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2014年10月22日 (水)

髙山正之『変見自在 プーチンよ、悪は米国に学べ』

毎週『週刊新潮』で著者の記事を立ち読みしています。めったに飼わないので、その罪滅ぼしに著者の単行本が出たら、いつも買うことにしています。

昔は山本夏彦の写真コラム、それから池田晶子のエッセーを読んでいましたが、今は著者の記事だけを楽しみにしています。あ、文春の土屋賢二もたまに眺めています。

ちなみに、連載を楽しみにしている著者の本は結局買うことになるので、上記の著者の本はすべて読んでいます。

それにしてもいつも著者からは大手マスコミが報道しないさまざまな事実を教わります。

著者の情報収集および情報処理能力は、今日のジャーナリストを名乗る人たちの中でも群を抜いています。世界情勢と歴史についても実に詳しく、また、複雑な事情を要領よくまとめてくれるので本当に勉強になります。

著者に教えられた本は英語の本も含めてできるだけ読んでおこうと思いますが、なかなか追いつけません。ハワード・ジンの『若者のためのアメリカ史』は先日入手しましたが、未だ机の上にあるままです。早く読まなくては。

本書ではあっさり触れられていましたが、「日本に仏教がすんなり入れたのは、神の社では処理できない不浄の死と遺骨を始末してくれるからだ」(166頁)という指摘にはうなずかされました。

立ち読みのときにはあまり気に留めなかっただけに、やはり買っておいて良かったです。

(新潮社2014年1400円+税)








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2014年10月20日 (月)

上橋菜穂子『明日は、いずこの空の下』

文化人類学の野外調査を含む旅のエッセー集。

ファンは読むべし。

私の娘もファンなので、誕生日プレゼントに買って、先に読んじゃいました。

世界18カ国を旅している人なので、やっぱり話は面白いです。

ハンガリーのブダペストやヴィシェグラードの話も出てきて、親近感がわきます。

羊の尻尾を食べる話とか、異文化理解の題材もたくさん出てきます。

こういう体験もまた作者の物語世界に紡ぎあげられていくのでしょうね。

新刊の『鹿の王』も読まなくては。

(講談社2014年1300円税別)

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2014年10月17日 (金)

水島広子『整理整頓 女子の人間関係』

一見して通俗的な心理学書のたぐいかと思ったら、中身はしっかりした本でした。

タイトルどおり女子必読ですが、これは男性も読んでおいたほうがいい本です。

女子の問題の本質は著者によると「主に外見によって『選ばれる』という受動的な立場に置かれていることにある」(28頁)といいます。つまり相対評価の世界に生きているわけですから、男性でも職場での昇進や権力奪取を巡って同じ問題が生じるわけです。

なるほど、男性の場合に女性の陰湿さと同じことが起こるのは「選ばれたい」人たちに特徴的なのかもしれません。心当たり、あります。上司に選ばれ、周囲の女性に選ばれて当然と思っているのに現実がそうでないと、恥も外聞もない取り乱した行動を取るという男性を何人も知っています。

ある人なんか、匿名の嫌がらせの手紙を送ってみたり、ライバルと目する同僚の給与明細を間違ったふりして盗み見たりとか、女性の前でやたらと自分の手柄自慢をしてみたりとか、我を忘れてやってしまうんです。幸いそうした奇行は組織トップの耳にまで入っているので、今後共評価されることはないのですが、この種の人間が間違って昇進してしまう場合があると、これまた必ず権力を濫用します。

こういうのって、基本的に女性的といえば女性的な振る舞いだったんですね。

さて、それはともかく、本書は多くの実例を分析し、巻き込まれず、自分を守り、相手を癒してしまうという3つのステップが提示されます。これがどれもよく考えられていて感心させられます。

