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2014年11月20日 (木)

渡辺京二『無名の人生』

いい本です。心にしみます。

序文の「人間、死ぬから面白い」はあとがきによれば、著者の言葉ではないそうです。編集者が、しかし、うまいことつけてくれていますね。

著者は大連からの引揚者なので、清心から引き上げてきた私の今はなき母の感性と近いところがあって、個人的には懐かしい思いで読ませてもらいました。

帯には「成功」「出世」「自己実現」などくだらない、とありますが、その根底にはどこか故郷喪失者という感じがあるんですね。

でも、故郷喪失者は実はどこでも暮らしていけるので、決してペシミスティックにはなりません。結構半端でない反骨心と、そこはかとない明るさがあります。

『逝きし日の面影』により、決して無名ではなくなった著者ですが、本書がどうやらかなり読まれていますので、また無名ではいられなくなったようです。

いいことです。多くの人に読んでほしい本です。

(文春新書2014年750円+税)

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2014年11月13日 (木)

早野龍五・糸井重里『知ろうとすること』

できるだけ多くの人に読んでもらいたい本です。

著者の早野さんはあとがきでこう述べています。

「原発の事故は、起きてしまったことです。しかし、そこに生じた問題について科学的に考え、アプローチする態度が身についたら、将来大きな力になる」(172頁)

この科学的リテラシーがわかりやすく説かれたいい本です。

これで、無用に放射能を怖れることなく、適切な対応をするための第一歩が踏み出せるように思います。

早野さんの発言からの引用をもう一つ。

「内部被ばくに関しては、危険なことはない、ということが納得できる状況になりました。そこはもう、決着をつけることができたとぼくは思っています。この事実を、どうやって人々の間に浸透させていったらいいか、というのは、まだこれからなんですが」(86頁)

そうなんですよね、でも、この本が多くの人に読まれることで、これから目に見えて変わってくると思います。

あとがきで糸井さんが、「よりスキャンダラスでないほう」で、「より脅かしてないほう」、「より正義を語らないほう」、「より失礼でないほう」そして、「よりユーモアのあるほう」の意見を参考にするとあります(180頁)。

これは確かに有効なリトマス試験紙になります。ツイッター上のデマの飛ばし屋さんたちはみんなこれにひっかかります。

それにしても、糸井さんの書くものはここ何年か見ていると、ますます穏やかに鋭くなっていて、アランみたいだなと感心させられます。

(新潮文庫2014年430円税別)

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2014年11月 8日 (土)

瀬戸賢一『日本語のレトリック』

短大の新カリキュラムでレトリック論をやることになったので、いろいろ教科書を物色していて、結局これに落ち着きました。佐藤信夫や香西秀信の本も良かったんですけど、本書が一番読みやすくてレトリックの種類が整理されていました。

レトリックが30種類で、文例も豊富で面白かったです。ジュニア新書で14刷というだけのことはあります。問題はこれを材料にどんな授業用の設問を作るかということで、今はそちらの方に頭を悩ませています。春休みの宿題になりそうです。

講義名は「説得とレトリック」です。議論や説得の話は本書にはほとんど出てこないので、やはりここは香西秀信の本を参考書として指定して、議論術への道案内をするのが妥当でしょうね。

まあ、教材づくりの方はぼちぼちやっていきます。

(岩波ジュニア新書2002年820円+税)

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ダン・ガードナー『リスクにあなたは騙される』田淵健太訳

9・11後のアメリカでは、1年間で飛行機を避けて車で移動した人が増えたため、その年だけ1500人ほど交通事故死亡者も増えてしまったというデータがあります。本来飛行機で移動していたはずの人が、車で移動したことによる数字ということになるわけですが、人間の恐怖感というものは頭でわかっていても、著者のいう「腹」が直感的に恐怖を覚えるとどうしようもなくなります。

この「頭」と「腹」のたとえは、カーネマンのシステム1と2(順序で言うと2と1)にならったものですが、なかなかわかりやすくていいと思います。

本書の後半ではビン・ラディンとフセインを無理やり結びつけたあこぎなやり方がうまく説明されています。1%でもテロの危険があったら徹底的に潰すというチェイニー国防長官の発言などは「腹」から出たものですが、メディアがこれ一色に染まってしまって後戻りできなくなってしまったのは残念なことでした。

ただ、著者はこれでもかいわんばかりに様々な資料を用いて人間の判断のバイアスを証拠立ててくれますが、一般読者としてはお腹いっぱいになってしまいます。かと言って文献中が充実しているわけでもないので、研究者にとっても決して便利な本ではありません。

内容的にはとてもいい本ですが、いっそ、実例をもうちょっと絞って半分くらいの厚さの本にしてもらったらありがたかったです。

翻訳文も日本語として気になるところがなくて、よかったと思います。ただ、「頭」と「腹」の原語が何なのか気になることもあり、kindleの原書を注文しておいたほうがいいかもしれません。

(ハヤカワ文庫ノンフィクション2014年1060円+税)

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