プルスキ・アーゴシュト(1846-1901)
プルスキ家の先祖はプロテスタントのポーランド貴族で、カトリックが圧倒的多数のポーランドからハンガリーにいわば宗教的亡命をしてきたとされています。
アーゴシュトの父のプルスキ・フェレンツ(1814-1897)はハンガリーの1848年革命当時の国務大臣を務めた政治家でした。母のテレージア(1819-1866)はウィーンの銀行家の娘で、文才に秀で、後にエッセー集を出版しています。
アーゴシュトは四人兄弟の長男として生まれ、当時、両親が政治亡命中だったこともあり、ロンドンやトリノで高校までの教育を受けています。大学はブダペスト大学の法学部を終え、その後26歳で私講師になり、学究の道へと進みます。
1885年に当時の大学での講義録をもとにした『法と市民社会の哲学』を世に問い、1888年にはその英語版 The theory of law and civil society (1888, London) を出版しています。なお、この英語版は1979年にコネチカット州から復刻版が出版されています。
本書からは当時の法学部での講義内容が世界の諸民族の法や制度をも広く検討するものでもあったことが窺われます。これは直接的には、プルスキ自身が紹介してもいたH.S.メインの『古代法』やエミール・ラブレーの『原始財産』といった外国の著作が提示した問題を継承するものです。
この時期のハンガリーにはドイツの哲学や法学よりも、イギリスやフランスの諸著作が影響を与えていたことがわかります。
プルスキ自身の思想もまたイギリス経験論の流れをくむもので、同時に極めてユニークなものでした。それは、精神と物質とは、お互いに関係していて、影響も与え合うことはあっても、それは因果関係としてとらえられるものではないという考え方です。
精神と物質は並行関係にあり、同時に発展するものの、決して一方が他方の原因にはならないという立場を表明しています(『法と市民社会の哲学』)。
プルスキがこの点にこだわるのは、両者の間に因果関係を認めてしまえば、結局、結果となる事象は原因としての精神に還元されてしまうからで、そうなってしまうと、伝統的哲学的二元論の立場と変わらず、それでは社会科学の独自性がとらえられないとみたからです。
この考えは精神を物質に還元しようとする科学的立場(マルクス主義を含む)とも対立するので、後の教条主義的マルクス主義の立場からも蛇蝎のように嫌われることになりますが、これが、後のハンガリー法哲学派の思想的傾向を決定づける役割を果たしたことは確かです。
プルスキの影響があまり広範囲に及ばなかったのは、実は彼の書くハンガリー語の文章が難解で、容易に意味が取れなかったのも一因だったと、後に彼の講義を聴いたこともあるヤーシ・オスカールが述べています。どうやら喋る方はそうでもなかったようですが、亡命先での生育および教育環境がハンガリー語でなかったことが影響しているのかもしれません。お母さんもオーストリア人ですし。
もっとも、英語で書いたものはそれなりにわかるので、プルスキを理解するには英語が読めなければいけなかったということになります。その英語の本でも哲学的議論の優れたところは総論の本の2ページほどのところですから、これを全面的に展開させたものがあったらよかったのにと思う人は少なくないようです。
もちろん、プルスキのメッセージが後のハンガリー法哲学派によってしっかりと受け継がれて行ったことも確かです。それも、師弟関係の系譜の中で、体感的に受け継がれていったところがあります。
このあたり、もう少しきっちりと論文にまとめたいと思っています。
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