周囲の嫌な女性は大概この中のどれかに当てはまり、上述の女子的男性への対処にもしばしば応用がききます。

根本的には自分自身が「さっぱりしていて、温かく、後腐れがなく、嫉妬もせず、裏表がなく、正直で、誠実で、一貫性があって」(43頁)という人間になること=「女度を下げる」ことが、女性はもちろん、男性にも求められています。

そういう女性があらゆる女性に好かれるのは、著者によれば「これは、傷ついた存在である『女』を安心させる姿勢だから」(43頁)だそうです。出発点で女性は傷つくことの多い、つまり選ばれなかったという感情を持ちやすい存在なのですね。

各論の具体的なアドバイスもセリフとともに示されていて、いろいろと納得させられます。

わざとらしく褒めて相手を値踏みしようとする「女」に対しては「そんなふうに言ってくれて本当にありがとう」と、言ってくれたこと自体にまずはお礼を言うことで、相手に感謝を伝えつつ、相手の値踏みに巻き込まれないようにすることができる、とか、なるほどです。

また著者は、嫁姑の問題は女性同士の問題として扱うのではなく「夫がきちんと考えて決定しなければならない」(161頁)性質の問題だと喝破します。

目からうろこの本です。

(サンクチュアリ出版2014年1300円+税)





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2014年10月16日 (木)

橋本治『これで古典がよくわかる』

題名通りの本です。ほんとうによくわかります。

漢詩文が教養で、ひらがながマンガだったという時代から、和漢混淆文が出てきてようやく日本語の文章が話し言葉を活かした表現として確立されていく道筋が、実によくわかります。

で、カタカナは漢字の方に属する文字なので、漢字カタカナ混じりの文章は、漢文の延長で、教養や権威に属するんですね。大日本帝国憲法をはじめ、法律の文章はその伝統を受け継いでいたわけです。

文学的な読みの鋭さも著者ならではのもので、「あはれ」は「ジーンとくる」、「をかし」は「ステキ」という絶妙な訳語が示されています。これは学者にはできないことですが、説得力はさすがです。

源氏物語の歌の解釈の鋭さには鳥肌が立ちました(251〜252頁)。

一家に一冊どうぞ。

(ちくま文庫2001年680円+税)

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2014年10月 9日 (木)

石川幹人『だまされ上手が生き残る 入門! 進化心理学』

る人類には自らが進化する中で発達させてきた、というより、発達させた結果が今日まで幸運にも続いている様々な能力がたくさんあるにもかかわらず、それらを意識することもなく日々生活しているのですが、こういう学問分野が光を当ててくれることで、あらためてその不思議さに気付かされます。

だますのも人の常なら、それと知りながら相手にうまくだまされてあげるという高等戦術もまた可能ですし、著者が指摘するように、案外実際に私たちはやってきているのかもしれません。普通の人々はそうやって人間関係を決定的には悪くしないようにしながら静かな生活を送っているわけですから。

かく言う私もサイコパスに近いような連中にはつとめてだまされてあげるようにしています。知らぬは本人ばかりなりというくらいにしておかないと、次に何をしてくるかわかりませんから。まあ、所属組織の中では有名で、みんなから鼻つまみ者だったりしますし、組織トップにまでその奇行はバレバレだったりするですが、本人だけは知らずにいるというのも、幸せの一種なのでしょうけど。

もともと山岸先生の社会心理学の中で紹介されていたフランクの著作『オデュッセウスの鎖』から進化心理学的説明に興味をいだいたのがきっかけですが、進化心理学の射程は実際大変広くて、行動経済学や社会心理学など様々な学問と関係があります。おかげさまで、授業でもいろいろと実験結果やエピソードが紹介できそうです。

日常のほとんど人間の本能に由来するのかと思うような感情は、人間が集団行動を始めた頃から蓄積されてきたものだったりするので、そこでは進化心理学の説明がしばしば有効だったりします。

