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2014年8月13日 (水)

ロバート・I・サットン『マル上司、バツ上司 なぜ上司になると自分が見えなくなるのか』矢口誠訳

『あなたの職場のイヤな奴』の続編で、嫌な奴の大半を占める「上司」boss がそのテーマになっています。まあ、前著の流れからして、書かれるべくして書かれた本です。

本書はイヤなクソったれ上司だけでなくて、優秀な上司、最高の上司についても対照的かつ具体的に述べられていて、前著とはまた一味違った面白さがあります。

著者によれば、よい上司についた部下は心臓発作を起こす率が下がるそうです。スウェーデンで行なわれた調査では20%はリスクが低下するそうですし、よい上司のもとに四年いると、リスクは39%低くなるそうです(21頁)。

まあ、サラリーマンならだれでも思い当たるでしょう。

不快な上司というのは結構あたりかまわずにキレるので、自分の所属する部署でなくてもその不快な言動は耳に入ってくることが少なくありません。よその組織でもちょっとした通りがかりにその言動を耳にしたり、目にしたりしてしまうことがあります。直属の部下の人には本当にお気の毒です。

そうした部下の集中力と生産力を大きく左右するのが、職場環境の善し悪しよりも「直属の上司の善し悪し」だということも、この分野の研究ではすでに実証済みなんだそうです(22頁)。

それにしても、上司は最初から上司であったわけではありません。実際、人は係長、課長と昇進し、権力を行使できるようになると途端に自己中心的になり、

1.  自分自身の欲求に意識を集中する

2.  他人の欲求や行動には意識を向けなくなる
3.  不通の人間なら当然従うべきルールや不文律に、自分は従わなくていいと考えるようになる

ということです。これについてはケルトナーとグリューエンフェルドの有名な実験実験があります。

私自身、そういう人間を今までも周囲に何人も見てきました。中には思い上がりすぎた行動から左遷されてしまった人もありましたし、ほんの僅かな権限ができただけでもたちまち身びいきしてしまい、上司を呆れさせた愚かな人間もありました。

ただ、そうしたクソッタレの行動は部下や周囲の人びとからしっかり観察されていて、噂はあっという間に職場中に広がるんですよね。これが人事の耳にもすぐ入って、それなりの処遇がなされる限り、組織はある程度健全さを保つことができます。

そうしたクソッタレやバツ上司を反面教師としながら、よい上司になるための、あるいは少なくとも悪い上司にならなくてすむための手がかりが満載です。

また会議は立ったままでやると、時間が短くすむとか、職場から不機嫌を生む身体的原因を取り除くといった具体的な提言も有益です。

翻訳も前著同様、読みやすかったです。

(講談社2012年1600円税別)

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2014年8月11日 (月)

石川幹人『人はなぜだまされるのか 進化心理学が解き明かす「心」の不思議』

人間の心理をめぐる不合理な現象を、生物的な進化の過程で発達し、受け継がれてきたものと考えると、多くのことが説明がつきやすくなります。

500万年前頃から動物として進化していった段階では、例えば蛇を恐れたりするようになり、300万年前頃からは狩猟採集生活を始めたので、集団的協力が必要となします。

そして、1万年前に農業が発明されるとともに人口が爆発的に増加し、定住し、都市を形成するようになりますが、この短い期間に進化として新たに加わったものはおそらくほとんどなく、それ以前の狩猟採集生活で身につけたものを組み合わせて対応しているようです。

この進化心理学という分野は、ダーウィンの再評価に基いて心理学の基本的味見方が形作られているという感じです。ダーウィン嫌いの人には受け入れがたいところもあるのかもしれませんが、基本的な枠組みがすっきりしていて、門外漢にはむしろわかりやすくていいと思います。

最も国民の過半が進化論を信じないというアメリカのような国もあるので、欧米では案外風当たりが強いのかも知れません。この点では日本は宗教的には無風状態なので、進化心理学の議論は抵抗なく受け容れられるような気がします。どちらかというと追い風が吹いているかもしれませんね。

本の内容もわかりやすく、この分野の代表的実験などを散りばめながら、優しく説かれていて好感が持てます。ブルーがックスシリーズにふさわしい良書です。

(講談社2011年820円税別)

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2014年8月 8日 (金)

カレン・フェラン『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。 コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする』(神埼朗子訳)

単純な内幕暴露本ではなくて、ちゃんと前向きのアイデアも展開されているいい本です。

著者自身コンサルタントとしての失敗も決して隠すことなく、この業界のえげつないやり方とそれを嬉々として受け入れる企業の愚かさについて、公正に記述されています。

本書では、著者の指摘を待つまでもなく、多くの専門家がすでに次のことを確認していることがわかって有益でした。

・業績給やインセンティブ報酬は・・・×
・数値目標や指標付きの目標も・・・×
・年次業績考課、特に評価スコアを付けることは・・・×
・会社が成功するには優れた戦略が必要・・・証明されていない
といった感じでまとまっています(307ページの表)。今日の経営学では常識なのかもしれませんね。

結局、人のマネジメントをうまく行うには優れた対人スキルが必要で、何よりいろんな形でみんなが話し合うことが重要のようです。まるで十七条憲法のようです。

そして、リーダーシップで「大事なのは、スキルや長所を最大限に生かしつつ、訓練したり欠点を補ったり、あるいはチームを作ることによって弱点を補うことだ」(259頁)とあります。

実に常識的ですが、これが大会社ではだんだん曲がってくるということがあることもわかります。

これとは別に、マッキンゼーなどの推奨する方法、すなわち、「社員をA,B,Cの3つのクラスに分類し、扱いに差をつける。Aクラスの人材(上位10~20%)には多額の報酬を与え、できる限り裁量権をもたせる」(Cクラスは指導または解雇)といったやりかたでAクラスが不正に手を染めて潰れたのがエンロンなんだそうです(204-206頁)。

エンロンとは比べ物になりませんが、やはり他山の石としたいです。

翻訳文は読みやすくてよかったです。

(大和書房2014年1600円+税)

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