井上達夫『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』
本書の帯には「偽善と欺瞞とエリート主義の『リベラル』はどうぞ嫌いになってください!」とあって、思わず顔が浮かんでしまいます。
著者はリベラリズムの核心は正義概念にあると見ていて、価値相対主義的、ポストモダン的風潮にはっきり対立しています。
この態度には私は以前から著者に共感するところでしたが、本書はインタビューに答える形式で書かれていますので、読みやすいのがいいところです。
著者のような微妙な立場の議論は論敵を意識しながら書かれるとどうしても難解になりがちですが、本書はこの点でかなりわかりやすくなっています。
読み進めていくと、私の考えも著者の言うリベラリズムに近いことがわかってきて、今まで読んでいたものをもう一度読みなおそうかと思うと同時に、著者の最近の『世界正義論』も読んでみる気になりました。
そういえば私が2009年に拙著『法と道徳』を出したときに、本を渡したその場でぼろくそに批判してきた人も著者の同門だったと記憶していますが、ちらっと見て同じ傾向だということだけは察知したんですかね。代理じゃないのに代理戦争の相手になっていたのかな。
本書には著者の以前からの憲法9条削除論以外にも刺激的なアイデアがあって、法哲学の入門者だけではなく一般の読者にもおすすめの本です。
それにしても仮に9条を削除するとした場合の具体的な手続きもまた憲法改正になるとしたら、結局のところ実現は難しそうではありますが。
(毎日新聞出版2015年1500円+税)