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2019年8月15日 (木)

デービッド・アトキンソン『日本人の勝算』

 わが国のこれまでの量的緩和などの経済政策が間違っていたこと、さらに今後の処方箋(最低賃金の引き上げや人材育成)について、きっちりと数字の裏付けに基づいて議論されています。

 実際、人口が減少し高齢化が進んでいく中でいくら量的緩和をしても、需要者が減少するわけですから、物価が2%という理想的な水準に上がることはありえないということ(44頁)は、経済学に疎い人でも理解できることです。

 もっとも、一人あたりのGDPが世界で29位にまで落ち込んでいるにもかかわらず、OECD諸国の「人材の質」ランキングでは世界第4位という(80頁)、いかにももったいないというか、ばからしい状況は今後の発展に向けての潜在力を示してもいるわけですから、どうにかできる気はします。

 ここで著者は最低賃金を上げる政策を推奨します。計算では1399円まで引き上げたいとのことで、実際そこまで上げて先進諸国のレベルに追いつくそうです。さらに、都道府県ごとにばらつきのある最低賃金は全国一律にせよとも主張します、実際、アメリカの政策をそのまま導入したので、日本は自治体ごとに厚生労働省管轄で最低賃金を決めています。本来なら財務省管轄のマクロ経済政策のはずなんですけどね。

 本書には書いてありませんが、全国一律に徐々に上げていけば、ふるさと納税よりも地方経済に好影響をもたらしてくれると思われます。

 他に印象的だったのは、人材育成トレーニングを制度として充実させるべきだという主張です。それも全企業対象に強制するというアイデアです。人材育成は生産性の向上につながるからですが、個人的には大学通信教育もこれに協力できる形を取れるといいなと期待したりしています。

 ちなみに、官僚も専門性を高めるトレーニングをあらためて行ったほうがいいでしょう。というか、むしろ彼らこそ急務ではないかと思います。彼らはアメリカの議会報告書みたいなものしか読んでいないので、それらを拙劣に模倣した政策しか提言できません。

 それはともかく、本書は様々な具体的提言がなされていていずれも傾聴に値します。まだの方はぜひご一読を。

 

東洋経済新報社2019年(1600円+税)

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