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2016年1月

2016年1月26日 (火)

中村桂子『知の発見 「なぜ」を感じる力』

中高生にぜひとも読んでほしい本です。

生命誌というのは著者が言い出したことだと思うのですが、本書でようやくどんなものかがわかりました。

「生命誌は、他の生きものたちをていねいにしらべ、そこから自分の生き方を考えていこうとしています」(91頁)

「自然や生命をよく考えることによって、内なる自然、つまり人間の心と体を壊さないような社会をつくっていきませんかというのが生命誌の提案です」(138頁)

高校生向けの講演を元に書かれた文章ですので、読みやすく、わかりやすいです。しかし、内容は高度で手加減していません。

こんなふうに話ができるといいですね。

お手本にさせてもらいます。

生命誌が大森荘蔵の「重ね描き」との親和性があることも納得がいきましたが、さらに著者の他の本も読んでみます。

(朝日出版社2015年1280円+税)

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2016年1月25日 (月)

内村鑑三『宗教座談』

内村鑑三の『キリスト教問答』は私の愛読書の一つですが、本書は小品ながらまたそれとは少し趣が異なる優れたキリスト教の入門書です。

特に本書では『キリスト教問答』に詳しく書かれていなかった霊魂について展開されていて、新鮮な驚きがありました。

印象に残った箇所を以下に引きます。

「霊魂とは何であるかというに、、精神でもなければ、感情でもなければ、意思でもなければ、またいわゆる生命でもありません、霊魂とはこれら以上のものでござまして、他にその好い詞がありませんから、まずこれを自我と申しましょう、すなわち霊魂とは肉体は勿論、すべての感情、すべての意思の主でございます、・・・言い換えて申せば人の本位でありまして『私』といい、『貴方』というは私の霊魂または貴下の霊魂を指していうのでございます」(78頁)

内村に言わせると、霊魂=soulであり、その救い主がほかならぬキリストなのです。

「キリストは医者でもなければまた政治家でもございません、彼の天職は霊魂の救主たる事でありまして、彼の為されし仕事の性質から申しても彼は人間中には比類のない者でございました」(85頁)

「霊魂は実にその友として、またその父として、その救主として、宇宙万物の造主なる唯一無二の活ける真の神の愛を要求いたします、これなければ彼は死んだものです、これあれば彼は彼の欲するすべてのものを獲たものです」(107頁)

もう一つ。

「すなわち永生とは神を知り、神の遺ししキリストを知る事でございます、これを言い換えて見れば、キリストに顕れたる神の愛を信仰を以って我が霊魂に同化するという義であります、キリスト教の伝うる永生なるものはかくも明白なるものでございます」(109頁)

天国と天国での「政治」の話も具体的にイメージされた興味深いものでした。

入門書の体裁がとられていますが、一通り読んでみると、実はその内容は論理の直球勝負による情熱的な理論書とでも呼ぶべき本でした。

(岩波文庫2014年540円+税)

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2016年1月19日 (火)

上田紀行『生きる意味』

生きる意味を見失いがちな今日のわれわれへの応援歌です。

生きる意味は固定化されたものではなく、われわれの内的成長とともに変化ないし進化していくものなので、われわれ自身そうした意味を日々発見し、創造していかなければなりません。

著者がその内的成長のきっかけになるとしているのが「ワクワクすること」と「苦悩」という二つです。

前者はわかりますが、後者の「苦悩」は一瞬何のことかと思いますが、苦悩の果てに見いだすものが生きる意味だったりするわけですから、それでいいんだと納得させられます。

話はそうした内的成長を可能とする社会=コミュニティーの再創造へと及んでいきます。

著者の社会のイメージは次のような記述からもうかがい知れると思います。

「かけがえのない存在がここにいて、あそこにもいる。世界の中心がここにもあり、あそこにもある。私たち一人一人をオリジナリティーの源泉として見るとき、世界のいたるところに『かけがえのない』オリジナリティーの中心が見えてくる。私のかけがえのなさを見出すことは、あなたのかけがえのなさを見出すことでもある。そしてあなたのかけがえのなさに気づくことは、私のかけがえのなさに気づくことにもなるのである」(219−220頁)

とりわけ悩める高校生や大学生に読んでもらいたい本です。

(岩波新書2005年740円+税)

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2016年1月15日 (金)

上田紀行『スリランカの悪魔祓い イメージと癒しのコスモロジー』

いやー、予想に違わずいい本でした。

「癒し」という言葉は著者が本書で使い始めたことに端を発するんですね。

それにしても、文化人類学のフィールドワークでスリランカの悪魔祓いを見て回った著者は、この悪魔祓いのもつ癒しの力のいわく言いがたいところを絶妙に言語化してくれています。

著者は「イメージ」と「つながり」という二つの要素が私たちの生命力を活性化させてくれると言います。そして、悪魔祓いはこの活性化の技術が凝縮された祝祭・演劇空間なのですね。

私の師匠の中村雄二郎が『魔女ランダ考』でバリ島の祝祭・儀礼について書かれていたこととテーマが共鳴しています。知的関心の広さも似ていますし、ちょっと懐かしさを覚えました。

