学問・資格

2015年10月23日 (金)

井上達夫『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』

本書の帯には「偽善と欺瞞とエリート主義の『リベラル』はどうぞ嫌いになってください!」とあって、思わず顔が浮かんでしまいます。

著者はリベラリズムの核心は正義概念にあると見ていて、価値相対主義的、ポストモダン的風潮にはっきり対立しています。


この態度には私は以前から著者に共感するところでしたが、本書はインタビューに答える形式で書かれていますので、読みやすいのがいいところです。

著者のような微妙な立場の議論は論敵を意識しながら書かれるとどうしても難解になりがちですが、本書はこの点でかなりわかりやすくなっています。

読み進めていくと、私の考えも著者の言うリベラリズムに近いことがわかってきて、今まで読んでいたものをもう一度読みなおそうかと思うと同時に、著者の最近の『世界正義論』も読んでみる気になりました。

そういえば私が2009年に拙著『法と道徳』を出したときに、本を渡したその場でぼろくそに批判してきた人も著者の同門だったと記憶していますが、ちらっと見て同じ傾向だということだけは察知したんですかね。代理じゃないのに代理戦争の相手になっていたのかな。

本書には著者の以前からの憲法9条削除論以外にも刺激的なアイデアがあって、法哲学の入門者だけではなく一般の読者にもおすすめの本です。

それにしても仮に9条を削除するとした場合の具体的な手続きもまた憲法改正になるとしたら、結局のところ実現は難しそうではありますが。

(毎日新聞出版2015年1500円+税)

| | コメント (0)

2015年2月15日 (日)

日本説得交渉学会2015年第1回講演会・研修会

本学会では本年より企業および一般市民向けの連続講演会・研修会を開催いたします。
 第1回は以下の要領で行われます。お近くの方は是非足を運びください。
          記
日時 平成27年3月14日(土) 14:30~17:00
会場 慶應大学三田キャンパス 南校舎 447教室
演題 1.「外見力は仕事力」(その1)14:30-15:30
     株式会社アルマインド 代表取締役 柳田貴子
    2.「苦情対応の実践とテクニック:苦情対応における心理的メカニズム」(その1)15:35-16:35 
     柴田CSマネジメント株式会社 代表取締役 柴田純男
参加費 1000円

| | コメント (0)

2013年6月 9日 (日)

佐野誠『99%のための経済学【教養編】 誰もが共生できる社会へ』

著者が良い人すぎて肌に合いません。

私も新自由主義を支持するわけではありませんが、
小泉政権以来の新自由主義がマスコミを通じて
国民を洗脳しているとは見ていません。

マスコミはもっと定見がないでしょう。

言うまでもなく、誰もが共生できる社会というのは理想ですが、
本書ではその経済学的根拠は十分に触れられていないので、
詳細については本書の理論編を読まなければいけないようです。

著者が洗脳されやすい国民を教え導いてくれるなら、
それはそれで素晴らしいことですが、
立場やイデオロギーの異なる人びとの言い分を

対話的に検討するようなスタンスではないのが気になるところです。

もうひとつ気になるのは、
著者自身がマスコミの情報を結構うのみにしているところです。
「アラブの春」や「ミャンマーの軍事政権」についての
一方的な味方は朝日の報道のまんまですし、
アメリカ合衆国の標記を「合州国」とするのは
本多勝一の見解のまんまです。

これって著者の言う洗脳ではないでしょうか。

たとえば高島俊男の見解も並べて検討したというようには
見えないのが残念です。

真面目でいい人なんでしょうけどね。

そういう人ほど自分と近い立場のインテリの言うことを
あまり疑わずに信じこんでしまいがちです。

もちろん、理論編が理論的にどうなのかは別問題ですし、
それに、共生の経済というのが実際可能なのかということにも
興味がありますので、いずれ読んでみるつもりではいます。

(新評論2012年1800円+税)

| | コメント (0)