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2015年10月

2015年10月23日 (金)

井上達夫『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』

本書の帯には「偽善と欺瞞とエリート主義の『リベラル』はどうぞ嫌いになってください!」とあって、思わず顔が浮かんでしまいます。

著者はリベラリズムの核心は正義概念にあると見ていて、価値相対主義的、ポストモダン的風潮にはっきり対立しています。


この態度には私は以前から著者に共感するところでしたが、本書はインタビューに答える形式で書かれていますので、読みやすいのがいいところです。

著者のような微妙な立場の議論は論敵を意識しながら書かれるとどうしても難解になりがちですが、本書はこの点でかなりわかりやすくなっています。

読み進めていくと、私の考えも著者の言うリベラリズムに近いことがわかってきて、今まで読んでいたものをもう一度読みなおそうかと思うと同時に、著者の最近の『世界正義論』も読んでみる気になりました。

そういえば私が2009年に拙著『法と道徳』を出したときに、本を渡したその場でぼろくそに批判してきた人も著者の同門だったと記憶していますが、ちらっと見て同じ傾向だということだけは察知したんですかね。代理じゃないのに代理戦争の相手になっていたのかな。

本書には著者の以前からの憲法9条削除論以外にも刺激的なアイデアがあって、法哲学の入門者だけではなく一般の読者にもおすすめの本です。

それにしても仮に9条を削除するとした場合の具体的な手続きもまた憲法改正になるとしたら、結局のところ実現は難しそうではありますが。

(毎日新聞出版2015年1500円+税)

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2015年10月21日 (水)

木田元『哲学散歩』

久々の更新です。ご無沙汰しておりました。

この数ヶ月学会準備やら論文やら海外出張・講演と妙に忙しくて、読書はしていても更新する気持ちの余裕がありませんでした。

それでもここに来てようやく感想を書き留めておきたい気持ちになりました。

木田元さんの最後の本です。

古代ギリシアの話題から始まって、様々な哲学者たちのエピソードとご自身の思索の歩みとが絶妙にブレンドされたエッセーです。

お亡くなりになる年までこうして書き続けられたのは素晴らしいです。

本書で言及された本も古代から中世哲学はもとより、パピルスの歴史といった様々な歴史書もあって、これまた読書意欲をそそられます。

印象的だったの箇所は次のところです。

「ギリシア思想の本領は、やはり『ソクラテス以前の思想家たち』に見られるような、万物を生きて『生成するもの』と見る『自然的思考』にこそあると思う」(71頁)

ハイデガーなんかこれが言いたくて仕方なかったのですよね。
ただ、日本的自然観からすると結構当たり前に見えてしまうというところがあって、あんまりありがたい感じはしませんが、どうでしょう。

しかし、これをありがたいと思う人ならかつてのポストモダンの踊りがきっと今でも見事に踊れます。

それにしても木田さんは最後の最後までハイデガーの哲学が大好きだったんですね。本人が不思議と言っているくらいですから、外野からはとやかく言えませんが、私はハイデガーは嫌いでも、木田さんは大好きです。

(文藝春秋2014年1500円+税)

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