読者の思考と感性を大いに刺激してくれる本ですが、同時にこの読書体験そのものが大いなる癒しにもなってくれます。その点でも見事な本です。

私も著者の考えに共鳴しながら、イメージの共有ということについて考えていきたいと思います。

(講談社文庫2010年676円税別)

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2016年1月13日 (水)

上田紀行『人間らしさ 文明、宗教、科学から考える』

いい本でした。

日垣隆さんのメルマガに著者との対談があったので興味を持ちました。

スリランカの「悪魔祓い」の癒やしの構造が示唆的です。

そもそも「癒やし」という言葉を初めて使ったのが著者ということですから、名実ともに癒やしの第一人者です。

著者が何故悪魔祓いで病気が治るのかと聞いた悪魔祓い師が「どんな病気もその人の心がワクワクし出さないと治らない」(113頁)と答えたのが印象的でした。

そのワクワクする悪魔祓いのフィールドノート『スリランカの悪魔祓い』は次に読むつもりです。

他に気に入った著者の言葉を挙げておきます。

「苦難に立ち向かうとき、人間に必要なのは何か。それは根拠なき希望だと私は考えています。そして、根拠なき希望が苦難に立ち向かうときの最大の根拠になるという逆説は、私たちの人生のとてつもなく深いところだと思うのです」(162頁)


(角川新書2015年800円税別)

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2016年1月10日 (日)

中村桂子『科学者が人間であること』

生物を総合的にとらえるための視点をまとめた本です。

「生命誌」という考え方がそれなのですが、本書ではその考えに至るまでの事情が丁寧に考察されています。

近代科学が生物を単なる機械仕掛けの物質としてとらえる機械論的生命観に立っていたのに対し、それでは生物ではなくて「死物」に過ぎず、生命の姿を本当にとらえることができないということが、哲学者の大森荘蔵の問題提起を受けつつ論じられていきます。

これはまったくその通りで異存はありませんし、宮沢賢治の科学観やマイケル・ポラニーの暗黙知の概念なども肯定的にとらえられていて、興味深く読むことができました。

ただ、著者が提唱する「生命誌」の考え方が今ひとつ具体的にわからないところがありました。近代科学が細密画に用になって全体がとらえ難くなっているところを、「略画」として「重ね書き」するというのは、大森荘蔵の考えに基づくものらしいのですが、この本だけでは十分につかまえきれません。

この「重ね書き」という思想の核心のところは、人間の自己治癒力などを考える上でおそらくかなり有効な視点になるのではないかと思われますが、勝手に自分が考えていることと重ねあわせているだけかもしれません。

著者の他の本と大森荘蔵の本をもう少し読んで理解を深めてみようと思います。

(岩波新書2013年800円+税)

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2016年1月 9日 (土)

日下公人・高山正之『世界は邪悪に満ちている だが日本は・・・・・・。』

いつものように刺激的な本です。

一般的な教科書などには載っていない情報に満ちています。

直接現地の人に話を聞いたり、議会記録を読みに行ったりする中から貴重な情報を教えてくれるので、勉強になります。

ふたりとも無類の読書家で、色んな本を紹介してっくれるのもありがたいです。

もっとも、なかなかショッキングな事例を教えてくれるので、簡単に勉強になりますとばかりも言っていられません。情報を自分の中で消化するのに時間がかかることもあります。

しかし、指摘されている事実を別に確認しながら、自分の世界観を広げるの楽しいことでもあります。

しかし、それにしてもジョージ・ワシントンなんてとんでもない奴だったんですね。

高山さんによるスンニー派とシーア派の違いも、踏み込んで書かれていて勉強になりますし、ローマ帝国が突然キリスト教化した話も、日下さんの仮説はなかなか説得的です。

いろいろと刺激的でした。

(ワック株式会社2015年900円+税)

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2016年1月 8日 (金)

吉本ばなな『おとなになるってどんなこと』

いい本です。
一家に一冊どうぞ。
特に中学生くらいのお子さんのいるご家庭にはおすすめしたいですが、

実は大人が読んでもいろいろ教えられる本です。

おとなになるというのは、
「子どもの自分をちゃんと抱えながら、大人を生きるということです」(31ページ)

そうなんですよね。

私自身、子どもの頃の感覚をずっと持ち続けているので、
ときどき「自分は子どものまんまだなあ」と思うことがあるのですが、
それでよかったんだ。

本書を読んであらためて確認できました。
こういうことは案外突き詰めて考えることがないので、
曖昧なままになっていることが多いのですが、
こうしてことばで形を与えると、もやもやがほぐれます。

著者の小説は読んだことがないのですが、
この考える姿勢と文章のリズムはお父さんの隆明さんに
通じるものがある気がします。

他にも友だちや普通ということ、死と生の意味、スピリチュアルなこと、
いろいろと考えさせてくれました。
手元においてときどき読み返すつもりです。
実は2冊買って一冊は家族で回し読みをして、
もう一冊は研究室において眺めています。
一家に1冊ではなくて、二冊になってしまっています。

(ちくまプリマー新書2015年680円+税)

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