音楽

2018年9月25日 (火)

ブルースからジャズのアドリブ演奏へ(番外編2)

以下は短大のブログのために書いた記事ですが、スペースの関係で全部載らないこともありますので、こちらに全文公開しておきます。これをことわっておかないと、私が以前どこかに書いたものをブログに転載したと勘違いする人があるので念のため(って毎回書いているんですけどね)。

先回私が担当したブログ記事では、誰でもできるブルース即興(アドリブ)演奏について書きました。ブルース音階の5音(ペンタトニック)の音だけを使って、リズムに合わせて思い浮かんだ節回しに乗せて音を出してみると、誰でも驚くほどブルースらしい感じの即興のメロディーが作れます。

インターネットのYouTubeにはアドリブ練習用のいわゆるカラオケ演奏がいろいろ収録されていますが、たとえばハ長調の音階のC-Jam Blues のBacking Track などで検索をかけてみると、ジャズの伴奏の音源と和音進行の画面が何種類も出てきます。そこで、ド・ミ♭・ファ・ソ・シ♭を使って伴奏に合わせてまずは順番に音を出してみてください(リコーダーだとミ♭がちょっと押さえにくいのですが)。それだけで、それぞれの音がブルースらしい雰囲気を醸し出していることに気づかれると思います。その後、思いつきでいろんな節回しを試してみると、もうそれだけで即興演奏になります。
ハ長調のブルースは最も単純な和音では、ドミソ(C)、ドファラ(F)、シレソ(G)の3和音で成り立っていて(おそらくは教会の賛美歌に由来するものだと思われますが)、このブルース音階でアドリブ演奏できます。ブルース音階はどこをとってもそれなりにしっくり来るようになっていますので、試してみてください。

もともとは、アフリカから連れてこられた人びとがドレミファソラシドの歌を歌おうとしても、自分の出身地域の民族音階になってしまうというのが、西洋音楽とアフリカの民族音楽の異文化衝突だったのですが、これが新しい音楽ジャンルの誕生のきっかけになりました。ブルース音階では、ハ長調のミとシの音が半音下がったり、ファが半音上がったりしてしまうわけです。この音の並びによって、明るい和音の上に短調の物悲しい響きが乗ると、悲喜こもごもの人生を象徴するような独特の雰囲気が生まれ、いわゆるブルースらしくなってきます。

もっとも、実際のブルース演奏では、いかにもブルースらしい音を5音取り出したブルース・ペンタトニックがしばしば用いられます。先の5音階ド・ミ♭・ファ・ソ・シ♭もその一つですが、ジャズの教則本ではド・ミ♭・ファ・ファ♯・ソという5音階が載っています。シ♭の代わりにファ♯が5音におさまっていて、この音の並びもまた魅力的なブルースのメロディーを作ってくれます。私の場合はシ♭の不安定な音も捨てがたいので、ペンタトニックにこのシ♭1音を加えて演奏してきました。5音から6音で即興演奏をしたほうが、ヘンに間の抜けた音を出すリスクがなくなりますので、実演にも向いています。

実はこのブルース音階がなぜ絶妙にブルースの3コードに合ってしまうのかということについては、音楽理論的には説明が難しく、一冊の理論書ができてしまうほどです。しかし、理論はさておき、結果としてブルースらしいメロディーが即興的に演奏できることを体感していただけると、譜面どおりに演奏することに汲々とせずに、自分の中から出てくる歌心を表現するという音楽の基本に戻ることができます。

私は学生時代にテナーサックスを演奏して、キャバレーのバンドでアルバイトをしたりしていたことがあります。その頃の音楽仲間には一流の演奏家や作曲家になった人も少なくないのですが、その仲間が集って行ったジャムセッションで一度だけ共演したことのあるピアニストにその道では有名な西直樹がいます。彼は今もCDを出し、コンサートやライブ演奏に忙しく、日本のジャズシーンの第一線で活躍していますが、その彼がネットで音楽講座を開いていて、YouTubeでも見ることができます。

http://www.ne.jp/asahi/jazzpiano/naoq/

これは実に楽しく学ぶことができるおすすめの音楽講座なのですが、そこで、彼が提唱するアドリブ演奏法が、このブルース・ペンタトニックに一音加えたブルース・ヘキサトニック(6音階)です。ブルース音階がブルースだけではなく、いろいろな和音進行の音楽にも実は絶妙にハマることを応用した実践的な音楽理論・演奏法です。詳しくはURLからたどっていただきたいのですが、プルースの6音を以下のように、長調と短調の2種類選び出して、音楽理論的説明も加えられています。

