書籍・雑誌

2017年2月20日 (月)

田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』

本書は書店で平積みになっていますが、高3の娘がこの一年ほどうつで苦しんでいなかったら手に取らなかったかもしれません。

本書はうつから抜け出た著者本人の経験からさらにうつを抜け出た人びとに直接取材して書かれたコミックエッセイです。

絵は手塚治虫風でキャラクターも魅力的に描かれています。特に女性が可愛らしいのも手塚風。懐かしくて親しみやすいです。

うつ経験者の有名人がたくさん出てきますが、大槻ケンヂや内田樹、まついなつきなんかもそうだったんですね。

それにしても、本書が5万部のベストセラーになるくらいですから、うつに苦しむ人は相当多いんだなとわかります。

印象的なのは「うつは心の風邪ではなく、心のガンだ」という表現で、確かに風邪どころではない深刻な病気で自殺することもあるくらいですから、ガンの比喩は当たっています。こじらせると大変なことになります。

読んだ娘の感想によると、自分は「半分くらい抜けた」状態だとのことです。そうやって半分って言えるようになったのは進歩です。本書がどれくらい効くかはわかりませんが、本人だけでなく周りの人にもうつを理解するために読んでほしい本です。

(KADOKAWA 2016年 1000円+税)

| | コメント (0)

2017年2月19日 (日)

天外伺朗『宇宙の根っこにつながる生き方 そのしくみを知れば人生が変わる』

スピリチュアル系のエグいところが一切ない素直な神秘思想です。

著者はソニーでCDを開発したりしてきた優秀な技術者で、同時にその道の追求も重ねてきた実践家・啓蒙家でもあります。

「宇宙の仕組み」というのは古代インド哲学のブラフマンみたいな感じでしょうか。

ユングやライヒ、さらにデヴィッド・ボームの思想とも共鳴されていて、おお、そんな展開もあるのかと感心させられます。

実証できる分野ではありませんが、いろいろと示唆的な本です。

私が一番感心したのは、著者が実践する瞑想の方法で、その方法と境地が具体的に書かれているところでした。

いろんな幻覚が見えたのを悟りを開いたと勘違いする、いわゆる「魔境の体験」、著者の言葉では「聖なる体験」に注意しろというところです。

かつてのオウム真理教はこれを薬を使ってまでして、洗脳の道具にしていましたが、そのポイントがこれだったんですね。

というわけで、心理学あるいは宗教社会学的にも示唆に富む貴重な記述がありました。

哲学でもこの曰くいい難いところに近いところにいるのが、パスカル、ベルクソン、アラン、ヴェイユあたりかなという感触を得たところです。このあたり、次の私の本でうまく言語化できるように考えておきます。

(サンマーク出版2002年524円+税)

| | コメント (0)

2016年12月30日 (金)

柴田昌治『「できる人」が会社を滅ぼす』

「仕事が速い」「調整力がある」・・・こんな人が危ない!

と帯にあります。

「真のできる人」になって自分の会社を元気にする方法が説かれています。

仕事を要領よくさばいているだけの能吏型の人は、本当は組織全体のことを考えず、目の前のことに追われているだけで、会社にとってマイナス要因にしかならないというわけです。

これは本当にその通りで、その「さばく」ことすら実際はよくできなくて、できる人のふりをしているだけの演技派も少なくないですが、いずれにしても、そういう人びとが全くといっていいほど物事を考えていないのは確かで、組織改革の最大の阻害要因になっています。

本書では会社の中にざっくばらんに話のできる場所を作り、自由闊達な組織風土を作るための具体的なアイデアがいろいろ展開されていますが、特に課長クラスで「コアネットワーク」を作ることができたらいいでしょうね。そんな人が10人集まれば組織は動かせるというのも、わかる気がします。もっとも、硬直した組織では実際に10人集めるのも大変ですが。

と、読みながら、自分の職場のことを考えると、日暮れて道遠しの感がありますが、大学なんてところは一番ダメな組織ですからね〜。せめて学生に迷惑がかからないように知恵を出していきたいと思っています。

(2016年PHP研究所1400円税別)

| | コメント (0)

2016年12月21日 (水)