人が別段経験したことはないのに、ほとんど生得的に蛇やゴキブリが嫌いだったり、ドクロを恐れたり、あるいは近親相姦を避けたりする感情や行動規範は、進化の途上でDNAに刻まれてきたものだということになるわけですが、そう言われてみれば、他に合理的な理由も文化的な理由も見いだせなかったりします。

こうなってくると仮説の巧拙が説得力に影響するので、発想力が豊かで文章力のある著者のような研究者はこの分野ではますます重宝され、生き残っていくという進化論的説明も可能です。

文献も適宜紹介されているので、また芋づる式に読んでいこうと思います。

(光文社新書2010年780円+税)

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2014年10月 5日 (日)

ロビン・ダンバー『友達の数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学』藤井留美訳

いわゆる「ダンバー数」というのは著者の名前から来ていたんですね。友人や上手くいく集団の人数はほぼ150人前後といわれるのがそれです。

言われてみると思い当たるふしがあります。Facebookの友だちは実質それくらいが上限のような気もしますし、職場の人間関係もだいたいそんなところではないでしょうか。

人類は今から600万年前に類人猿に進化し、200万年前に直立歩行を始めましたが、そこから農業を発明する1万年前までは集団で狩りをしたりしながら、協力関係が維持できる程度の集団生活を送ってきたわけです。

その間に発達してきた行動や感受性のパターンというか、癖が今日にの人類にも引き継がれていると考えるのが、この進化心理学の基本的立場です。この分野は十分に実証可能というわけではなくて、仮説の説得力が決め手になるところがありますので、著者のように話題が豊富でおそらくは人前での話も巧みな研究者にとっては才能を発揮するのにうってつけの場所なのではないかと思います。

本書でもトリビアな知識がみっちりと書き込まれていて、めっぽう面白かったです。話題もどこに飛ぶのかこちらが心配になるくらいあちこちに寄り道します。講義を聞いているとさぞかし面白い人なのだろうなと思わされますが、細部の知識に「あれっ」と首を傾げざるをえないところがあり、そうなってくると、一事が万事で、全体の信憑性にも疑問符がつきかねません。

具体的には、アッティラのフン族の脅威に怯えた先住民がその言語を「いそいそと受けいれ」、「それが、今のハンガリーで話されているマジャール語になったのだ」(145頁)というとんでもないことが書かれています。

フン族とマジャル族は時代も人種も違うんですけど、それを誤解した昔の学者たちの影響で英語のHungaryにHunが残っていると言われます。しかし、まさか斯界では博識で通っている著者までもが、今日でも平気でこんなことを書いてしまうのですから、ハンガリー人たちはみんなにっこりと微笑んでいることでしょう。

こういうところには翻訳者や編集者が訳注でもつけてくれておいてくれるとありがたいですね。

(インターシフト2011年1600円+税)

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2014年10月 2日 (木)

ティム・ブラウン『デザイン思考が世界を変える イノベーションを導く新しい考え方』

IDEOって、みんなで寄ってたかって面白いものをデザインする会社というイメージですが、そこの社長兼CEOが著者です。

ただ、イノベーションを導くのはこれっていう定型的な思考や秘訣があるわけではありません。それがあれば苦労はしませんよね。

本書ではむしろ、イノベーションを可能にするための条件と職場の環境整備について、様々な具体例の紹介とともにかなり詳しく述べられています。その分散漫な印象もありますが、何度か線を引っ張ったところを繰り返して読むと、いいヒントが得られそうです。

なお、読んでいて、引き合いに出される概念が、ドーキンスのミームだったり、タレブのブラック・スワンだったり、あるいはミルトンの悪魔の挽き臼だったりするのはなかなかいい感じです。

現場でのアイデアがすぐに反映されるようなシステムというと、トヨタの工場での現場からの提案が思い浮かびますが、あれは本書でいうデザイン思考を先取りしていたのでしょうね。

今後の大学運営にもうまくいかせたらいいなと思いますが、職場環境の整備が鍵でしょうね。

(ハヤカワ・ノンフィクション文庫2014年700円+税)

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