   メジャー・ブルース・ヘキサトニック:ド・レ・ミ・ミ♭・ソ・ラ
   マイナー・ブルース・ヘキサトニック:ド・ミ♭・ファ・ファ♯・ソ・シ♭

 このマイナー・ブルース・ヘキサトニックは上に述べたように私も使っていたものですが、メジャー・ブルース・ヘキサトニックは新鮮です。特に6度のラの音がいい味を出してくれます。

これをブルースで演奏する場合は二つとも使えますし、たとえば、ジャズのスタンダードナンバーでも使うことができます。たとえば、デューク・エリントン作曲『A列車で行こう』はこの二つのヘキサトニックの音をそのまま使えますので、ブルースでアドリブが取れるようになった方は、是非もう一歩進んで、この即興演奏を楽しんでみてください。

以上の内容は今年11月23日の短大地域公開講座でも実演を交えてお話する予定です。お近くの方は是非足をお運びください。

2018年1月18日 (木)

番外編 誰でもできるブルース演奏

以下は勤め先のサイトに載せた文章です。こちらにも転載しておきます。
 皆さんは小学生の頃から、音楽の授業で楽譜の基本的な読み方を教わり、歌を歌ったり、リコーダーやピアニカなどの楽器を演奏したりした経験はあることでしょう。そこで教わるものは基本的に近代西洋社会で整備された、いわゆるクラシック音楽の技法です。そこでは楽譜に記されている音とリズムの記号を正確に解釈し、演奏することが求められます。
 この延長線上にあるのは西洋古典音楽の大家が作曲した作品を忠実に再現する芸術で、そこでは譜面とは違う音を出したり、拍子がずれたりすると、「間違った」演奏ということになります。そして、一流の演奏家は、古典的な名曲を、その複雑な旋律とリズムを正確にとらえるだけでなく、作曲家の思想までをも解釈して演奏します。
 西洋古典音楽はその演奏規則が確立し、一流の演奏家になるための練習法も段階ごとに体系化されています。実際、物心ついた頃からピアノやバイオリンのレッスンに通った、あるいは通わされた経験のある人も少なくないでしょう。その幼少期の天才少年少女たちの中からさらに選ばれたごく一部の人は職業音楽家または芸術家になっていくわけですが、もちろんそれはごく一握りの人に限られています。
 しかし、こうした一流演奏家を養成するような解釈学的プログラムだけが音楽だと思うと、音楽は演奏する者にとっては大変窮屈な修練の場となり、聴衆にとっては、一流演奏家の奏でる天才音楽家の作品をその思想とともに鑑賞する衒学的娯楽の場となってしまい、どうかすると、そこは何とも窮屈な空気が支配するところとなってしまいます。
 このように専門的に発展し洗練されていく中で、西洋音楽が一部の優れた演奏家が提供するアカデミックな芸術となってきたのは、歴史的に発展してきた文化の一つのあり方ではあります。今私の机の上にシェイクスピアの『マクベス』をヴェルディがオペラにしたシノーポリ指揮、ベルリンオペラ劇場オーケストラという名演奏のCDがあります。こんな豪華極まりない演奏はまずないといっていいくらいのものですが、それでもあくまで一つの音楽のジャンルにすぎません。
 この録音をプレゼントしてくれたオペラファンの友人は、オペラが演劇の『マクベス』を超えた感動を与えてくれると主張してやまないのですが、シェイクスピアをイタリア語で歌って英語の演劇の世界を超えるというのは私には今ひとつピンとこないところがあります。
 それはそうと、世界には様々な音楽がある中で、西洋古典音楽だけが真正の音楽芸術で、ポピュラー音楽や歌謡曲のような音楽ジャンルはこれより何段階か芸術性が劣る大衆芸能にすぎないと考える人がいるとしたら、それは当人の芸術に対する無理解を示すものでしかないでしょう。
 人びとの心を動かすという点では、西洋古典音楽も大衆音楽も違いはありません。ただ、大衆音楽は西洋古典音楽よりも敷居が低く、世界中で多くの聴衆を獲得しています。ロックやポピュラー音楽や歌謡曲などは、しばしばその歌詞とともに多くの人びとが口ずさみ、カラオケで歌うなどして親しまれています。
 こうした大衆音楽は、西洋古典音楽のように3歳から音楽教育を受けていなくても、極端に言えば誰でも多少楽器の奏法を覚えるだけでいきなり演奏家あるいは作曲家の側に立つことができます。若者が仲間とバンドを組んで自ら作詞作曲した音楽を演奏することは珍しくありませんし、オペラでフルオーケストラをバックに名曲を歌うような手間ひまをかけなくても、極端な場合はギターやピアノを用いて一人で弾き語ることができます。これにドラムとベースあたりを加えれば、もう立派なロックバンドになります。