髙山正之『変見自在 朝日は今日も腹黒い』

いつもながら、へぇ~と驚かされることや、ショッキングな事実が書かれています。

ポンソンビーの『戦時の嘘』から引かれていたりして、これは読まなきゃと思ったら、翻訳は出てなかったりします。

原書に当たらなきゃ。

本書では随所に歴史的事実のダイジェストが実にわかりやすく書かれているので、いろいろ勉強になります。

中東史、ローマ史、ペルシャ史、東南アジア史など私が不勉強なところに理解の手がかりを与えてくれていて、ありがたい本です。

それにしても直截的なタイトルですが、序文のエピソードを読むと、なるほどそんなこともあったんだと納得できます。

しかし、朝日自体が売上が落ち込んでますから、
これからは批判より先に同情しなければならないような次第になりそうな気もする今日このごろです。

(新潮社2016年1400円税別)

| | コメント (0)

2016年12月12日 (月)

西加奈子『 i アイ』

すごい小説でした。

西加奈子さん、さすがです。

阪神淡路大震災から9・11、3・11、パリの同時多発テロ、シリアの難民問題といった世界の悲惨な事件がすべて登場します。

仏教で言う「縁」のようなつながりかたです。

シリア生まれで、アメリカ人と日本人夫婦の養子として育ったアイという女性が主人公です。

この設定と人物造形、そして文章のスピード感は、小説世界の中で見事なリアリティを獲得しています。

それにしても、こんな小説を書きたくても書けない作家はゴマンといることでしょう。

何度も言っていますが、将来のノーベル文学賞候補に勝手に推薦しちゃいます。

(2016年ポプラ社1500円税別)

| | コメント (0)

2016年11月22日 (火)

小池浩『借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんが教えてくれた超うまくいく口ぐせ』

長いタイトルの本ですが、スピリチュアル系ビジネスサクセスストーリーとでもいいましょうか。

しかし、なかなか面白かったです。

宇宙の法則とつながって実人生を成功に導くというのは、オカルト的ですが、説得力もあります。五日市剛さんの法則とも似ています。

成功するものだともう決め込んで、結果に感謝するつもりで「ありがとう」と「愛している」を一日五千回唱えたりするというのは、実践するとしたらもはや単純なプラス思考を超えています。

でも、人間の想像力が現実を作りだしているという側面は確かにありますので、自分が原因となって自縄自縛になってところを解除してあげると、いいイメージを獲得できるというのはありそうです。

高校の同級生だった教育学の先生が「自爆解き録(ログ)」というものを考案したのを私も授業で使わせてもらっていますが、自分で自分を追い込んでしまってやるべきことがわからなくなった大学の新入生なんかにな特に効果的です。

私にとっては、言葉と思想と現実の結びつき方を考える上での好例をいろいろと示してくれる興味深い本でしたが、この手の問題を抱える人にはいろいろ参考になる点があると思います。

著者に邪悪な意図がなく、語り口も面白いので、悩める子羊は参考にどうぞ。

(サンマーク出版2016年1400円+税)

| | コメント (0)

2016年9月18日 (日)

養老孟司『「自分」の壁』

「“自分探し”なんてやめなさい」と表紙に書いてあります。
最近は言葉としてはあまりはやらなくなったかもしれませんが、

昔から悩む若者は多かったし、今もいると思います。
とりあえず大学に行ってみるかと思って入学してみても
見つかるものじゃないので、4年ないし8年悩むことになります。
でも、そういう人は悩むだけ意識も知能も高いんですよね。

で本書はそういう人に送る本かと思ったら、
もっと広く人生について、世界観について、
著者が考えてきたことがさらりと書いてあります。
というか、編集者が『バカの壁』と同じ人らしく、
読みやすくまとめられています。

著者の文章は結構読みにくいのですが、
読みやすい本には編集者の敏腕があったわけです。
ただ本書は『バカの壁』よりもかなり
著者自身のインタビューに基づいて作られていて
著者が言いたいことを思いっきり言った感じの
本になっています。

日本人の宗教的自由や思想的自由について指摘されていたり、
外部からのウイルスだらけの体内の話とか、
日本の合議制システムや能力による人材登用の話とか、
意識の外に注意する必要性とか、
ほかの著書でも言っている現代の参勤交代制の提言とか、
いろいろと慧眼が光っています。

『バカの壁』を読んで、今ひとつかなと思っていた人は
本書を読んでいただくと、少し見方が変わるんじゃないかと思います。

(2014年新潮新書740円税別)

| | コメント (0)

2016年7月 8日 (金)

