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2015年1月29日 (木)

マルコム・グラッドウェル『逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密』藤井留美訳

グラッドウェルらしい本です。目の付け所といい、話の展開といい、お見事としか言いようがありません。

こんなふうに本を書けるなら、筆だけで立つことができますね。見習いたい。

本書の原題の「ダヴィデとゴリアテ」のところは著者自身によるTEDのスピーチでも見ることができます。よろしかったらどうぞ。

かくいう私もこのスピーチを聴いたのがきっかけで本書を手にとったのですが、本書はこれが序章で、ここからさらに面白い話が展開されています。

本書では、並みの大学の優等生のほうが一流大学の並みの学せよりも優秀なこととか、識字障碍者の能力の発揮、命からがらの経験をくぐり抜けることが幸福感や充実感につながる「リモートミス」などが特に印象に残りました。

社会心理学の授業に役立つ話題もたくさんありますが、残念ながら、4月からは非常勤のコマはなくなるようです(正式な連絡がないままの雇い止めです。なかなかのブラックだわ〜)。

ただ、本務校で新カリキュラムに社会心理学が入るので、来年度の科目ですが、そちらに活かすことにします。拾う神もあるものです。

著者は「強者は見た目ほど強くはなく、弱者は見た目ほど弱くない」(246頁)と言います。「怖がることを怖がらなければ」活路は見出だせるようです。

実際、これまでの経験の中で格好ばかりの強者をたくさん目にしてきましたから、これは身にしみてわかります。実は臆病で、自分を飾ることしかできず、侠気と無縁の輩って、ほんとにたくさんいるんです。もちろん、そうした連中が権力をもっている場合には慎重に対処しなければなりませんけど。

(講談社2014年1400円税別)

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土屋恵一郎『処世術は世阿弥に学べ』

タイトルからはビジネス書のような印象を受けましたが、読んでみると、世阿弥の人生と芸術論の本でした。

もちろん処世にも役立ちます。

著者には昔お世話になりましたので、口ぶりや表情なんかも文章から浮かんできて、懐かしい思いで読ませてもらいました。

本書に出てくる「東大法学部が一番優秀だ」なんて言っていた先生の名前なんかは、直接本人からお聞きしたことがあります。へぇー、あの先生がね~、って感じであることは確かです。

まあ、大学なんて東大だろうが某大だろうが、常識のないバカの見本市みたいなところですから、そんなものではあるんですが。

本書はHontoの電子書籍で読みました。家の本棚を見たら、紙の本もあったことに後で気がつきましたが、家内が買っていたものかもしれません。

家内の話では、世阿弥の作品理解については異論があるそうですが、そのあたりは私は不案内です。

いずれにせよ、私にとっては読みやすい、いい本でした。

(岩波書店2002年)

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2015年1月28日 (水)

池内恵『イスラーム国の衝撃』

わが国にもこんなふうにまともな研究者がいるのはありがたいことです。

アルカーイダから別れていつの間にか独特な形で増殖してきたイスラム国についての客観的な情報が得られます。

ISISは実際には一般的な国家の体をなしていないのですが、情報戦略に長けていて、ネットワークのなかに出現するというヴァーチャルなところがあるので、簡単に殲滅することはできないように思われます。

イスラム教を大義名分にして理屈を述べていると、インテリが結構シンパになったりしますが、宗教の上に開き直って異教徒を奴隷にして売買しているところなんかは擁護できません。

この点について著者は、次のように述べています。

「このような国際社会の規範を逸脱する結論を、イスラーム教の神聖な経典やそれに準ずる教典から導き出すことについて、世界のイスラーム法学者はどのように反応しているのだろうか。このような法学解釈の根拠や論理展開に正面から反論する学者が出てこなければ、過激思想を正当なものとみなす次世代が育ちかねない。イスラーム世界にも、宗教テキストの人間主義的な立場からの批判的検討を許し、諸宗教間の平等や、宗教規範の相対化といった観念を取り入れた、宗教改革が求められる時期なのではないだろうか」(203頁)

まったくその通りです。

(文春新書2015年780円+税)

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2015年1月21日 (水)

水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』

同僚の先生が同じ本を3冊も買ってしまったと言って、いただいたものです。いただかなければ読まなかったでしょうね。ご縁に感謝します。

本書では、搾取と自己増殖を続けてきた資本主義はもう開拓する市場がなくなって終焉に至るという大局的な見方が示されています。

そうかもしれません。

歴史から学ぶとますますその傾向が裏付けられると著者は熱く語っていますが、そこのところは解釈が別れるかもしれません。

アベノミクスがまずいことは素人にもわかりやすく解説されています。この点だけとっても読んでおいて損はないと思います。

リフレもバラマキも資本主義の終焉に向かっては無力ですから。

これから世界のどこにいても大変な時代を迎えることだけは間違いないですね。

くわばらくわばら。

著者も資本主義の次に何が来るのかはわからないと正直に述べています。

でも、それはそれとして自分なりにどこでも生きていけるようにはしておくつもりです。

自助努力の時代なんて、明治維新のころみたいで、それはそれで面白いかも。

(集英社新書2014年740円+税)

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2015年1月 7日 (水)

スチュアート・サザーランド『不合理―誰もまぬがれない思考の罠100』

「人はほぼ常に間違った判断を下し、愚かな行動をしている」と帯にありますが、まったくそのとおりで、人間の「認知バイアス」の見本市のような本です。

原著は1992年に刊行されていますが、読んでいて古さをまったく感じませんでした。

章末に内容のまとめにかわる「教訓」が載っていて、これがまたユーモアと茶目っ気があって楽しいです。

たとえば、
・社会心理学の研究室が被験者募集の広告を出しても、乗らないほうが無難だ。
・保険のセールスマンは決して家に入れないこと。
・万が一ノーベル賞を授与されることになったら。丁重に辞退すること。
・常に間違っている人はいても、常に正しい人はいない。
・食べたいものを食べよう。

といった感じです。
それぞれにちゃんと理由があります。

それにしてもいつも間違った判断をしていながらよく人類は存続してこられたものです。著者も言うように、どうやら集団に付き従う生活をする中で、非合理的思考が温存されてきたようですね。

いい本です。一家に一冊どうぞ。

(伊藤和子・杉浦茂樹訳、阪急コミュニケーションズ、2013年、2000円+税)

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