 たとえば、ボブ・ディランの歌はオーケストラの伴奏がなくても、本人がギターを抱えて一人で歌うことができるわけですが、聴衆に伝わる音楽性あるいは文学性はそれだけでも十分です。そのディランのノーベル文学賞をめぐる様々な評論の中で、西洋中世の吟遊詩人の系譜に連なるものだという指摘がありましたが、確かに世界の諸民族の歴史をさかのぼると、一種の宗教的儀式にともなう神事芸能が起源となっていると言われています。そこでは詩と音楽、さらに踊りが一体となった劇的な表現形式が存在していた形跡がうかがわれます。
 この点では今日のロックやポピュラー音楽は伝統的芸術表現の系譜につながる側面を持っていますが、同時にその楽曲の形式という点では、和音の流れの中で曲を作るという西洋音楽の基本的枠組みの中に収まってもいます。そして、その原型は賛美歌のシンプルな和声の上にアフリカの民族音階が乗った12小節のブルースにあります。西洋音楽とアフリカの民族音楽の要素が溶け合ったこの新たな形式は、その後の音楽の発展の基礎となります。
 ブルースはたいへん入りやすい音楽形式です。楽譜が読めない人でもギターのコード、EとAとBという3種類の指の位置を覚えることで、とりあえず音楽にすることができます。EとAとBというのはギターの開放弦を利用するため、あまり多くの指で抑えなくていいということで、I度(ドミソ)、Ⅳ度(ドファラ)、Ⅴ度(シレソ)と覚えてもらうと、わかりやすいという人もあることでしょう。
 インターネットのYouTubeで、Robert JohnsonのSweet Home Chicagoという曲を検索してみてください。大変素朴な形のブルースが聴けます。この曲をブルース・ブラザーズやエリック・クラプトンもそれぞれ演奏している動画もありますので、聴き較べてもらうといいと思います。
 さらに同じくYouTubeでBluesとBacking Trackという単語を入力して検索をかけると、練習用カラオケの動画が沢山発見できます。コード進行が音に合わせて表示される動画もあります。この伴奏に合わせてド、ミ♭、ファ、ファ♯、ソという5音を入れてみてください。不思議なことに誰がどうやっても、それらしいブルースのメロディーを即興で奏でることができます。
 この5音はブルース・ペンタトニックと言われる音階で、先述のように、このアフリカ起源の民族音階がアメリカで西洋音楽の和声の上に乗ってブルースという音楽形式が生まれました。音楽理論的にはなぜこれが合うのか十分説明できないところがあるそうですが、印象としては、このペンタトニックは西洋音楽的に言うと短調のメロディーですので、I、Ⅳ、Ⅴの長調の和音に乗ることで、明るい伴奏の上に悲しいメロディーが奏でられるという複雑な味わいが生まれます。この音が悲喜こもごも、幸せも不幸せも次々と押し寄せてくる人の一生を象徴したような雰囲気が醸し出されます。
 少しでも楽器に心得のある人でしたら、このブルース・ペンタトニックを試してみてください。Eのブルースでしたら、小学生の頃買ったリコーダーでミ、ソ、ラ、シ♭、シ♮が指使い的には楽かもしれません。
 これに慣れてくると5音以外でもシ♭(リコーダーならレ)のようにしっくり来る音があることがわかってきますし、それで一層ブルースらしい気分を味わうことができるでしょう。できればⅤの和音は属7度を加えてみてください。そして言うまでもないことですが、楽器演奏だけでなく、思いついたメロディーに自由に詞をつけて歌うこともできます。
 毎日の仕事がつらい上に薄給で、家ではカミさんもうるさい、でも、子どもたちだけはかわいくてたまらない、みたいな内容を12小節を何度も繰り返しながら語っていくと、もう立派なブルース歌手、ジャズ歌手の誕生です。
 こうした創造的アプローチができるのが、ジャズに始まり、ロックやポピュラー音楽として発展してきた音楽ジャンルの特徴です。西洋古典音楽では姿を消してしまった即興演奏もここでは健在です。ジャズは即興演奏の技法をどんどん発展させて、これはこれで難解になりすぎた側面がありますが、やはり元はと言えば、この素朴な3コードのブルースが基本です。
 自由に音と歌を楽しむというのが音楽の本来のあり方です。ぜひ3コードのブルース演奏に一度挑戦してみてください。この創造的な遊びを実践してみることで、音楽以外の他の分野にも応用ができるような様々な気づきが得られることでしょう。

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