高山正之『歪曲報道 巨大メディアの「騙しの手口」』

いつものように驚かされる情報が満載です。

特に3章と4章は諸外国の戦争プロパガンダの実態や、朝日新聞の記事捏造の歴史がわかります。

旧ユーゴスラヴィア紛争の経緯も、あ、そういうことだったのかという発見があります。こんなにわかりやすくていいのかと思うと、検証してみたくなります。

実際、著者はちゃんと出典を明示して論陣を張るので、気になる本や情報源はこれからフォローしてみようと思います。

とりあえず以下に列挙して備忘録にします。

ポンソンビー『戦時の嘘』
アンヌ・モレリ『戦争プロパガンダ10の法則』
楊海英『凶暴国家中国の正体』
ベバリー・アレン『戦術としての強姦』
筑摩書房『記録現代史 日本の百年 9』
「捕虜尋問リポート49」

(新潮文庫2015年520円税別)

| | コメント (0)

2016年7月 6日 (水)

島田裕巳『殺戮の宗教史』

宗教による殺戮の歴史を押さえておくのに有益な本です。

アルカイダやISが宗教的テロリズムを毎週のように行うようになって、イスラム教徒以外の人間はすべて殺すと言われてみたりするとは思いもよらなかったのですが、1997年のルクソール事件を思えば、事実はすでに先行していたのかもしれません。

本書は宗教史的事実を確認し、根拠となっている聖典の記述も丁寧にフォローしたありますので、一連の事情の正確な理解に役立ちます。

多神教徒を殺せと神が命じた箇所も、その前後を見てみると、いつでも皆殺しにしたというわけでないことがわかるように、著者はきっちりと引用してくれています。(94頁)

一神教について、著者は一神教だからこそ神が偏在すると見ています。

「神が偏在するということは、つねに神の存在は意識されているわけで、人の暮らしは神と無関係には成立しない。人の暮らしは神と無関係には存在しない。神は、人の暮らしを見守り、それを守ってくれる。だがそれは、日々神に縛られた生活を送っているということでもある。多神教と一神教とを対比させて考えたとき、この点での違いが大きい。それこそが決定的な差異であるとも言える」(129頁)

これはなるほどと思わされました。多神教というのは神様がたくさんいるようでいて、少なくとも今日の日本人の意識のうちには偏在していないようですしね。

その一神教の神は人間が逆らえばノアの時代の大洪水のようにいつでも人びとを滅ぼすことができますし、カナンの地に住んでいた異民族を全員殺せって命令してくるわけですから、神様の感覚が違い過ぎます。

キリスト教にはゾロアスター教やマニ教の影響で善悪二元論の影響力が影を落としており、これがまた悪魔を全て滅ぼすという動機になってしまいます。

中世ドイツの魔女狩りで犠牲になった人は人口の7%に上ったそうですから、そうやてみると今は統計上ははるかに幸せな、いい時代なのかもしれません。

そもそも、旧約聖書の十戒では殺すなかれと言いながら、他のところでは殺せと命ずる神様ってどうなのという疑問は当然出てきますし、著者は「ユダヤの同胞に対する殺人を禁じたもの」ではないかという仮説を提示しています(219頁)。

なるほどそうかもしれませんが、この辺りはC.S.ルイスが別のことを指摘していたので、今度論文にまとめるつもりです。

(東京堂出版2016年2,200円+税)


| | コメント (0)

2016年7月 4日 (月)

石井郁男『はじめての哲学』 ヨシタケシンスケ・画

ヨシタケシンスケの絵に惹かれて買っちゃいました。

本の内容に絡んで、絵本のように面白いことになっているんじゃないかと期待しましたが、気の利いた挿絵ではあったものの、あくまで挿絵でした。

本の内容は哲学者14人の伝記的事実を中心に描かれた入門書で、思想のエッセンスはちょっとだけ書かれているという、それはそれでユニークな入門書でした。

哲学者の伝記的事実は、たいてい世界の名著シリーズの巻末解説などを読む程度で、それ以上調べることもあまりないのですが、本書はその伝記から哲学に入っていこうというところがユニークです。

読んでいてあらためて勉強になることがいくつも出てきました。

ソクラテスの最後の言葉や、プラトンがソクラテスの死に際して「目がくらむ思いをした」と言っていたこと、デカルトの旅から度の人生、カントは旅をしませんでしたが、哲学の勉強には「旅行記を読め」と言っていたことなど、いろいろ考えさせてくれます。

ダーウィンやデューイがとりあげられているところもユニークでした。ダーウィンは人種差別を絶対に認めない人だっととか、デューイが社会の多様性とコミュニケーションを進歩の要因ととらえていたことなども、興味深い指摘でした。

(あすなろ書房2016年1,400円+税)

| | コメント (0)

より以前の記事一覧