域史研究の持つインパクトだけでなく、その問題点までもがきっちり抑えてあり、袋小路に入り込んでしまった現代歴史学の窮状を予言していたところもあります。

研究者を志す人に向けて書かれた概論ですが、研究者向けという窮屈な感じがしなくて、むしろ、一般読者に対しても開かれたものになっています。おそらく、著者の精神の闊達さゆえのことでしょう。

ところで、私こと、この4月から急遽ピンチヒッターで学部の歴史学の非常勤をしていますが、もう一人の先生と分担して古代から現代まで、ヨーロッパの歴史も日本の歴史もまとめて講義しています。

学生諸君は熱心に耳を傾けてくれていて本当にありがたいことですが、シラバスを見た他の専任教員からは「これは歴史学じゃない」と批判されているそうです。どうやらその先生は学部の歴史学は一般的な歴史学概論のような内容でなければいけないと思い込まれているようです。その人が歴史が専門というわけでもないのですが。

とはいえ、一般的な概論で15回も授業をしたら、教養課程の学生にとっては苦痛以外の何物でもなくなります。今のように熱心に耳を傾けてはくれないでしょうね。

クレームをつけてきた教員が本書のような名著をもしも読んでいる人だったら、もっと歴史学に対する考え方が柔軟なはずなんですが、読んだことはないのでしょう。もちろん、私としてはそういう頭も心も硬い人は放っておいて、自分の担当回の授業で学生たちを楽しませることに専念するつもりです。
政治力のある教員なので、この科目も前期限りになるでしょう。

でも、この機会に再度名著に触れられたのはありがたいことでした。

(講談社学術文庫1994年960円税別)

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